後夜祭
僕はアダマスを左腰に掛け、布を畳む。その後、木箱を開けた。しっかりと梱包された四つの包があり、赤色、黄色、多数、巨大と言う字が書かれており、何となく察した。
「ドリミアさん。多分これがお渡しする予定の大きなダイヤモンドです」
僕は巨大と書かれている包まれた箱をべニアさんに渡した。
「こ、これがダイアモンド……?」
べニアさんは箱を受け取り、重さから驚く。
僕は今日がミルの誕生日なので黄色と書かれた包を開ける。包の中にリングケースが入っていた。箱を開けるのは後。服の内側に隠しておく。赤色の方もリングケースが入っており、内ポケットに入れる。
「は、はは……。な、なんだこりゃ……」
べニアさんは包を開けた。するとダイヤモンドカットされた巨大なダイヤモンドが姿を現した。薄暗い通路の魔石の明りでも光を反射し超綺麗に見える。
「こ、こりゃあ、あのビオレータ様もたまげるな……。ありがとう、キース君。今年の一月に行われる勇者対抗戦の時、この品を献上品に持って行く。なんなら、その前にリーフさんに王を見てもらう。そうすれば、この品を出さずに済むかもしれない」
「リーフさんが治せなかったとしても発言を撤回してくれる可能性はありますね。発言が撤回されないのなら、宝石を渡さなければ良いだけです」
「ああ。穏便に話しが進めばいいな」
べニアさんは苦笑いを浮かべながら言う。
僕は多数と書かれた包を開ける。小さなダイヤモンドが八個付けられたたネックレスでなかなか高級が過ぎる……。僕はこんな品を付けるなんて出来ない。きっとミルやシトラも着けられない。じゃあ、アルブに付けるか……。
僕はネックレスを薄い入れ物にしまい、ウエストポーチに入れる。木製の箱に入っていた手紙を読んだ。
『馬鹿みたいにダイヤモンドを送ってきやがって、アイクの馬鹿弟子が。これだけ多くのダイヤモンドを加工したことが無かったからバカ楽しかった。楽しすぎて専用武器を作っちまったじゃねえか。馬鹿野郎。他の品も補助具にしてやったから感謝しやがれ。今回は特別に大金貨一枚で手を打っておいてやる。次はこれ以上の楽しさをくれなければ馬鹿みたいな額を請求してやるからな』
ドリミアさんは馬鹿を連呼し、これだけの品を作りながら大金貨一枚で仕事をしてくれた。なんて優しい方なんだ。気まぐれってほんとなんだな。どうやら僕はドリミアさんの気まぐれを上手く使えたらしい。
「じゃあ、僕は先に失礼します」
べニアさんに頭を下げ、隣を歩いていく。
「キース君。君はいつまでクサントス領にいるんだい?」
「そうですね……。後夜祭が終わったらフラーウス領に行こうと思っています」
「フラーウス領……。ルフス領に次いで治安が悪い場所に行くのかい?」
「えっとルフス領は思ったほど治安が悪くなかったですよ。なので、フラーウス領も行って見ないとどんな場所かわからないじゃないですか。良い場所か悪い場所かはこの眼で判断します。生憎、僕は勇者順位戦で三位のライアンに勝るとも劣らない実力があるので」
「はは、確かに。君ならチンピラに負けなそうだ。えっと、明日はクサントス領領主の屋敷で宴会がある。ぜひ、君にも出席してほしい。シトラさんやミルちゃんも連れてきてくれ」
「わかりました。ありがたく出席させてもらいます」
僕はべニアさんに頭を下げた。そのまま木製の空箱と布を持ち、歩いていく。ゴミ箱に荷物は捨て、手紙は一応取っておいた。ウエストポーチに保管しておく。
「ぷんぷん、ぷんぷん」
「ふふん、ふふんっ」
シトラとミルは大分違う表情をしていた。シトラは頬を膨らませ、ミルは満面の笑みだ。
「もう、なんで立たなかったの!」
シトラはやはり僕の行動に気づいていた。
「あの時は立てなかったんだよ。それだけだから」
「はぁ……。全く、なんでそう勝ち負けに興味が無いのかしら……」
「キースさん。お疲れ様でした。もう、すっごくカッコよかったです!」
ミルは僕に抱き着いて来た。
「ん? この白い剣はなんですか?」
シトラの腕に抱かれていたアルブが言う。
「これはルフス領の知り合いの鍛冶師さんが送ってくれた剣だよ」
「なるほど……。素晴らしい剣ですね」
アルブは僕の肩に乗り、頬擦りしながら言う。
「そうだね。僕の髪色と同じだ。配慮してくれたのかな」
僕達は闘技場の外に出た。するともうてんやわんや状態で、多くの者が至る所でエールを飲み後夜祭を楽しんでいた。この時間が終われば彼らの祭りは終わる。だからこそ、今、超楽しんでいるわけだ。
「さて、ミル。今日はどこに……」
「最高級の宿に行きましょう! あの超凄い料理が出るお店です!」
ミルはすでに決めていたのか、泊まる宿は決まった。先に宿を確保しておくため、高級宿に向かい、一番良い部屋を借りる。料理も一番高い品にしてもらった。
「後夜祭を楽しもうか。えっとえっと、ミルの誕生日とシトラの橙色武術祭の優勝、僕の橙色武術祭の優勝を祝う日だ。ほんと大変な日になっちゃったね」
「今から夜が待ち遠しいですー。もう楽しみ過ぎて今にもキスしたくなっちゃってます!」
「ミルはもう成人しているわけだから、いつしてもいいけど、場は考えようね」
「はーい。考えまーす!」
ミルは大きく手を上げ、笑いながら言う。
現在の時刻は午後五時。午後七時頃に夕食があるそうなので、街の後夜祭の雰囲気を楽しみに温泉街を歩く。
「後夜祭限定! 特大カレー! 安いよ安いよ!」
「後夜祭限定! 特大タコ焼き! 安いよ安いよ!」
「後夜祭限定! 特大お好み焼き! 安いよ安いよ!」
温泉街でさえ後夜祭一色に染まっており、至る所で特大料理が売られていた。あまりにも美味しそうだが僕達は食べなかった。宿での夕食があるのに、食べてしまうのはもったいない。
輪投げや弾当て、金魚すくいなど、遊べるところで遊びつくす。
二時間なんてあっという間に過ぎてしまい、王都の貴族も訪れると言う宿に戻って来た。
僕達は先にお風呂に入ることにした。綺麗な体で食事をしたいと思ったのだ。僕はライアンとの戦いでドロドロで汗まみれ。こんな状態じゃ、料理を美味しく食べられない。
僕はお風呂に入り、ミルとシトラも入って来た。体を洗い、綺麗な下着を履いて浴衣を着る。
ミルとシトラも浴衣を着こみ、個室の食堂に入った。畳張の部屋は井草のいい匂いがして大きなローテーブルが置かれており、四人分のフォークやナイフが置かれていた。
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