超勇者
「おらああああああああああああっ!」
ライアンの大振りな右拳が僕の顔面に打ち込まれる。だが速度になれてきたおかげか、魔力による感知が上昇し、回避に成功。右拳が左頬を擦過し、死が真横を通っていく感覚に近しい。
僕は右手を握りしめ、軽く引く。右手に魔力を溜めこみ、ライアンの前進している運動力と僕が打ち込む力の衝突が起こる。
「はあっ!」
僕はライアンの鳩尾に右拳を打ち込んだ。もちろん獣拳も同時発動。ライアンの体内の魔力をごっそり奪い、拳がめり込むほどの威力を与える。
「ごはあっ!」
ライアンは胃液を吐きながら、僕の強打による衝撃を受け、弾き飛ぶ。地面を何度も跳ね、停止後、初めて背中を付けた。どうやら、だいぶもろに入ったらしい。
息苦しそうに頭をもたげ、体を震わせながら立ち上がる。
「はぁ、はぁ、はぁ……。今の、めっちゃ効いた……。魔力も大分持ってかれたな……」
ライアンはふら付きながらも立ち上がる。笑顔のまま拳を握り合わせ、まだ戦う気満々だった。息をするのも辛いはずだ。なのに、あまりにも勇者っぽい。
「ライアンっ! 頑張れっ! ライアンっ! 頑張れっ!」
「ライアンっ! がんばれーーーーっ!」
「まだやれるぞっ! ライアンっ! ライアンっ! ライアンっ!」
会場にいる者達がライアンを応援する。会場に大量の橙色の魔力が湧き出ていた。
もう、辺り一面が橙色の魔力で溢れ、どこを見渡しても橙色のカーテンで覆われているような景色になっている。
「皆の応援が俺の力になるっ! ありがとうな!」
ライアンが叫ぶと、会場を包み込んでいた橙色の魔力がライアンへと流れ込んでいった。
「はは……、ありかよ……」
僕は思わずつぶやいてしまった。いったいライアン何人分の魔力が体の中に入り込んだのかわからない。
質の良い橙色の魔力をライアンはざっと八万人分受け取った。ライアンの体は魔力を受け入れ、魔力暴走することなく全て彼の力となる。勇者が勇者たる所以。それが今、僕の目の前で起こっていた。
「お前達の思い、受け取ったぜ!」
ライアンはもう、一日中『身体強化』を使っても魔力切れを起こさないほどの力を身に宿した。全身が光り輝き、瞳から橙色の魔力が漏れ出しているのか、神々しい。僕の無色の魔力を押し返すほどの橙色の魔力がライアンから発せられ、ここからが本当の戦いになりそうだ。
「ふぅ……。反則ギリギリだが、魔力は親和性の高い個体に集まるようになっている。キースが無色の魔力を常に吸い続けているように、俺も橙色の魔力に最も親和性が高い男だ。やっと対等ってところか」
「言っている意味は何となくわかるけど八万人の魔力を得るのは流石にずるいんじゃ……」
「この星を味方につけている奴がよく言うぜ」
ライアンは拳を握り、走りだした。先ほどの八万倍……は言い過ぎだが、あながち間違いじゃない。
「おらああああああああああああっ!」
ライアンの拳が地面に打ち込まれた。僕がギリギリで回避した結果だ。だが、巨大な半球状の凹みが生まれ、衝撃波で僕は吹き飛ばされる。
「くっ!」
闘技場の観客席にいる人々の髪が突風で靡き、桂が飛んで行く者もいる。
僕はあの拳に当たったら内臓破裂どころじゃないと悟った。
――魔力を吸い取ってもいいけど、八万人分は流石に多すぎる。あの攻撃を何発も回避できる気がしないし、殴られたら星になりそうだ。僕も一撃の威力を上げて、攻撃を確実に当てる。そうしないと負けるぞ。
僕は両手に魔力を溜めまくる。会場に広がっている無色の魔力を一転に集中させるように、凝縮し、ライアンの体が放つ光と同じくらいまで密度を高めた。
「良いねえ……。力と力の押し付け合い、最高だぜっ!」
ライアンも拳に魔力を送り、橙色の輝きを高密度に発生させている。
「『橙色魔法:グランスペア』」
ライアンは地面を殴りつけた。すると巨大な槍が地面から何本も突き出てくる。
僕は魔力視を利用し、魔力が集まっている部分から槍が来ると予測し、攻撃を未然に避けた。拳だけの攻撃かと思ったら十分すぎる遠距離攻撃をしてきており、僕は行動が制限されていた。
ライアンは生み出した土製の槍を引き抜き、射出。あまりに早い槍の攻撃が僕の顔を擦過。後方の地面に突き刺さると大爆発を起こしたかと思うほどの轟音が鳴り、突風で僕の体が前に飛ばされる。
ライアンの攻撃は全てが致命傷になりうる。そんな攻撃を遠くから放てるのだ。加えて魔力は未だに大量に残っている。攻撃を当てないと槍が一生飛んできそうだ。
――僕から攻めさせるように誘ってるよな。でも、乗らないと勝てない。ライアンの魔力が至る所にあってどこに魔法を仕込んでいるのかわかりにくい……。今の反射神経じゃ回避できないかもしれない。怖がっていたら駄目だ。攻めの姿勢が勝利につながる。ふぅ……、集中集中っ!
僕は両手で頬を叩き、ライアンに向って走り出す。すると、踏み出した矢先、地面から土で出来た槍が射出される。だが、ひるんでられない。槍の穂先が見えた瞬間に攻撃が来る場所を予測し、紙一重で躱していく。
攻撃が擦過し、冒険者服が裂けたり、肉が抉れたりするが、外傷は治っていくので問題ない。踊るように攻撃を回避し続け、ライアン間近まで追い詰めた。握り拳をライアン目掛けて打ち付ける。
「ふっ、いい拳だが今の俺には届かないぜっ!」
ライアンは僕の拳を片手で受け止め、獣拳すら顔を傾けながら躱し、手首に持ちかえる。そのまま、流れるような体さばきで僕の体を投げつけてきた。
僕は空中に浮き、拳が届かなかったことに困惑していた。ここからどうやって倒せばいいのか見当がつかない。
僕は何か攻略の手がかりが無いか考えるも、一向に思いつかない。例え槍の攻撃を掻い潜ったとしても拳が届かないのでは意味が無い。なんなら、今のライアンなら、ずっと神速を使っているだけで僕は倒されそうなのだが、それだと面白くないと言わんばかりに彼は腕を組みながら待っている。
ほんと優しいのか鬼畜なのかわからないが、彼も本気だと言うことはひしひしと伝わって来た。勇者の最終形態とでも言える領民からの魔力を受け取った長い間魔力が尽きない超勇者。そんなライアンをどうやって倒せと言うんだ……。そんなことを思っていたら、体が何かにぶつかり、停止した。
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