ライアンとの殴り合い
「ふぅ……。準備運動もころあいか。んじゃあ、そろそろ本気で行くぜ!」
ライアンは体勢を整え、拳を構える。
魔力視で彼の体を見る限り、橙色の魔力が臍下から全身に移動している。
「『橙色魔法:身体強化』」
ライアンは気持ちが上がって来たらしく『身体強化』を使用した。『身体強化』を使用しないと僕を倒せないと判断したらしい。
――なら僕は『身体強化』をしたライアンの攻撃に僕の攻撃を加えればいい。上手くいくかわからないけど、勝つために必要なことは体力と魔力を奪いきること。
僕はオリーザさんのような戦法で戦うしか、ライアンに勝つ方法が思いつかなかった。
魔力操作でライアンの体から魔力を吸い取り、体が動かなくなるまでジリ貧の戦いを強いられることとなる。その間に僕が倒れなければの話しだけど。
「橙色の勇者、ライアン・ハートフル。本気で行かせてもらう!」
「本気で来られると、どうなるか想像がつかないから、出来るだけ……」
喋っている僕の目の前にライアンの拳があった。目の前に死が迫ってくる。そう思ったころ、顔に拳が打ち込まれた。
地面に打ち付けるような一撃で顔が大地に埋もれ込む。加えて爆発が起こり、殴られる威力と合わさって、威力が桁違いに上がっていた。
僕じゃなかったら死んでいるんじゃないかと思うほどの一撃で、意識が飛びかける。でもライアンの体が近くにあるため、僕も攻撃を打ち込む好機だと思い、右手をライアンの体に当てた。続けて獣拳が飛び、無職の魔力がライアンの体を突き抜ける。
「ぐはっ!」
ライアンは僕の拳と獣拳で弾き飛び、僕のもとから離れた。
僕はひび割れた地面から起き、ライアンの攻撃に集中する。『身体強化』をしたライアンの動きは魔力視でも捉えることが出来ず、攻撃がいきなり飛んできた。いきなり飛んできたんじゃ、防ぎようがない。もう、攻撃を受けてからこっちの攻撃を当てると言う我慢比べをするしかなかった。
「はあっ!」
ライアンは声を出し、僕の横腹に蹴りを放っていた。早すぎて本当に何も見えない。
「くっ!」
僕は防御する暇もなく、脇腹にライアンの脚を食らい、左側に弾き飛ぶ。地面を何度跳ねたかわからないほど転がった後、分厚い石壁に衝突。
破壊音と同時に闘技場の試合場を囲う壁に巨大な罅割れが生じ、空気を大きく震わせた。どんな火力なんだと思いながら、体の状態を見る。肋骨は完全に折れている。何なら臓器も破裂している。だが、大量にある無色の魔力の影響なのか、自己回復能力によって傷が消えていた。
――普通なら完全に死んでる。やっぱり、実力の差は大きいな。
命綱である『無傷』を消した途端、僕はライアンに何度殺されていただろうか。数えたくない。
ライアンは僕が吹き飛ばされている間、魔力の放出を押さえ、なるべく長い時間『身体強化』をしていられるように身を保っていた。
攻撃を受けてからカウンターを決めようにも警戒されているせいで、無暗に攻撃してこない。僕はライアンほど速く走れないので、追いつけない。そうなると相手に攻撃させなければ、僕はライアンに勝てない。
僕は石壁から出て試合場の中に戻る。場外という負け筋が無いので今のような攻撃を食らっても問題ない。
体の回復はすでに終わっているが、ライアンに僕の攻撃をどうやって当てようか考えながら戻る。
試合場に足を踏み入れた瞬間、目の前に拳が現れ、先ほど開いた壁の穴に再度打ち込まれる。何なら、その壁にいる僕に飛び蹴りを打ち込んでた。鳩尾に踵が入り、肺の空気が全て吐き出され、息がしずらくなった。息を止め、無呼吸運動に切り替える。
ライアンは壁を蹴り、試合場に戻る。
僕は殴られ蹴られ、痛み付けられても無傷で壁から出る。すると、会場から歓声が上がった。どうやら皆、僕がライアンにやられたと思っていたらしい。
「魔力量が多いから、魔力を内側に秘め、なるべく漏らさないようにしていたけど、感知することもできないんじゃ、勝負にならない」
僕は服装の乱れを正し、魔力を解放しながら試合場に脚を踏み入れる。するとドッシャンという重苦しい空気が闘技場全体を包む。巨大なドラゴンの股下にいるような重圧が掛かった。会場は騒然し、身を震わす者すら現れる。
「ははっ……。やっぱりただ者じゃないなっ!」
ライアンは楽しそうに笑い、拳を握り合わせていた。
「僕の方もただ殴られて終わるのは癪なので、今出せる全力で行きます」
僕は魔力を体の周りに纏わせ、少しでも揺らいだらライアンの攻撃が来ると瞬時に動けるよう、身構える。魔力による身体能力の向上と、感知能力の上昇を得る。
「ふっ!」
ライアンが動いたのと同時に僕も動く。
「はあああああああああああああっ!」
僕とライアンは拳を握り合わせ、顔面を殴り合う。僕の顔とライアンの顔は弛み、振動による衝撃をもろに受けた。当然のように弾き飛ぶ。だが、相手は勇者だ。顔を殴られただけでは有効だにならない。なんなら、笑っていた。
僕は空中ですぐに体勢を立て直す。地面に手を当て、吹き飛んでいる速度を少しでも遅めたのち、両足で着地。
魔力視で辺りを見渡し、ライアンの残影を追う。後方の魔力が揺らぎ、振り返りぎわに回し蹴りを繰り出す。
「ぐふっ!」
ライアンの拳が顔に当たったころ、僕の脚も彼の顔に当たった。またしても互いに弾き飛ぶ。両者の一撃の威力が高く、会場は騒然。
一撃一撃が通常の人間なら致命傷になりうる攻撃を打ち合っているのだ。地響きかと思う轟音が超速で動く僕達の戦い中に幾度となく発生していた。
外側から僕達の戦いを見ていないので、わからないがライアンの速度が見えているのだろうか。なんなら、僕の動きも見られていないかもしれない。
「ははははっ! こりゃ、痺れる戦いだなっ!」
ライアンは地面に靴裏を付けた瞬間に神速になり、僕が体勢を立て直す前に拳を放ってくる。もう息つく暇もない。
連続攻撃を受けたら、気絶待ったなしだ。
そのため、体から魔力を放出し、体勢を無理やり整えると言う魔力操作を完璧に行わないといけない。
――くっ……、集中力が否応にも削られていく。
失敗したら大きな隙になり、ライアンの連続攻撃を受ける羽目になる。
『身体強化』は燃費が悪い。もう、五分以上使っている。ライアンの魔力量が多いとしても何時間も使っていられる訳じゃない。
ライアンは『身体強化』を切って発動してを繰り返し、魔力量の消費を押さえているようだが、全開の状態が続く時間は精々一五分が限界だろう。
長く見積もって三〇分。僕からの攻撃を受ければ魔力吸収に加え、防御に他の魔力が使われるため、時間が減る。すでに何発も打ち合っているから、ライアンの体からは相当な魔力が失われているはずだ。
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