勇者とどう戦うか
「な、なんで殴るの……」
「ごめん、でも、殴らざるを得なかった。なんで、私を置いて行ったの。仲間でしょ」
「いや……、シトラは他の者の救助をしてもらおうと思って……。疲れてるだろうし、危険に陥ってほしくなくて」
「なによ。だからって置いて行くことないでしょ。待たされる方も辛いんだからね」
シトラは顔を顰め、今にも泣きそうな口調で言う。
「ごめん、シトラ。ちゃんと話してから行くべきだったね。勝手に行動して悪かった」
「無事に帰って来てくれたから良かったものの帰ってこれなかったらどうするつもりだったの。私一人置いて死ぬなんて絶対に許さないから……」
「もちろん、シトラを置いて死ぬなんてありえない。だから、安心して」
僕は立ち上がり、シトラを抱きしめた。彼女は僕にぎゅっと抱き着き、尻尾を振る。
「ライアンが返って来たら、明日、試合をするらしい。今日はゆっくりと休むからシトラとミルは後片付けとか、後夜祭の準備とか、手伝えるところを手伝ってあげて。ミルは時おり休んで体力が枯れないように調節して」
「わかりました!」
ミルは頭を大きく動かした。
「じゃあ、アルブ。建物の下敷きになっている人たちとかを助けてあげて。皆、救出してようやく復興が始まるんだ。だから、助けられるだけ助けてあげて」
「わかりました。主の分も、しっかりと働いてきます」
アルブは飛び、人ががれきの下敷きになっているもとへ向かう。多くの者が慎重に行っていた作業をアルブは前足で触れ、がれきを持ち上げた後、人を咥え、あっと言う間に救出した。
その姿を見て問題ないと思い、僕は一人で温泉に向かう。疲労がたまっているであろう体を解し、蒸し風呂で気を緩める。
お風呂から上がった時に気づいたが、僕は周りが救助活動を行っている中、おめおめとお風呂に入り、疲れを癒していると言う状況に気づき、やるせなさがこみ上げてくる。
今日、一晩寝れば体力は回復するはずなので、被害地に戻り、人々の救出作業を手伝った。
シトラとミルに少々呆れられたが、一日中、僕は魔力視でがれきの下敷きになっている人々を見つけて救出し、無傷で治療、を繰り返していた。
八月三○日の夜まで救助活動が行われ、がれきの下敷きになっていた者は全て救出された。
その後、べニアさんは後夜祭の準備を始め、至所に屋台が並ぶ。救助活動が終わった後、僕はすぐに家に帰り、お風呂に入った。まさか、ミルの誕生日と戦いの日が被るとは思わなかった……。まあ、仕方がない。明日はライアンと全力で戦うだけだ。
ライアンは光みたいに超速で動くからな。あの動きをどうやって攻略するかによって勝敗が決まってくるだろう。試合は時間制限無し、場外も無い。そうなると降参か倒れるかのどちらかしかないわけか。でも、長期戦に持ち込めば、僕の勝機はぐんと上がる。
逆にライアンは瞬間に決めてくるはずだ。僕の戦いを何度も見ているはずだし、初手から超火力を飛ばしてくると予想しておけば、速攻で倒されることは無い。
僕は耐久力だけは馬鹿みたいに高いから、死ななければ問題ない。
僕はライアンの対策を考えながら眠りに落ちた。
次の日の朝。
「はぁ、はぁ、はぁ……。キースさん、キースさん……。早く起きてください。起きてくれないとぼく、キースさんに熱い熱い口づけをしちゃいそうです」
「うう……、ああ。ミル、おはよう。あと、誕生日おめでとう」
僕はミルに両頬を挟まれるようにして起きた。目の前の金髪猫族の尻尾がうねりまくっており、鼻息が荒い。
シトラがミルの体を止め、一体何をしているのかわからない。とりあえず、僕は上半身を起こす。
「ありがとうございます。今日でぼくはついについに一五歳になりました! お酒も飲めますし、キスも出来ます! なんなら子作りだって出来ちゃいますよ!」
ミルは朝から気分が高かった。今の時刻はまだ午前四時頃。試合開始時刻の午前八時までまだまだ時間がある。
「もう、ミルちゃん。朝早すぎだって。キースはまだ寝てていいから」
シトラはミルの両脇に腕を入れ、取り押さえるようにして持ち上げる。
「目が冴えたから、起きるよ。シトラは朝食の準備をして。ミルは僕と肩慣らしだ」
「はいっ!」
ミルは大きな声で返事をした後、服を着替えた。
僕も冒険者服に着替え、裏庭に出る。準備体操をしたのち、ミルと軽く打ち合って朝っぱらからの試合に備える。
クサントス領の多くの者がライアンの勝利を願っている中、僕は彼に勝ちに行かなければならないと言う何とも不遇な存在だ。
でもライアンはフレイよりも断然常識人で、面識があり、彼はプルウィウス王国の中で三番目に強い人間だ。彼にスキル無しで勝てれば、多くの者に負けないと言う照明になりうる。
なんなら、僕は勇者順位戦第二位のフレイもスキルありきで倒しているのでライアンに勝てば、残すは藍色の勇者のみとなる。まあ、そんなうまい話しではないが、そう考えても遜色ないくらいライアンは強い相手と言うことだ。
「ミル、ライアンはどう来ると思う?」
「そうですね。ライアンは初っ端から戦える人間じゃないと思います。徐々に熱を上げて最高潮に達する戦い方の可能性が高いので、先制攻撃を仕掛け、体勢を崩したところに強烈な一撃を打ち込むと言うのが、良いんじゃないですかね。まあ、ぼくの憶測なので、どこまで正しいかわかりませんが参考にしてください」
「ありがとう。確かに、ライアンは初っ端から力が出せている気はしないな。すこしずつ闘志を燃やし、勢いを乗せてくるわけか。その間に倒すか、体力を奪いきったら僕が勝てる可能性がある。でも、勝っていいのかな?」
「いいんじゃないですか。八百長なんてしても熱い戦いにならないと思います。キースさんも全力を出して戦える相手なんて中々いないですし、楽しめばいいじゃないですか」
「それもそうか。ライアンなら本気で戦っても死ななそうだ。じゃあ、僕も強くなるために、自分の力を最大限引き出して戦うよ。僕が勝ったらミルとシトラにキスする。ライアンが勝ったら、キスしない」
「ええええっ! そ、それなら、キースさんが勝ったらぼくたちにキスしていい。ライアンが勝ったらぼくたちがキースさんにキスしていいと言うことで!」
「それじゃあ、ご褒美の意味が……」
ミルがごねるので、勝っても負けてもキスすることが決まり、キスするか、されるかの違いとなった。どうせなら、男らしく自分からするべきだろう。ミルの誕生日に勇者に勝利したと言う証拠を送ろうか。
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