増える黒い個体
ライアンははきはきと呟いた。
僕は何かやばいことが起こっているのかもしれないと思い、全力でクサントスギルドまで走る。
クサントスギルド周りに大量のマクロープスがおり、行く手を阻んだ。
クサントスギルドから橙色のマクロープスが出てきて、死んでいる黒色のマクロープスを抱いていた。腕、脚、頭、の六ケ所を千切り、周りのマクロープスに投げる。
すると、黒い個体の肉を通常色の個体が食べだした。すると、橙色だったのに、体が黒くなっていく。そんな簡単に黒色のマクロープスを増やされてたまるか。
だが、僕が駆け付けた時には新たに六体の黒色マクロープスが誕生した。死体を食べ、黒色になるなんて。でも、黒色になった個体はまだ変化して間もない。馴染む前に倒せば……。
「神速!」
僕の隣を稲妻以上の速度で駆け抜けたのは橙色の勇者こと、ライアンだった。
黒色のマクロープスの首の骨を降りながら進み、クサントスギルド前に移動するころには六体全ての黒色のマクロープスを倒していた。
まだ体が馴染んでいなかったせいで、物理耐性を持っていなかったらしい。でも、仲間が死んだ途端、他の仲間が黒い個体を食べ始めた。
「やばいやばい! さすがに、やばい!」
黒色のマクロープスを食べた通常個体がどんどん黒くなっていく。ざっと八〇体ほどおり、全てが黒色のマクロープスに変化した。このまま、散らばったら、クサントス領が危険にさらされる。早く倒さないと手が付けられなくなる。そうなったら一巻の終わりだ。
「神速っ!」
ライアンはあまりに早い速度で移動するも四方八方に逃げたマクロープスを全て倒しきることは出来なかった。今から、また黒いマクロープスの討伐が始まるのか……。
僕は骨が折れる仕事だと確信した。
ライアンは神速を使ったあと、相当疲れるらしく、ゼエゼエハアハアと息を吐きながら何度も多用した。制御が出来なくなり、壁に衝突したり、マクロープスを見失ったり、何度も使えないということがわかった。
地道に倒していくしか駆除する方法が無いのだが、駆除する個体が全て黒いマクロープスになるなんて聞いていない。聞いていないが……、やるしかない。
「アルブ。僕に黒いマクロープスの位置を教えて」
「了解です」
アルブは空を飛び、マクロープスがいる場所に飛んで行く。
「べッべッべッベッベッベッベッ!」
八体の黒いマクロープスが攻め込んできた。
「くっ! 数で攻めてきた。でも、物理攻撃しかないなら、僕は倒せないよ」
黒いマクロープスが八方向から攻撃してきた。バラバラの動きで連携は取れていない。
僕が飛んで交わしても他の個体が次々に襲い掛かってくるのが目に見えた。ほんの少しずれている個体を触り。行動できないように魔力で押しつぶす。
八体のマクロープスは地面にへばりついていた。八体の首にナイフを突き刺し、首を切る。
「アルブ、食べつくして」
「了解です!」
アルブは八体のマクロープスを食い尽くす。食欲が物凄くよく、あっと言う間に食べ終わっていた。
僕達は一体一体確実にマクロープスを駆除していき、合計七二体倒した。
全て僕に触れた瞬間、地面に叩きつけるようにしながら倒したので、僕の力で倒したというより、アルブが倒したと言ったほうが正しい気がする。
ライアンが倒した個体数を入れれば、全て倒しきっただろうか。朝八時頃に壁が壊され、現在の時刻は午後四時。
もう、八時間以上戦っていることになる。
マクロープスは見かけなくなり、悲鳴も感じない。壊された壁は橙色魔法で直され、簡単に入ってこれなくなった。
八月二九日……、橙色武術祭最終日が不完全燃焼で終わり、多くの建物が壊され、行方不明者を出した。
クサントスギルドも多くのマクロープスの襲撃を受け、倒壊。
行方不明を捜索する作戦が急遽決行された。だが、犠牲者が増えるばかりで、手が付けられない状態になっていた。
ライアンは休息をとり、他の冒険者達は半分戦意喪失していた。
マクロープスと言うCランクの魔物が黒色の個体が現れただけで手が付けなくなっていた。
ブラックワイバーンより一個体の力ははるかに弱いが、数が集まり、死体を食べると進化してしまうのはあまりにも分が悪い。
黒色の個体が一体でも残っていたら鼠のようにあっという間に黒い個体が増えてしまう。今、黒い個体が何体いるのかもわからないし、どれだけの女性が攫われたかわからない。
「キースさん、夜中に森の中をうろつくのは危ないですよ。敵はただでさえ黒いんですから、暗闇に隠れられたら、普通の人は見つけられません」
多くのマクロープスを狩っていたミルは僕の後ろにつき、歩いている。
「でも、早く見付けないと、殺されるかもしれない。多くの人をさらったのなら隠す場所も限られてくる。人が騒いでいたら声が聞こえるはずでしょ」
「そうですね。ぼくは夜目が利きますし、小さな音も聞けます」
今夜の天候は晴れ、ミルの五感を全て使って攫われた人族を見つける作戦に『名無し』のパーティー名義で出動した。
ただ、他の冒険者も夜中に森の中を探し周り、行方知らずになっている。
敵の攻撃があると考えて間違いない。
僕は常時魔力視を使い、マクロープスの黒い魔力を感知する。
完全に真っ黒ではなく絶妙に橙色も含まれているので、夜中でも比較的安全に移動できる。木や岩は無色の魔力が流れており、白っぽく見えるので、暗い森でも明り無しで移動できた。
ミルと手を繋いで『無視』も発動し、敵から認識されなくなる。手を繋がなくても、無色の魔力しか持たないミルは僕を認識できる。ただ、それでも意識をしていないと見えなくなるそうなので、手を繋いでる。
「…………ん、何か聞こえる」
ミルは耳を動かし、当たりを見渡した。
「キースさん、付いて来てください。パンパンと言う音がします」
僕はミルに連れられて洞窟の前にやって来た。
マクロープスが当たりの警戒をしているかと思えば、交尾の真っ最中だった。ものすごく倒しづらいが、魔物の数が増えるのは困るので、不意打ちで倒させてもらう。洞窟の周りにいたマクロープスは全て倒し、アルブに食べてもらった。
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