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三原色の魔力を持っていない無能な僕に、最後に投げつけられたのがドラゴンの卵だった件。〈家無し、仕事無し、貯金無し。それでも家族を助け出す〉  作者: コヨコヨ
第三章:橙色の領土。クサントス領

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三対一

「な、なになに! 気持ち悪いって!」


「べッべッべッベッベッベッベッ!」


「くっ……、ち、力、強い……、体、拉げちゃう……」


 マクロープスはティナさんにぎゅっと抱き着き、行動を止めていた。ティナさんの方も『身体強化』をしているはずなのだが、拘束から全く抜け出せていないのを見るに、力負けしているのだろう。


「『無視』」


 僕はマクロープスの視界から消えた。足音を殺し、走る。マクロープスの背後を取ったら、ミルが行うように、両腕でマクロープスの頭を固め、首を折る。


「べベッツ!」


 マクロープスの首が折れ、脳からの伝達が体に伝わらなくなり、人形のように地面に倒れた。


「はぁ、はぁ、はぁ……。な、なに、い、いったい何が起こったの……」


 ティナさんは僕のことに気づいていなかった。『無視』を解除し、彼女の体に異常が無いか聞く。


「ティナさん。体の方は大丈夫ですか?」


「え? き、キース君。いつの間に……」


「今、到着しました。ティナさんが混乱していたので、話しかけたんですよ」


「そ、そうなんですか。じゃあ、この黒いマクロープスはいったい誰が……」


「た、たぶん、ライアンが目にも止まらぬ速度で助けてくれたんじゃないですかね……」


 僕はあまり目立ちたくないのでライアンの手柄にしようとした。橙色の勇者なら可能かもしれないという考えを持ってくれればいいのだが……。


「そうなんですか。確かにライアンなら、出来てしまうかもしれませんね。ほんと、格の違いを見せつけられた気分です……」


「はは……、えっと、体の方は大丈夫ですか? マクロープスに強く抱きしめられていたようですけど」


「た、たぶん問題ないと思います……。っ!」


 ティナさんが立ちあがろうとすると、体の節々で痛みが起こったらしく、苦い表情をした。


 僕は彼女を抱き上げ、さりげなく無傷で回復させておく。


「ちょ、ちょ、キース君、いきなりお姫様抱っこは心臓に悪いよ!」


「マクロープスは女性を狙っています。闘技場に送りますから、じっとしていてください」


 僕はティナさんの体を強めに抱いた。そのまま、闘技場まで走る。闘技場内にはクサントス領の住民が集まっており、不安がっていた。


「ティナさん。安静にしていてくださいね」


「キース君。黒い個体には気をつけて。あいつら、普通の個体より何倍も強い」


「はい、わかっています」


 僕は闘技場から離れ、残り三体の黒色マクロープスのもとへと受かった。アルブが飛んで行った先は敵が侵入してきたと思われる北東の方角だった。加えて城門に一番近い位置。こんな場所に黒いマクロープスがいるのか。


「おらあああっ!」


 ライアンは一〇〇パーセント橙色の魔力を身にまとい、黒色のマクロープスを殴り飛ばす。


「べッべッべッベッベッベッベッ!」


 ライアンは三体の黒色マクロープスの内、一体のマクロープスを殴り飛ばしたが、残りの二体が援護に回り、殴られた個体を救出する。


 ライアンは黒色のマクロープスを一人で三体も引き受けていた。一体でも倒すのが困難なのに、三体同時に相手をするなんて、簡単にできる芸当ではない。


「べッべッべッベッベッベッベッ!」


 マクロープスはライアンを囲み、三対一で優位に戦っていた。ライアンは一対一で戦いたいのに、マクロープスは上手い連携で三対一の体勢を崩さない。

 そのせいで、ライアンは殴られ放題だった。


 逆にライアンが黒いマクロープスを殴っても致命傷にならず、空中で威力を殺されてしまう。打撃耐性を持っていると考えるのが普通だ。


 ライアンの拳を食らってタダですむわけがない。打撃耐性を持っている魔物三体に拳のみで戦っている姿はカッコいいものの、致命傷を与えているわけではなかった。


 致命傷を与えなければ倒せる相手も倒せないので、斬撃での攻撃が有効なのに、ライアンは打撃以外を一切使わない。


「ライアン、黒色のマクロープスは打撃耐性を持っている。拳じゃなくて斬撃の方が効果があるよ」僕は後方からライアンに声を掛けた。


「キース! すまない、俺は斬撃系の攻撃が使えないんだ!」


「そ、そうなの。じゃあ、僕が一体ずつ着実に倒していくから引き付け役をお願い」


「了解した!」


 ライアンは首を縦に振り、マクロープスへの攻撃を控え、防御に徹する。マクロープスの方も、攻撃手段が拳と蹴りの打撃しかないので、ライアンの受け流しと相性が悪い。防御だけに集中したライアンは硬く、黒色マクロープス三体の同時攻撃でも崩せていなかった。


 僕はライアンに夢中になっているマクロープスの背後に近づき、首をフルーファで切り落とした。攻撃が当たれば、フルーファの切れ味に敵わず首が飛ぶ。


 一体減るだけで、ライアンの防御力が一気に向上し、軽いカウンターも織り交ぜられるようになった。顎にカウンターを食らったマクロープスは足がふらつき、攻撃できずにいたので、首を切って倒す。


「あと一体。ここまでこれば、こっちのもんだぜ!」


 ライアンは黒いマクロープスの顔や首、胸などを殴り続け、ふらふらになったところで首の骨を折るために右手をハンマーのように振りかざして首を折った。


「ふぅ……。疲れた疲れた。これで終わりだと良いんだが……」


「そうだね……」


 黒いマクロープスを八体全て倒したのに、不穏な空気が消えていなかった。


 僕達は通常個体を倒しに向かおうとした。黒いマクロープスの魔石は回収しているが、死体がいつの間にかなくなっていた。


「な……。死体が無い……」


 僕は何か嫌な気分を得たが、体を黒色に染めたアルブがいた。


「モグモグもぐ……」


 アルブは口を膨らませ、黒色のマクロープスの死体を食べていた。


「アルブ、思ったんだけど、魔物が魔物を食べたら強くなったりするの?」


「そうですね。簡単に言えば、魔力が高い個体を食べたら単純に魔力が体に蓄積されて強化されます。私もたくさん食べて大きくなろうとしている真っ最中です」


「…………通常のマクロープスが黒色のマクロープスを食べたらどうなるのかな」


「そりゃあ、橙色の魔力に黒色の魔力が混ぜ込まれたら体はあっという間に黒くなると思いますよ。黒色の魔力はそれだけ強力なんです。私は無色なので全く効果はありませんけど」


「今までの死体って、どうしてきた?」


「私は主が魔石を抜き取った後、食べていましたよ。この三体を食べれば八体になります」


「なら、よかった。これでもう、クサントス領に黒いマクロープスの死体はないね」


「ん? 黒いマクロープスの死体ならギルドが管理している個体があるだろ」

最後までお読みいただき、ありがとうございます。


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