行動の理由
「一気に蹴り飛ばされた。走る速度はあっちの方が早いんだよな……」
「べッべッべッベッベッベッベッ!」
僕が口もとを伝う血を拭うと、背後に移動した黒色のマクロープスが蹴り掛かって来た。足元の家を粉砕するほどの威力があり、咄嗟に屋根に触れ、家屋が潰れないよう無重力を使う。
「人の街にいきなりやって来て何が目的なんだよっ!」
僕は叫びながらフルーファを真横にふるう。黒いマクロープスに避けられるも、風圧で吹き飛ばした。
そのうちに壊れかけている建物内に魔力視で見る。人がいないか確認したのち、無重力を解いた。家屋が崩れ、足場が下がる。
「うわあああああっ!」
「きゃあああああっ!」
街の人びとの悲鳴が聞こえる。思ったよりもマクロープスの被害が出ているのだろうか。
「ミルとシトラは無事かな。早く黒い個体を倒して皆のところに行かないと」
僕は魔力視で、濃い魔力を持った個体の動きだけを見て、対処する。触れば勝ちだ。こんな緊急事態に使える力を出し惜しみしている場合じゃない。
僕は黒色のマクロープスにわざと隙を見せる。すると……。
「べッべッべッベッベッベッベッ!」
黒いマクロープスが罠に掛かり、攻撃してきた。
急所の顔面を狙い、殴りかかってくる。僕は黒色の黒色のマクロープスが殴りかかってきた瞬間に手を掴み、無重力を発動。敵の進行方向を空に向け、思いっきり投げる。
「べッべッべッベッベッベッベッ!」
マクロープスは僕が投げた速度を保ったまま、空に飛んで行く。どこまで飛んで行ったかわからないが、超上空から重さ八〇キログラムを超えるマクロープスが落ちたら、さすがにただじゃすまない。そもそも、落ちてこないので、人に害を加えたりしないだろう。
解除した時、下に人がいる危ないから、上空の早い気流で海当たりに流されて落っこちてくれると助かる。
「よし、黒い個体を離脱させた。あと七体に触れて行動できなくすれば、被害を押さえられる。通常個体は倒し回った方が良いか」
僕は残り七体の黒いマクロープスを探す。
「はああああっ!」
「べッべッべッベッベッベッベッ!」
ミルは黒色のマクロープスと交戦しており、以前よりも各段に速度と威力が上がった拳を打ち込んでいた。
マクロープスは近距離戦を挑んでもミルに攻撃が一切当たらず、逆にカウンターを食らいながら地面に倒れる。もう、僕より強いのでは……。
「よしっ! ぼくも強くなっている。少しは役に立てたぞ!」
ミルは握り拳を作り、背後から通常個体の飛び蹴りを受けそうになる。だが、お辞儀をするように躱し、目一杯上げた脚の踵落としがマクロープスの顔面を潰した。
地面が半球状に潰れ、獣拳を使った追撃による余波が当たりに広がる。
ミルの方は問題なさそうだ。
僕は別の場所にいる個体を探す。途中、通常個体のマクロープスに何度か攻撃を受けるも、フルーファで首を切り裂き、駆除する。他の個体を探そうにも被害にあっている人々を避難させるのに時間がかかり、黒いマクロープスの捜索ができない。
僕は人々を安全な闘技場に非難させ、駆除は他の冒険者達に任せる。
途中、シトラの姿も見えた。少女を抱きかかえ、運んで来たらしい。
闘技場にいた八万人のうち、ざっと半分はいなくなっており、冒険者や戦う意志のある者が街中に出ているのだと考えれる。
マクロープス達は黒い個体が八体。通常個体が多く見積もって八〇〇体くらいいたと思う。
黒いマクロープス一体につき、一〇〇体の部下がいると考えても良い。四万人の冒険者がいれば、さすがに、倒せる。そう思っていた。
「べッべッべッベッベッベッベッ!」
「ごはっ!」
闘技場の真上から黒いマクロープスと踏みつぶされるようにして落ちてきたライズさんが現れる。
男の部準決勝でオリーザさんと戦っていたライズさんが体をズタボロにされている。やはり黒いマクロープスは強い……。
「シトラ! 黒いマクロープスは僕が受け持つから、ライズさんの手当てをお願い!」
「わかった!」
シトラは大きな返事をした。
僕は黒いマクロープスめがけて走る。
「おらっあ!」
僕は黒いマクロープスにフルーファの刃を当て、振り上げた。
「べッべッべッベッベッベッベッ!」
マクロープスは何が起こったのか理解しておらず、困惑している。
僕は地面を跳躍し、黒い個体に触れた。無重力で軽くした後、フルーファの持ち手を捻り、大剣にした。マクロープスの背に刃先を当て、真下に突き落とす。
真下にいたライズさんはシトラに回収されており、地面は無人だった。
地面に衝突したマクロープスは体をフルーファに貫かれ、身動きが取れなくなっている。フルーファは僕以外に絶対に動かせないので、マクロープスがどれだけ力を入れて抜こうとしても抜けない。
「よし、一体、捕獲完了。べニアさん。生きた個体を捕まえましたけど、どうしますか?」
「なにか行動を起こした原因でもわかればいいのだが……」
べニアさんはマクロープスの近くにやって来た。そのまま、マクロープスの体を観察する。
「こいつらは何で黒くなって人を襲いに来ているんだ……。魔素を大量に取り込んだという説が一番濃厚だが、行動理由がわからない。人を襲いたいから襲っているのか……」
べニアさんは頭を抱え、何がどうなってこうなったのか、考えていた。でも、ただ一匹のマクロープスを見ただけでわかるわけもなく、魔物の心がわからないと無理だった。
「こんなところに魔物がいると多くの者が怖がる。運ぶ際に暴走されたら一大事だ。一思いにやってくれ」
「わかりました」
僕は左腕についていたアイクさんから貰ったナイフの柄を握り、マクロープスの首に差し込んだ。そのまま、ひと思いに振り抜く。脳の重さで脳天が地面に向き、転がる。舌が口の中からだらりと垂れ、目から光が消えた。
「黒いマクロープス三体目の駆除、完了」
僕はフルーファを引き抜き、黒い血を一振りで落とした。背中に斜めに付け、動きやすくする。
「じゃあ、僕は他の個体を倒しに行ってきます」
「ああ、気をつけてな」
僕はいったんシトラのもとに向かった。
「シトラ、僕は他の個体を倒してくる。ここに他のマクロープスが現れたら、対処できるようにしていて」
「わかった。通常個体なら無理なく倒せる。黒色は無理しないと難しいけど、時間は稼ぐわ」
「うん。くれぐれも死なないようにね」
「私よりも、キースの方が死にそうで怖いんだけど……」
「安心して。僕は簡単には死なないよ」
僕はシトラの頭を綺麗なグローブ越しに撫でた。その後、闘技場の外に出て黒いマクロープスを探す。
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