授賞式
午前七時三○分ごろに闘技場に到着。
ミルに馬車を馬屋に預けてきてもらい、僕とシトラは闘技場の中に入り、受付の方から話しを聞く。
どうやら、待合室で待機していればいいそうだ。僕とシトラは待合室のソファーに座りながら時間が来るのを待っていた。
「シトラ、近すぎない?」
「いいでしょ、別に……。昨日の分を取り返させてよ……」
シトラは僕の腕を抱き、右肩に頭を乗せていた。昨日の夜は相当寂しかったようだ。仕方が無いので、好きにさせる。
「ねえ、キース。今、私が何をして欲しいかわかる……」
「わかるよ。でも、ミルが泣いちゃうから、おあずけ。でも、これくらいなら許されるんじゃないかな」
僕はシトラをお姫様抱っこしながら、おでこにキスをした。そのまま、ギュッと抱きしめ、甘やかす。
「うう……。キース……」
シトラは僕の首に手を回し、ギュッと抱き着きながら頬にキスをし返してくる。同じように頬にキスし返す。何度も繰り返していると、意識が唇に持っていかれた。
シトラが求める顏が少々厭らしすぎるのが悪い。
あと数センチメートルでくっついてしまいそうになった時、扉が開いた。
「おやおや、こんな時にまでお熱いねー」
扉から入ってきたのはべニアさんだった。
「あ、危なかった……。えっと、べニアさん、ありがとうございます」
「むぅ……」
僕とシトラは違う感情をべニアさんに向ける。
「あと五分で橙色武術祭の閉会式が始まる。その中でシトラちゃんとキース君の授与式があるから、名前が呼ばれたら来てくれ。優勝者から一言話してもらう予定だから、何を言うか考えておいてほしい」
「わかりました」
僕とシトラは同時に返事をした。
べニアさんが外に出て行くと、シトラがぷんぷんと怒りだした。
「もう、あとちょっとだったのに……」
「シトラ、待てができなくなっちゃったの?」
「もう、待ち続けているんだから仕方ないじゃない。キースがずっと待たせるのが悪い」
「今日はいつも以上にご機嫌ななめだね……。女の子の日かな? ごはっ!」
僕はシトラに顔面パンチを食らい、壁にめり込む。
「ば、馬鹿っ! はっきり言うな!」
闘技場で橙色武術祭の閉会式が始まったのか、多くの人が声を出していた。
「三カ月にわたって開催されていた橙色武術祭本戦が今日をもって終了します。多くの方からの支援をいただき、今年も開催にこぎつけ、最後まで走り切れたことを心より感謝いたします。クサントス領の領主としてここまで大会に拘わってくれた者の皆に変わり、祝辞とさせていただきます。クサントス領、領主、ジンレオ・ハートフルでした」
「領主、祝辞をありがとうございました。えー、続きまして橙色武術祭の優勝者授与式を行いたいと思います。男子の部優勝キース・ドラグニティさん。女子の部優勝シトラ・ドラグニティさんです。会場の皆さん、どうか暖かい拍手を送りください」
べニアさんが僕達の名前を呼ぶと、会場が大量の拍手に包まれた。
「じゃあ、シトラ、行こうか」
「そうね、行きましょうか」
僕とシトラは待合室から出て、闘技場内の通路を歩き、試合場に出る。中央付近に登壇があり、あの位置に上るのだろう。台の上に脚を踏み入れ、領主の前に立つ。
「キース・ドラグニティ。上記は第八八八回橙色武術祭、男の部にて五万八千人の中から頂点になったことをここに表する。精霊歴九○四年八月二九日。おめでとう」
領主は僕に賞状と優勝者のトロフィーを渡してきた。加えてトランクの中に金貨一〇〇〇〇枚分である虹硬貨一〇枚が入っていると見せられてから、トランクを渡してきた。優勝トロフィーと賞状が綺麗に入るように設計されており、思い出を補完するためにピッタリの品だった。
「あ、ありがとうございます」
大きな拍手を貰い、僕は周りに頭を下げる。
「続いて女の部、優勝、シトラ・ドラグニティさん」
「はいっ!」
シトラは僕の後方から前に出て、領主のもとに向かう。
「シトラ・ドラグニティ。上記は第八八八回橙色武術祭、女の部にて三万八千人の中から頂点になったことをここに表する。精霊歴九○四年八月二九日。おめでとう」
「ありがとうございます」
シトラは僕と同じように領主から症状とトロフィー、虹硬貨一〇枚が入ったトランクを受け取る。
「では、優勝者のキースさんとシトラさんに一言いただきましょう」
べニアさんが僕の横に立ち、音声を増大させる魔道具を持って話しかけてきた。
「えっと……。まさか僕が優勝できるとは思ってもいませんでした。でも、長い間、鍛錬し続けた結果が出たと思うと、凄く嬉しいです。応援、ありがとうございました」
僕は頭を下げ、感謝を表した。多くの者から拍手が送られ、とても嬉しい。こんなに拍手が貰えるとは思っていなかったので、頑張ってよかったと思えた。
「では、続いてシトラさん。一言お願いします」
「は、はい。えっと、えっと……。た、楽しかったです。応援してくれてありがとうございました」
シトラは緊張しながら話し、深々と頭を下げる。
「ありがとうございました。では、男の部優勝のキース・ドラグニティさんにはこの後、橙色の勇者様と試合をしていただきます。皆さん、こうご期待ください」
僕とシトラは中央から控室にいったん戻った。
「はあー。緊張した」
「ほんと……、あまりにも緊張しすぎて何を言っていいかわからなくなっちゃった」
僕とシトラはトランクを持ちながら、ため息をつく。二人の思い出が増え、凄く良い大会だったと振り返る。でも、オリーザさんやユビルさんと本気で戦えなかったのは少々残念だ。
「キース。もうすぐ橙色の勇者と戦うらしいけど、そのまま戦うの?」
「そのまま戦うって?」
「ほら、アルブちゃんの力を使わず、生身で戦うのってことよ」
「ああー。そうだね。ここまで来たら、最後まで自分の力で戦ってみようと思う」
「そう。勝っても負けても今日はお祝いしましょうね」
「うん。そうしよう。にしても、このトランクを持っていたら危ないな。シトラ、家にさっと置いて来てくれない。体が動かないようなら、ミルにお願いしてほしい。アルブにお願いしてもいいよ」
「そうね。ここに金貨が二憶枚あったら誰が襲ってくるかわからないし、ギルドにさっさと預けた方が良いかもね」
シトラはトランクを二個持ち、僕から離れ、家に帰った。
シトラがいなくなった後、僕は体を動かす。
――ライアンとの試合か。彼なら魔力暴走しないと思うけど、魔力暴走抑止薬でも打ってもらおうかな。オリーザさんが魔力暴走して手が付けられるかどうかと言う話だったのに、ライアンが暴走したらフレイみたく手が付けられなくなりそうだ。
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