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三原色の魔力を持っていない無能な僕に、最後に投げつけられたのがドラゴンの卵だった件。〈家無し、仕事無し、貯金無し。それでも家族を助け出す〉  作者: コヨコヨ
第二章 シトラの為に……

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爆走する馬車

 僕が数十メートル進んだところで、エルツさんは後ろを振り返る。


「おい……。動けないなら、最初から言えよ」


「す、すみません。無理してでもついて来いって言われると思って」


「そこまで、悪魔みたいな性格してねえよ。俺は……な」


 エルツさんは僕の襟首を持ち、荷物を運ぶように肩に担いでくれた。

 まぁ、動けない点は同じだけど、荷物と同じ扱いをされるのは初めてだ。

 昔、住んでた家でお荷物と言われた覚えはあるけど、本当にお荷物になるとは思ってなかったな。


「あの、エルツさん。今から向かう場所はここから近いんですか?」


「いや、そんなに近くねえよ。だから、馬車に乗せてお前を運んでやる」


「え、そこまでしてくれるんですか!」


「三原色の魔力が無い人間が真面に仕事を探しても、まず見つからない。お前が目標を達成する前に、この街のどこかで餓死されたら、俺の気分が悪いからな。ありがたく思え」


「はい! ありがたく思います! 育ての親よりも感謝します!」


「いや……、そこまで感謝しなくてもいいぞ……」


 少し歩いていると、多くの馬車が止まっている広場にやってきた。

 多くの馬車が止まっているなかでボロボロの馬車にエルツさんは向かっていく。

 荷台を引く馬もそうとう歳をとっていそうだ。


「これが俺の馬車だ。キースは喋らず、おとなしく乗ってろよ。そうじゃねえと舌を噛んで死ぬぞ」


 エルツさんは冗談で言っている訳ではなく、真面目な表情で僕に忠告した。


「わ、わかりました。喋らないようにします」


 ――馬車に乗っているだけで、舌を噛んで死ぬ……。いったいどうしたらそうなるんだ。


 エルツさんは僕を馬車の中に放り込み、勢いよく扉を閉める。


「痛てて……。最後が雑なのは何でなんだ……。それにしても、カビ臭いな。こんな所にいたら、肺がおかしくなってしまいそうだ。換気した方がいいんじゃないかな」


 僕は馬車に取り付けられている窓を見た。

 下にずらす木製の窓だったので、少し出っ張った取っ手に肘を乗せてぐっと押し下げる。すると爽快な音が鳴って窓の取っ手は壊れてしまった。

 どう考えてもくっ付けようがない。


 ――ど、ど、どうしよう……。壊しちゃった。


「今、何か変な音がしなかったか?」


「え、何も聞こえませんでしたけどね~」


 僕は咄嗟に嘘をついてしまった。

 今、エルツさんの機嫌を損ねたら、仕事を紹介してもらえなくなると思ったのだ。


 ――仕事を紹介してもらったあと謝っても遅くはないはず……。弁償しろと言われたら払うし、仕事を取り消してもらうなんて言われたら泣き着いて、必死に仕事を再度紹介してもらえるようお願いするぞ!


 僕は完全に開いてしまった窓の外を眺めながら出発を待っていた。


「それじゃあ、出発するぞ。いいか、もう一度言うが走っている最中は喋るなよ。本当に舌を噛んで死ぬからな」


「心配しないでください。僕は言いつけをちゃんと守りますから」


「そうか。なら、遠慮せずに全速力で走らせるからな」


 エルツさんの雰囲気が一気に変わった。馬車に乗ると性格が変わる人がいると兄から聞いた覚えがあるがエルツさんもそう言う変わった人なのかもしれない。


「しゃああ! 行くぜ、相棒!」


 エルツさんは大声を発し、辺り一帯に響かせる。

 怖い顔と相まって僕は腰が抜けそうになった。


 エルツさんの声に反応したのか、馬まで大きな声で鳴く。もしゃもしゃ雑草を食べていた馬とは思えないほどの迫力だった。


「ななな! さっきまでよぼよぼだったのに雰囲気が変わったんですけど」


「ぶっ飛ばせ! 相棒!」


 エルツさんの掛け声を聞いて、馬は一歩目からとんでもない力で荷台を引っ張った。


 僕の体が背もたれに押し付けられ、肺が潰されそうになる。


 ――こ、これ……息が出来ない……。僕、お店に無事到着できるかな。


 ☆☆☆☆


 エルツさんの馬車は一度も止まらず、走り続けていた。

 その間、僕は何度も死ぬ思いをした。

 曲がり角すら止まらずに全力で疾走するため、荷台に遠心力がとんでもないほど強くかかる。

 僕は、いく度となく腐りかけの扉に叩きつけられ、荷台の中から投げ出されそうになった。

 直線なら大丈夫かと思っていたが、長い直線を走っていたとき僕の考えは幻想だと知った。

 凹凸の地面が木の車輪に当たる度、車体が揺れ動く。

 この時エルツさんが言った『喋るなよ』の意味がやっと分かった。


 ――とまってください! って叫びたいけど声出したら舌を噛んで死ぬ。


「ひゃっはあぁぁぁーーーー!」


 エルツさんは慣れているからか、大声を出して気分を発散しているようだった。


 僕は馬車が直線を走っている間、空中に浮いていたのではないかと思うほど振動で跳ねていた。

 お尻が木の椅子に何度も打ち付けられて感覚が無くなっている。

 今喋ったら、どう考えても舌を噛む未来しか見えなかった。

 きっと舌を口の外に一度出したら戻す余地すらなく、噛み千切ってしまうだろう。

 僕は死の恐怖を常に感じながら、馬車に長い時間揺られ続けた。


 数時間後。


「よし、ここだ。止まっていいぞ」


 馬車の急停止に僕の体は耐えられず、前に倒れ込み床に打ち付けられる。


「痛てて……。つ、着いたのか……。や、やったぁ、僕は……生き残ったんだ」


 僕は謎の達成感を覚え、死地からの生還を心から喜んだ。

 目から涙があふれて止まらない。


「おい、キース、着いたぞ」


 エルツさんは馬車の扉を開け、中を覗き込んできた。


「お前、何泣いているんだ。まだ仕事が決まったわけじゃないだろ」


「そうなんですけど……。生き残れたのがうれしくて、涙が止まらないんです」


「変わったやつだな、ただ座ってただけだろ。それなのに生き残れたって……。三原色の魔力がない奴はそこまで非力なのか?」


「自覚がないんですね……エルツさん」


 エルツさんは腰が抜けて動けない僕を持ち上げ、動かない地面におろしてくれた。


「あ、ああ……揺れ動かない地面だ。こんなに安定しているなんて、いつも揺れずに僕を支えてくれてありがとう、地面さん……」


 僕は地面に頬を擦りつけながら、撫でる。


「おいおい、頭までおかしくなっちまったのか。今から店主と交渉しなきゃならないんだぞ。立ち上がれるか?」


 エルツさんは屈みながら僕の顔を覗き込む。


「今は、ちょっと無理そうです。なので、手を貸してもらえませんか」


 僕は指の一本一本まで包帯がしっかりと巻かれた右腕を震えながら持ち上げる。


「わかった。男と手をつなぐのは解せないが、まぁ動けないなら仕方ないな」


 エルツさんは僕の右腕を掴み、立ち上がらせてくれた。


 何から何まで任せっきりで本当に申し訳ない。

最後までお読みいただき、ありがとうございます。


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