魔力を吸い取る
僕はフルーファを構え、オリーザさんに体を触れられる前に大量の傷を負わせ、魔力を一気に使わせる作戦を思いつく。
だが、危険が大きかった。
今、オリーザさんが持っている魔力以上の傷を与えてしまったら、再生できないかもしれない。魔力暴走抑止薬を飲ませれば、今の状態から悪化することはないので、使っておきたい。でも、使う瞬間が中々訪れない。肌が硬すぎて針が刺さらないのは予想外だった。リーフさんに針の貫通力をあげた方が良いと言っておこう。
僕は前に出てフルーファを後方に引く。横に一閃。
オリーザさんは左腕で受け止めようとしているが、フルーファの切れ味は尋常ではなく、腕に食い込んだ。
そのまま、皮、油、筋肉、骨を容赦なく切り裂いていく。だが、切った傍から再生されるので胴体を切り裂いても、何の意味もない。
攻撃を止めようとしたら、フルーファがすり抜けたように見える。
さすがに再生力が高すぎるでしょ……。
フルーファの攻撃が効いているのか謎だったが、体を切り分けた後、僕が切り返す前に、オリーザさんの拳が顔面に迫ってきた。こっちから殴ったり触ったりしたら魔力を吸われる。かといって攻撃を食らっても魔力を吸われる。いったいどうしたら……。
僕はふと、ミルが観覧席に座り、両手を握り合わせている光景が目に入る。
「ミル……」
僕はミルの体から無色の魔力を吸い取った場面を思い出した。発情したミルの臍下から魔力を吸い、発情を止めた方法が使えないだろうか。
「ブルルルルルルッツ!」
オリーザさんの鉄拳が僕の顔面に向って飛んでくる。
「おらあああああっつ!」
僕は右手をオリーザさんの拳にぶつけ合わせた。するとオリーザさんの体が弾き飛ばされる。
「思った通り! 相手が魔力を吸い出そうとしてくるなら、こっちも同じことをすればいいんだ!」
僕はオリーザさんの魔力暴走を止めるために、魔力を発散させようとしていたが、魔力を吸われて攻撃の意味が無かった。だが、魔力を吸われるなら、同じく吸い返せば打ち消し合うのではないかと考えたのだ。
僕も、魔力操作で相手の魔力を吸い取ることができる。この方法なら、オリーザさんの体を無理やり傷つけず、拳一つで倒しきれるはずだ。
「ブルルルルルルッツ!」
オリーザさんは体を持ち上げ、僕にすぐ攻撃してくる。脚を鞭のように撓らせ、巨大な岩石をも蹴り飛ばしそうな一撃が放たれた。
「はああああああっ!」
相手が蹴ってくるなら、僕も蹴り返すだけだ。もちろん接触面でオリーザさんの魔力を吸い取ろうとする。だが、相手も吸い取って来ようと魔力操作を行っているため、効果は打ち消された。
あとは力と力の押し合い。魔人化したオリーザさんと人を辞めている僕の蹴りがぶつかり合うと、当たりの砂煙が一瞬にして晴れ、突風が吹き荒れる。
「ブルルルルルルッツ! ブルルルルルルッツ! ブルルルルルルッツ!」
「おらあああああっ! はあああああああっ! おんどらああああっ!」
僕はオリーザさんの連続攻撃に合わせて右拳、左拳、右脚の回し蹴りの三連撃を打ち合い、相殺。大柄のオリーザさんは力はあるものの、速度はいまいちだった。なので、攻撃の隙を塗って魔力を一気に引き抜いてやろうと作戦を決める。
「はああああああっ!」
僕は攻撃で弾き飛び、少々ひるんだオリーザさんに突進を決める。両手でしっかりと押し込み、地面に倒したあと巨体になってくれたおかげで狙いやすくなった臍下に両手を当てる。片手で魔力を吸い取るのではなく、両手で吸い取ればその分吸収力は増える。加えて、手の平と言う感覚の鋭い部分と面積が合わされば……。魔力の引き合いで勝てる!
「ブルルルルルルッツ!」
「はあああああああああああっ!」
僕はオリーザさんの臍下に両手を当て、地面に落ち着けながら魔力を吸い出す。僕の体に大量の魔力が流れてくるも、僕の体は大量の魔力に耐性があるため、全く問題ない。
なるべく無色の魔力だけを吸い取り、無色の魔力と三原色の魔力であるマゼンタ、イエローの差を無くしていく。すると、オリーザさんの体が、縮んでいき元の姿に戻っていく。
――魔力暴走が弱まっている。今なら……。
僕は左手で魔力を吸収しながら、右手でウエストポーチの中に入っている魔力暴走抑止薬を手に取り、蓋を歯で挟んで取った後、針をオリーザさんの腕に差し込み、薬を注入する。
「よし、これで魔力暴走はこれ以上酷くならない。これから一気に、魔力を吸い出します!」
「ぐ、ぐあああああああっ!」
オリーザさんは魔力を吸われ、叫んだ。
僕はお構いなしに、無色の魔力だけを吸い出し、無色の魔力とマゼンタ、イエローの割合が均一化する。
「あ、ああ……」
オリーザさんの魔力暴走は止まり、疲労からか、地面に倒れたまま起き上がれず、時間だけが過ぎていく。
オリーザさんが起き上がろうとしたところで、三〇分の砂時計の砂が落ちきり、試合が終了した。
僕はオリーザさんと戦っていたというよりかは暴走した彼と戦っていたような気もするが、皆、大きな拍手で戦いを称えてくれているので、気分はとてもよかった。
僕はオリーザさんに手を差し伸ばす。彼は僕の手を握り、立ち上がった。
「すまない、キース。戦っている時の記憶が魔法を使った瞬間に消えているんだが、一体どうなったんだ?」
「えっとですね、オリーザさんは魔力を吸い過ぎて魔力暴走を起こしていたんです」
「魔力暴走……。そうか、だから記憶が無いのか。やはり、魔力過多の状態で身体強化をしようとしたのが間違いだったんだな」
「ほんと危なかったですよ。魔力暴走したオリーザさんの一撃は人の魔力を一瞬で奪うほどの吸収量でしたから、もし、僕が相手じゃなかったら相手を殺していたかもしれません」
「な……。そうだったのか、すまない……。加えて助けてくれて感謝する」
「いえ、助けられて本当に良かったです」
僕はフルーファを持った。すると、オリーザさんの魔力をもっと食べたかったというような感覚が伝わってきた。ごめんと言う気持ちを込めて体の中に入っているオリーザさんの魔力をフルーファに流す。すると大変喜んだ。斧の状態から大剣の状態に戻し、背中に付ける。
僕とオリーザさんは中央に向かい、七名の審判からの判定を受ける。
「ただいまの試合、どちらが勝者なんでしょうか。審判の皆さん、判定をお願いします!」
進行役の女性が叫ぶ。
「ただいまの試合を総合的に評価し、判断した結果。満場一致でキース・ドラグニティさんの勝利となりました」
「橙色武術祭男の部、優勝はキース・ドラグニティさんです! おめでとうございます!」
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!」
会場から雄叫びと共に大きな拍手が送られる。前に立っているオリーザさんも拍手をしていた。
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