殴り合い
「やっぱり、スペシャルウエポン。どこかで見た覚えがあると思ったら、ルフス領のアイク・ナーベスのフルーファじゃねえか」
オリーザさんは僕に攻撃を加えてこず、懐かしそうに語った。
僕は地面に音も無く降り立ち、構える。
「アイクさんを知っているんですか?」
「ああ。知っている。赤色の勇者を育てた男だ。勇者順位戦で顔を合わせ、手合わせしてもらったこともあった」
「オリーザさんも橙色の勇者を育てた方ですもんね。手合わせをした時はどっちが勝ったんですか?」
「ふっ、俺だ」
オリーザさんはフルーファの持ち手を足場に、跳ね飛んできた。僕は飛び蹴りを受け流し、投げ飛ばす。
オリーザさんは巨体のわりに、凄くよく動く。ミルとシトラ、大きな体を混ぜたような方だった。
――オリーザさんの斧が壊れたんだ。僕もフルーファを使わず、同じ攻撃方法を行う。
シトラから貰った黒色のグローブをしっかりと握り、共に戦った。
「はあっ!」
「おらああっ!」
僕の右拳とオリーザさんの右拳がぶつかり合う。すると、僕の体から魔力が抜けた。魔力が抜けたせいで力も抜ける。そのため、僕はオリーザさんに力負けした。
「くっ!」
僕は弾き飛ばされ、背中から地面にぶつかる。そのまま後方に向かう力が残っていたため、地面を跳ねるようにして後方に転がった。体勢を立て直すため、後方宙返りを三回行い、力を完全に外に逃がす。
僕は握り拳を作り、手の平を開いて閉じてを三回繰り返す。力は元に戻っており、安心する。力負けするとは思っていなかったが事実を受け入れて考えた。
準決勝一戦目の時、オリーザさんがライズさんを倒した戦い。途中からライズさんの動きが鈍くなったのはオリーザさんの魔力吸収の攻撃が原因だろう。
「まだまだ行くぞ!」
オリーザさんは拳を構えながら走り込んでくる。僕も同じように、拳をすぐに構えて攻撃に備えた。魔法の打ち合いが無い橙色武術祭は珍しく、男と男の殴り合いが、繰り広げられる。
「ふっ! はっ! おらっ! はあっ! せいやっ!」
オリーザさんの拳は威力があるのに加え、全て魔力吸収の効果が乗っていた。攻撃が当たるたび、魔力操作で僕の魔力を吸い取っているのだろう。
無色の魔力なので、吸い取っても問題なく、オリーザさんの体の中に溜まっていく。
オリーザさんの体内に魔力が溜まっていくにつれ、拳の威力は増し、体力が回復している。攻撃を躱し、僕が攻撃をどれだけ打ち込んでもオリーザさんの体に拳が当たるたび、魔力が吸い取られる。そのため、オリーザさんの体にダメージが入らない。痛みはあるだろうが、巨大な肉体が威力を分散し、太い骨や筋肉によって自然な鎧が体に纏わりついているため内臓に響いている気もしない。
どれだけ攻撃しても体力が減らないため、時間だけが過ぎていく。
普通の人間なら、オリーザさんに殴られたり、殴ったりするだけで死ぬほど魔力を吸い取られるのだろうが、僕の魔力量が多すぎるため、どれだけ吸われても問題なく戦えた。ただ、力が抜けるので、無駄に重たい攻撃を食らい、大きく弾き飛んでしまう。審判から見れば、判断の基準になってしまっているだろう。このまま戦っていても確実に判定負けする。
――今以上の威力が出るように力押しするしかない。生身の僕が出来ることなんてそれくらいしかないんだ。獣族と力で勝負するなんて勝ち目が薄いけど、何もしないよりはましだ。
試合が始まってから一〇分が経った。僕とオリーザさんはドカドカと大きな地響きのような鈍い音を出しながら殴り合っている。
「はぁ、はぁ、はぁ……。おかしい、なぜ倒れないんだ……」
「はぁ、はぁ、はぁ……。生憎、体力は多い方でしてね」
僕達が殴り合っているとオリーザさんに疲れが見えた。どうやら体力が減らないわけではないようだ。魔力視で見てみると、オリーザさんの体の中に無色の魔力が大量につまっていた。どうやら、容量がいっぱいになっているらしい。大量の魔力を吸い込み体が飽和している。魔法でも使ってくるのだろうか。だとしたら厄介だ。
「このまま、倒しきる!」
「オリーザさんの体力がなくなるまで、戦い抜くっ!」
僕とオリーザさんは殴り合い続けた。
「獣拳っ!」
僕はオリーザさんの体に拳が足るたび、獣拳を使うことにした。魔力が吸い取られる前に、攻撃を与えてしまおうと言う作戦だ。
「ぐふっ!」
獣拳の攻撃はオリーザさんにも攻撃が少なからず入り、勝ち筋が見える。
「おらっ! おらっ! おらっ! おらっ!」
顏や腹、鳩尾、臍、など至る所を獣拳で攻撃していく。魔力の塊を拳からぶつけ、体内にダメージを蓄積させる。少しずつ少しずつ追い込んでいく。オリーザさんの表情から余裕が消えて無くなり、苦笑の表情を見せる。攻めて攻めて攻め続ける作戦は友好のようだ。
「はあああっ!」
オリーザさんは体内に痛みがあっても我慢し先ほどよりも威力のある攻撃を撃ちこんできていた。地面に当たれば、巨大な地震が起こるほどの威力と空を打ち付ければ突風が巻き起こる拳がガチンとぶつかり合い、空間を割ってしまいそうなほどの衝撃波が生まれる。
ここまで互角の戦いと言ってもいいだろう。でも、ここからが勝負の分かれ目だ。気を抜けば場外に弾き飛ばされる。一撃一撃が致命傷の拳が打たれ続け、身を挺し、耐える。
殴られては殴り返し、躱して殴って躱して殴っての繰り返し。攻撃こそ最大の防御と言わんばかりに、両者は攻めた。
殴られて弾き飛び、地面を転がっている間に、体勢を立て直して攻撃に映る。広い試合場だからできているが、半月前の四面に分けられた試合場だったら完全に一度殴られただけで、場外にはじけ飛んでいた。
広い試合場で行う決勝戦だったからこそできる戦い方だ。僕の体力は十分ある。なら、まだ大丈夫。すでに一五分経っており、僕の体力はまだ余裕があった。でも、気を抜けばあっという間に負ける。決勝まで来たのだから、勝ちたい。勝利をシトラに持ち帰りたい。その一心で戦う。
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