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三原色の魔力を持っていない無能な僕に、最後に投げつけられたのがドラゴンの卵だった件。〈家無し、仕事無し、貯金無し。それでも家族を助け出す〉  作者: コヨコヨ
第三章:橙色の領土。クサントス領

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殴り合い

「ふっ! はっ! やあっ! おらっ!」


 シトラは先ほどと一変して攻撃一辺倒の作戦へと切り替えた。だが、それはミルの得意分野に足を踏み入れているのと同じことだ。


「ふっ! はっ! やあっ! おりゃっ!」


 ミルはシトラの攻撃を全て躱す。本当にどうしてそこまで躱せるのかわからないが、確実に攻撃ギリギリで回避している。加えてシトラの胴体や顔に獣拳を撃ちこんでいた。


 シトラは全てのカウンターを受けている。にも拘らず、ミルへの攻撃を止めなかった。


「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……。ほんと、当たらないわね……」


 シトラはミルから距離を少々取り、肩で息を吸うように大きく動かす。


「このまま勝たせてもらいますよ。シトラさんっ!」


 ミルはまだまだ余裕の表情を見せ、拳を構えながら足踏みしている。軽やかな動きは次第に前に向き、地面に稲妻が走る。


「くっ! ほんと早いわねっ!」


 シトラもミルと同じ獣族だが、感覚がミルほど鋭くない。逆に、体格がいいので筋肉の発達はミルよりも上だ。その身体能力を上回るミルの五感は流石としか言いようがない。


 シトラが拳を構えている足元に超低姿勢のミルの姿があり、腕の力で跳ね上がりながら靴裏をシトラの顎に目掛け、放つ。


 だが、シトラも当たりっぱなしと言う訳ではない。ミルと同じように五感で攻撃を感じ取り、攻撃を躱した。そのまま足を取り、地面に叩きつけようとするも、ミルの足裏から魔力が吹き出し、シトラは吹っ飛ぶ。


 今のミルは体の至る所から魔力を放出し、推進力にすることができる。さっきの稲妻のような走りも卓越された魔力操作があるからなせる業だ。感覚が鋭いミルだからこその精密な魔力操作により、シトラはミルの猛攻を受ける。


「おらおらおらおらおらおらおらおらおらおらっ!」


「ぐっーーーー!」


 シトラはミルの獣拳を生身で体に受け続けていた。


 さすがにもう勝負がついたのではないか。時間も残り五分を切っている。

 僕は「もう、良いじゃないか」と声を出しそうになった。


「おらあああああああああっつ!」


 シトラはミルの攻撃が一瞬緩んだ瞬間、地面に罅が入るほどの踏み込みを行い、ミルの顔に拳を撃ちこむ。当たれば一撃必殺になる威力だろう。だが……。


「まってました!」


 ミルはシトラの拳を髪一本分ほどで回避し、シトラの踏み込んでくる力を利用して足りない筋力を補った左拳をシトラの鳩尾に叩き込んだ。

 巨大な花火が爆発したような鈍く大きな音が会場になり響、シトラの動きが止まる。


 ミルの拳はシトラの鳩尾に完全に食い込んでおり、加えて魔力を放つ獣拳も使用している。優に気絶できる一撃のはずだ。


 残り時間二分のところだった。このまま戦っていても勝ち目が見えない戦いで、早く止めを刺してほしかった。シトラとミルの相性が悪かったんだ。仕方ない……。


 ――お、終わった……。シトラ……、最後まで、よく頑張ったよ……。


 会場の空気も、だれしも終わったと感じたのか、拍手をしようと構えていた。審判の審査が入れば大喝采が鳴り響くだろう。だが、審判は試合場の中に入らない。


「どうしたんだろう……。まだ終わってないのか……?」


 僕はシトラがこれ以上傷つくところを見たくなかった。だが、審判は一向に試合場に入らない。それどころか、シトラが動きだした。右足の裏を地面に擦りつけながら、後方にゆっくりと移動する。もう、脚を上げる力も残っていないのか、なんなら、口から涎が垂れ、息も上手く吸えていない。いったい何を考えているんだ。


 シトラは意識がもうろうとしている中、ミルから少しでも距離を取る。だが、ミルが見逃すわけもなく、ゆっくりと近づいていた。油断しているわけではない。走る必要が無いから走っていないだけだ。なんせ、シトラは小指で押せば倒れるほど衰弱している。そんな相手を思いっきり殴り飛ばすのは興ざめだと思ったのだろう。


「シトラさん、もう、終わらせてもらいます」


 ミルはシトラの体に触れようとした。


「ふっ……。舐めないでよね……」


 シトラはミルの右手を左手で掴んだ。


「なっ!」


 ミルは掴まれた腕を放そうとするも、シトラの力は簡単に上回ることができない。


「ほんと、痛かったんだから……。でも、ありがとう、ミルちゃん。たくさん殴ってくれて。おかげで、こんなに魔力が溜まったわ……」


 シトラの右拳は光り輝きすぎて辺りが真っ白になっていた。その光景を見てミルはさらに恐怖を感じたのか、シトラに捕まれている位置に的確に魔力を吐き出し、数ミリの隙間を開けた瞬間に離脱。


「さあ……。ここからが本当の勝負よ」


 シトラは右拳に今まで受けて来た獣拳の魔力を集めていたようだ。体に受けた魔力は無色の魔力。シトラも同じ魔力だ。なら、相手の魔力を利用することは不可能じゃない。でも、痛いのは痛いはずだ。自分の弱点を逆手に取ってミルの魔力を奪う作戦だったらしい。


 ――考え付いても普通やる? 絶対に痛いよ。気絶する痛さだったろうに……。


「はは……、シトラさん、めっちゃ怒ってます?」


「怒ってないわよ。だって、試合だもの。規則違反じゃなければ、どんな戦い方をしても自由。私はいつだって勝ちにこだわるのよ」


「シトラさんっぽいですね。でも、ぼくだって負ける気はありませんよ」


 シトラとミルは構え直し、試合の残り時間は一分となった。


「ふう……。ふっ!」


「すう……。ふっ!」


 シトラとミルは共に走り出す。今までの攻撃を全て受けて来たシトラはすでに疲労困憊、逆にミルはまだまだ戦えそうなほどピンピンしている。先に攻撃を当てた方が勝者になるのは間違いない。


「おらああああああああああっ!」


「はあああああああああああっ!」

最後までお読みいただき、ありがとうございます。


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