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三原色の魔力を持っていない無能な僕に、最後に投げつけられたのがドラゴンの卵だった件。〈家無し、仕事無し、貯金無し。それでも家族を助け出す〉  作者: コヨコヨ
第三章:橙色の領土。クサントス領

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決勝戦の前の日

「魔力暴走を止める薬は作れないが、発生している状態から悪化させない薬なら作れる。それでもかまわないか?」


「はい。よろしくお願いします」


 リーフさんは薬草を調合し、魔力暴走抑制薬を作成した。薬草に緑色の魔力を流し、成分を抽出。先端が針になっているチューブ型の薬容器の中に入れていく。空気を全て抜き、針の先まで溶液で満たされると木製の蓋を付けた。魔力暴走抑制座薬は全部で一〇本完成し、一つの大きさが約五センチメートルなので、持ち運びには困らないだろう。


「大金貨一枚」


「……高いですね」


「保険対象外だからね。値が張るのさ。今の時期に魔力暴走鎮静薬を買うとなると、一つで大金貨一枚はするよ。まだお得な方さ」


 リーフさんはひひひっと笑う。僕は大金貨一枚を取り出し、彼女に渡した。


「確かに受け取った」


 リーフさんは大金貨を握り締め、ポケットに入れると振子椅子に座り、眼鏡をかけて本を読み始める。


 僕は一〇本の魔力暴走抑制薬を手に取り、ローブの裏についている魔法杖用のホルダーに差し込むと丁度いい大きさで、使いやすくなった。

 ホルダーが一〇箇所もないので、五本はウェストポーチの中に入れて置き、雨具のフード(頭巾風の被り物)を被って薬屋を出た。


 外は大雨。明日の試合でも振り続ければ、シトラとミルの戦いの結果に大きく拘わって来るだろう。雨なら力が強いシトラの方が有利、晴れなら五感が鋭いミルの方が有利だ。どちらに転んでも運は絡んでくる。


「シトラとミルは魔力暴走しないし、何者かが暗躍しているのなら二人を守らないと」


 僕は走って家まで戻る。見かけが悪いおんぼろの家の中に橙色武術祭女の部上位二名が住んでいるなんて誰が思うだろうか。

 魔法が使えずとも鍛錬と力量で補えると言うことを証明している。まあ、二名は獣族だからと言うのも含まれるが、種族の違いをとっても魔法に勝てていると言う事実は変わらない。


 家に入ると、シトラとミルは互いに瞑想中だった。まだ昼頃なのにすでに緊張している。でも、知り合いだからか、準決勝のころよりは緊張していない。なんなら、闘志が雰囲気として現れ、視界に映りそうになるくらい気を張っている。


 僕は何も言わず、椅子に座った。


 三〇分ほど待っていると二名の瞑想が終わり、昼食の準備が行われる。


 野菜サラダとスープ、鳥肉の甘辛煮、パン、牛乳がテーブルに並び、皆で神に祈ってからいただく。


 テーブルの上の品が全て無くなると、シトラとミルは庭に出て雨に打たれながら拳を交わす。明日戦うと言うのに、雨中で対戦相手と鍛錬をするなんてどういう心境なのだろうか。僕はその気持ちがわからない。


 午後三時前、二名は鍛錬を終え、お風呂で体を暖め、体調を整える。お風呂上りに暖かい紅茶とシトラが好きなショートケーキとミルが好きなチーズケーキを用意し、活力を補充してもらう。


 夕食はシトラの負担を減らすため、外食にした。大量の肉ではなく、少量で高級な肉を食し、満腹になる前に食事を終える。その方が体への負担が少ない。


 蒸し風呂がある温泉に行き、広々とした空間で身と心を休ませたあと、しっかりと寝られる家に戻り、早めに就寝する。


 シトラとミルは僕と一緒に寝たいとのことなので、断らず、三人で並んで眠る。これで明日の体調は万全だろう。


 緊張している二名の頭を優しく撫でながら、僕も意識を静めていく。


 早朝。僕達は目を覚ました。外の天候は小雨。外に出ても服がずぶ濡れになることはなく、滝の近くにいる程度の水が掛かるくらい。この天候だと、どちらが有利か不利かと言う話ではなくなった。僕が朝食を作り、二名の体を動かす力にしてもらう。


 シトラとミルは互いに同じ朝食を得て、体を少々動かしたあと、会場に向かった。


 天気が小雨の中、闘技場を埋め尽くす大量の観客。橙色武術祭の決勝戦を今か今かと待ちわびている者達の瞳は曇りが無く、曇天の空に対して晴れやかだった。その状況を見たシトラとミルは意欲を増し、やる気に満ち溢れる。


「じゃあ、僕は観客席で見てるから」


「はいっ! ぼくが勝つところ、ぜひ見ていてくださいっ!」


「何言ってるの、私が勝つのよ」


 ミルとシトラは互いに視線を合わせ、火花を散らせたあと、そのまま試合場に向って歩いていく。どちらが勝ってもおかしくない……。二名が無事に戻って来てくれれば、僕は十分だ。


 僕は観覧席に座れなかったので、立ちながら観戦する。


「さあ、いよいよこの時がやってまいりました……。橙色武術祭女子の部決勝戦ですっ!」


 女性の司会者が音声増幅の魔法が掛けられた魔道具に叫ぶ。


「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!」


 会場にいる多くの観覧者が叫ぶ。決勝戦の盛上りようはやはり他と逸脱していた。


「決勝の舞台に上がったのは登録番号七七七番のシトラ・ドラグニティさんと登録番号七七八番のミル・キーウェイさんですっ!」


 シトラとミルが試合場に移動してきた。


「情報によりますと両者共に橙色武術祭、初参加者のようです。獣族に加え魔法が全く使えない、三原色の魔力を持っておりません。にも拘らず、この場まで上り詰める実力を持っていることになります。可愛いからと言って手を出すと返り討ちに合うでしょうっ!」


 司会者の方は会場を大いに盛り上げた。


「二名の戦い方は単純明快、殴る蹴るの打撃戦。シトラさんは一撃の火力が高く、粘り強い点が特徴です。一方、ミルさんは攻撃を躱し、カウンターを何度も叩き込む戦法が特徴になっています。ミルさんは橙色武術祭の試合に置いて真面な攻撃を一切受けておりません。どちらが勝つのか全く予想がつかないこの試合、応援して彼女らに力を送りましょう!」


「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!」


 会場が大きな地響きを起こしそうなくらい大きな声が鳴り響いた。


「決勝戦の制限時間は二〇分。勝利条件は場外に出す。どちらかが降参する、気を失う、二○分経ったさい、どちらも残っている場合は七名の審査員の判定により、多い方が勝者となります。いよいよ、決勝戦の開始時刻となります」


 午前八時、早朝から多くの人々が力み、試合開始を今か今かと待ちわびている。


 クサントス領のギルドマスターであるべニアさんは黒色の審判着を身にまとっている。すたすたと歩き、大きな試合場の中央に立つ。

最後までお読みいただき、ありがとうございます。


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