魔力暴走
「ふぅ……、もう歳だからな、ここまで登って来れるのも、今年で最後だろう。オリーザに一泡吹かせてやりたかったが、仕方がない」
ユビルさんは何かを食し、全ての魔力を使用し始めた。全身を橙色の魔力で包む。身体強化にしては少々禍々しい。
会場から、何やら不穏な空気が流れたのを聞き、僕は魔力視から裸眼に変える。すると、ユビルさんの姿が人型ではなくなっていた。
会場が唖然とする。
以前、フレイが魔力暴走したさいに炎の異形になった時と同じだ。だが、いったいなぜ……。
「グラアアアアアアアっ!」
ユビルさんの姿は全身が岩で作られたゴーレムのようになっていた。
「ユビルさん、いったい何を……」
「Aランクじゃ駄目なんだ……、Aランクじゃ……。Sランクにならないと……」
ユビルさんはゴーレムの姿で呟く、きっと彼の中でずっと鬱憤が溜まっていたのだろう。ここまで来てオリーザさんと戦いたかったのに、僕を前にした途端、負けそうになったから、奥の手を使ったのだと思うけど、自ら異形になるなんて……。どうなっているんだ。
「オラアアアアアアアッ!」
ユビルさんは重そうな体なのに、軽々と動き、僕の頭上に跳躍。巨大な岩の拳を打ち込んできた。
僕は向かい打つか、回避するか。二択に絞られる。
攻撃力がわからないのに、直接受けるのは危険だ。そう判断した僕は後方に飛び、攻撃をかわす。
ユビルさんの拳は地面に直撃した。すると、巨大な爆発音と共に、直径一八メートルほどの地面が半球状に陥没し、雨を一瞬止める。地震が起こり、体を吹き飛ばす衝撃波が放たれる。
「あの攻撃力、普通じゃないな。直接攻撃を受けたら即死もあり得るか……」
「俺が橙色の勇者になるはずだったのに……。俺が俺が……」
「ユビルさん、意識を保ってください。今、助けますから!」
魔力暴走をしているのなら、魔力を少しずつ減らしていけばいい。そうすれば、暴走が納まるはず……。
「ふぅ……。その巨大な魔力の鎧は今から砕いていきます」
僕はフルーファを使うとユビルさんの体まで切断しそうだったので拳を使っていく。そうすれば、体の内側にまで力が加わるはずだ。ユビルさん本体に損傷を与え、魔力暴走を止める算段だ。上手く行くかはわからないが、フレイが暴走していた時は上手く行ったので、今回も上手く行えるはず……。
「俺は強い、俺は強い、俺は強い、俺は強い……」
――何者かがユビルさんをそそのかしたのか。でも、いったい誰が……。
僕はグローブを握りしめ、拳を作る。
「オラアアアアアアッ!」
ユビルさんは巨大な拳を僕に向けた。
僕は体を右に反らし、左拳を躱す。地面に拳が当たる前に肘を打ち付け、威力を殺した。
ユビルさんの肘は岩が砕け、通常と反対側に曲がる。体が宙を舞い、僕は拳を彼の顔面に打ち付ける。ユビルさんの顔が陥没し、地面に叩きつけられる。地面の方も破壊され、ユビルさんが作った凹みと端が重なる。
――硬い、内側から戻される。
陥没しかけている顔が元に戻り、ユビルさんの両手が僕の右腕を掴み、捻りつぶした。激痛と共に、左拳を撃ち込み、右手を離させた。
ユビルさんの頭が地面に突き刺さるが両手の平を地面に付けた瞬間、出てくる。
僕は右腕に魔力を集めると破壊された骨が繋がり、グシャグシャだった右腕が戻る。人間の回復力を完全に凌駕していた。
「今、キースさんの腕が一瞬で治ったような……」
どこからか僕の体の異変に気付いた方が呟く。すぐに治ったので変に思った者はあまりいないだろう。そう思いたい。
「ははっ、ははっ、ははっ……。ああー、こんなにいい力なら、もっと早くから使っておけばよかったー。そうすれば、Sランクにもなったし、勇者にもなれた。本当にもったいない」
岩の顔が割れ、内側から赤色の瞳が現れる。瞳に光りは無くなっていた。顔に残っている岩が成長し、頭を包み直していく。
だが、魔力視で見えるのは全身から魔力が抜けていくユビルさんの体だった。命の灯とでも言うのだろうか。心臓部の魔力が著しく低下している。
「ユビルさん、戻って来てください。魔力が放出されすぎです。このままじゃ死にますよ!」
「ははっ、はははっ、ははははっ、はははははっ、ははははははっ!」
ユビルさんは大きく笑い、人の心が無くなっているかのようだった。お酒を飲んだあとの酔っぱらいと言う雰囲気だ。
――早くしないと魔力暴走のせいで体の機能が維持できなくなる。
僕は両手に無色の魔力を溜め、走る。
「オラアアアアアアっ!」
ユビルさんが地面を殴ると、杭のような突起物が視界を埋め尽くすほど大量に現れた。
「くっ!」
吐出してきた杭が僕の体に突き刺さる。肩や腹部、太ももなどを貫通し、口が血の味がする。だが、止まるわけにはいかない。足裏に魔力を溜め、地面に向って思いっきり噴射する。地面からの杭を破壊しながら、膝をユビルさんにぶつけた。
「ごはっ!」
ユビルさんの背中は結界に衝突した。結界の光が辺りに舞う。
僕はユビルさんと共に地面に向って落ちていった。空中で背後に回り、両手を背骨に添わせるように充てる。
「無色波」
両手から発射された無色の魔力は体を支える背骨辺りを通過し、魔力の流れを著しく低下させる。地面に巨大な凹みが出来るのと同時に、ユビルさんの体を覆っていた岩が破損。
背骨に無色の魔力を通されたことで全身に巡っていた橙色の魔力が著しく減り、魔力暴走が止まる。と言っても一時的にしか効果が無く、すでに体を纏う魔力が岩に変わりつつある。
大量の魔力を使用しており、ユビルさんはもう死にかけだ。
これ以上魔力を使用すれば気絶し、体の機能が著しく低下。頭や体の重要な機関が死に、ユビルさんは戻ってこれなくなる。
僕は魔力の流れを押さえるため、橙色の魔力が流れている箇所に無色の魔力を使って狭める。マゼンタとイエローのどちらかが暴走しているせいでユビルさんがおかしくなってしまった。なら、濃い方の魔力を薄めればいい。
僕は魔力視でユビルさんの体を見る。するとマゼンタの色の方が濃かった。イエローと同じ薄さになるまで、魔力を流し、体調を回復させる。
「う、うぅ……」
ユビルさんの体の中で魔力が安定し、気を失うように眠りだした。
「ふぅー。何とかなった」
「う、うおおおおおおおっ!」
僕がユビルさんの暴走を止めると、戦いに勝利した僕を称える者達が大きく拍手した。
僕の体に刺さっていた岩の杭はユビルさんの意識の低迷により、消滅。僕の体に穴が開いているようだが、大量の魔力のおかげか自然に治癒していく。僕も倒れたふりをしておき、重傷者を装った。
「準決勝二戦目、勝者、キース・ドラグニティ!」
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