大人と子供
「うん。自力で行くよ。ここまで来たら楽しまないとね」
「わかりました。ではご武運を」
アルブは頭を下げ、応援してくれた。
僕は皆と離れ、試合場の壁に貼り付けられている試合表を見る。僕は二戦目、オリーザさんは一戦目だった。つまり、僕が勝てば決勝でオリーザさんに当たる可能性がある。と言っても、僕が準決勝で勝たないと意味がない。
僕はオリーザさんの戦いを近くで見るべく、待合室で観戦することにした。
「八月二六日。男の部、準決勝一戦目、オリーザ・ギレイン対ライズ・トパーズです。前回大会優勝者のオリーザさん。今年も難なく準決勝に上がってきました。現在、橙色の勇者様であらせられるライアンさんに三年前から敗れ続け、橙色の勇者に一歩届かず、ライアンさんの一つ前の橙色の勇者にも勝てず、今年こそは妥当橙色の勇者を掲げ、この場にやってまいりました」
オリーザさんは大きな斧を背負い、中央の試合場へと脚を運ぶ。一歩一歩に重量感があり、強者の風格を放っていた。
茶色っぽい試合場の土の上に立つと黒っぽい冒険者服が一艘際立ち、威圧感を湧き立たせる。
もう一方から、オリーザさんと同じく巨漢の男性が歩いてきた。人族で、こちらも斧を背負っている。雰囲気はオリーザさんと似ており、オリーザさんを人にしたらライズさんのようになるんだろうなと優に想像できた。
「勝たせてもらう。若者に道を譲ってもらおうか」
「なら、俺をどけてから行くんだな」
両者共に口数は少なく、試合場に到着するや否や戦いが始まる。オリーザさんは大斧を背中から引き抜き、ライズさんも大斧の持ち手を握る。
「では、準決勝一試合、開始」
審判の方が手を下げると、オリーザさんとライズさんは飛び出し、大斧を振りかざした。その間に、ライズさんの体が光に包まれ『身体強化』を使用したことがわかる。
あまりにも強い力で打ち付けられた大斧は金属がひしゃげたような音を発生させ、爆発のような突風を生む。突風により、地面の水は吹き飛び、二名の周りは硬い地面が露出した。
両者の筋肉に血管が浮き上がり、今にもはち切れてしまいそうなほどだ。
斧同士を何度もぶつけ合い、飛び散った鉄が熱で燃え、火花が散っている。巨大な大砲を打ち鳴らしているような音が斧同士をぶつけ合わせると響く。
心臓を震わす空気の振動が何度も何度も放たれるたび、降っている雨のしずくが吹き飛び、巨人が戦っているかのようだ。
どちらかが力負けした瞬間に勝敗が決まるのではないかと予想する。力と力のぶつかり合い。戦いと言うよりかは力比べと言ったほうがしっくりくる。
だが、男と男の真剣勝負で、フェイントやカウンターと言う手法をどちらも全く使わない。これじゃあ、武器の性能にもよるのではないかと考えていたら、ライズさんの大斧が持ち手から真っ二つに折れた。
武器の方が力に耐えられなかったらしい。オリーザさんは追撃するのではなく、斧を場外に投げた。どうやら、拳と拳の戦いを行うようだ。
オリーザさんの拳とライズさんの拳がぶつかり合い、互いの腕が軋む。体に拳を当てれば弾き飛び、地面を転がりながら全身を泥まみれにした後、中央に走りながら拳を打ち付ける。辺りに響く振動が、一撃の重さを物語る。
オリーザさんとライズさんは時間いっぱい殴りあった。もう技量とか魔法とか関係なしのただの殴り合い。
後半はオリーザさんの一方的な状況が続いていた。ライズさんは倒れず、橙色の魔力が無くなっても時間いっぱい殴り合っていた。
どう見てもオリーザさんが手加減しているのだが、会場は沸き立っている。
オリーザさんは会場を熱くさせるためにわざと白熱している戦いを演出しているようだった。良いのか悪いのかわからないが、力の差が相当開いていると言うことがよくわかった。
最後はオリーザさんの拳がライズさんの顎に撃ち込まれ、巨大な体が宙を舞い、背中から地面に落ちる。
周りから見れば良い戦いに見えたかもしれないが、僕からしてみれば、大人と子供が戦っているように見え、拍手と言うか、相手が可哀そうと思うほどだった。
オリーザさんは礼をしながら試合場から出る。皆が拍手を送り、ライズさんも称えられていた。きっとここまで勝ち上がってきたのだから、相当な実力者だったのだろう。だが、相手が悪かった。
「圧巻の肉弾戦を制したのはオリーザ・ギレインさんです。去年と同じく決勝戦に進出いたしました! 一〇分後、準決勝二戦目を行います。皆さまはそのままお待ちくださいっ!」
僕は試合場まで進む。シトラから貰った黒い手袋をつけ、背中にくっ付いているフルーファを握ると、身震いしていた。フルーファも戦いたくて仕方がないようだ。
待合室を出て試合場に足を踏み入れた。反対側から僕の対戦相手が歩いてくる。
試合場は職員の方により、整備されていた。地面の穴を埋め、しっかりと均される。一戦目と同じ状況が整ったら、僕達が呼ばれる。中央に歩いて行き、新たに石灰で描かれた外側の白線のもとに立つ。
「ただいまより、準決勝二戦目を行います。キース・ドラグニティ対ユビル・メナースです。オリーザさんと同じく予選を一〇連勝で勝ち上がってきた実力を持つキースさん。かたやAランク冒険者になり、三〇○回以上のAランク任務をこなしている実力派ユビルさん。その力量はSランクに届くと言われています。本当の実力を未だ見せていないキースさん、熟練冒険者相手にどのようにして戦うのか見ものです!」
――Aランクの依頼を三○○回もこなしているなんて、凄い。Sランク冒険者になってもいいくらいの実力を持っているんだ。何かなれない理由でもあるのかな。
僕の視界に映っている男性はほど良い筋肉がついているだけで筋骨隆々と言う訳ではない。
身長は一七五センチメートルほど、橙色の短髪なので、マゼンタとイエローの二色持ち。年齢は三○代前半のイケているおじさんだ。
若いころはさぞかしイケメンだったんだろうな。今もカッコいいが、とても冷徹な目をしている。多くの仲間の死を見て来た瞳だ。
武器は剣。
服装は革製の胸当て、グローブ、肘宛てなど、軽い装備を身に着けていた。以前からの戦いを見る限り、色々とお手本をなぞっているような動きをする方だ。
「互いに礼」
審判の方の指示で僕は頭を下げる。そのまま前に歩き、内側の白線の位置にやってきた。
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