緊張する
「はぁー。あっつい。さすがに食べすぎてるかなー」
ティナさんは首元に指をいれ、風を生み出していた。そうすると、ふくよかな胸の谷間が見え、くろっぽいブラジャーが垣間見える。
ライアンの表情はもう、猿のように鼻の下が伸び切っていた。
「んー、沢山食べたら汗かきすぎた。匂いが相当きついだろうなー」
ソアラさんは冒険着の首元のボタンを外し、風通しを良くする。すると、急に色っぽく見えた。鎖骨が見えるからだろうか。
「私、お手洗いに行ってくる」
「あ、ぼくも行きます」
シトラとミルが席を立つと、ティナさんとソアラさんが僕の隣に座ってくる。
「キースさんって、人族の女性に興味はないんですか?」
ティナさんは僕の腕を掴みながら聞いてくる。
「えっと……、ティナさん、相当酔ってますね」
「ええー、全然酔ってないよ。私はまだ理性がちゃんと残ってるもん」
ティナさんは頬を膨らませ、むくれながら言った。
「キースさんって何歳なんですか? 顏からして下っぽいですけど、一応きいておきます」
「僕の年齢は一六歳ですよ」
「やっぱり年下だー。じゃあじゃあ、キース君って呼んでいい?」
「構いませんよ。好きに呼んでください」
「えへへー、やったー。ありがとう、キース君」
ティナさんは僕の肩に頭を乗せ、微笑んでいた。素面の時と酔っぱらっている時の性格が全然違い、頭がおかしくなる。
「じゃあじゃあ、私もキース君って呼ぶし、ため口でいい?」
ソアラさんは僕の腕に抱き着き、質問してきた。
「構いませんよ。お二方の方が年上なら、ため口でも構いません」
「ありがとう、キース君」
シトラさんは僕の肩に頭を乗せ、微笑んだ。
「…………」
ライアンは茫然としており、何が起こっているのかわからないと言った表情をしている。
僕にも何が起こっているのかなぞだ。
「二人共どうしたんですか? 僕とは初対面ですし、距離が近すぎます」
「私、このまま解散したら、目の前のけだものに襲われてしまうかもしれないのー。だから頼もしいキース君に守ってほしいなーって思ったんだよ」
「私も同じー。橙色の勇者さんって、良い人だけど、遊び人って感じがして受け付けないんだよねー」
「ぐはっ……」
ライアンは珍しく大きなダメージを食らい、仰け反った。
「キース君はシトラさんとミルさんの二人と毎日過ごしているの?」
「そうですよ」
「二人と生活していて楽しい?」
「もちろんです」
「二人を愛してるの? ただのペット? 遊び相手?」
「愛が何か知りませんけど、ペットや遊び相手とは思っていませんよ」
「二人の子共が欲しい?」
「今、僕は子供が育てられるだけ大人じゃないのでいらないです」
「いつになったら大人いなるの?」
「さあ……。わかりません。大人の境目なんて誰もかれも違うんじゃないですかね」
ティナさんからの質問が止まらず、僕は困っていた。
――シトラとミルが戻ってくる前に、この場をいったん離れなくては。
僕はティナさんとソアラさんの手を解き、立ち上がった。
「席を少し外します」
僕が扉を出ると、シトラとミルが立っていた。いったい何をしていたのだろうか。二名は僕とティナさん達の話しを聞いていたのだろう。特に聞かれて不味かった質問はないはずだ。
「戻ってたのなら、入ればよかったのに」
「いやー、何んか入りにくい雰囲気だったので……」
ミルはもじもじしながら呟いた。
「私が大人にしてあげるわよ……」
シトラは頬を赤らめながらぼそぼそと喋り、部屋の中に入る。僕はトイレに向かい、用を足した。水で手を洗って部屋に戻る。
「あれ? ティナさんとソアラさん、ライアンは?」
「はしご酒をするそうです。先に帰ってしまいました。大金貨一枚で料金を払っておいてほしいとキースさんに」
ミルは僕に大金貨一枚を手渡してきた。大金貨一枚で払ったらさすがにお釣りが来るんじゃないだろうか。まあ、ライアンのお金だからいいか。
僕達はお店に大金貨一枚を払い、出る。
僕達は夜道を歩き、風に当たる。体が煙臭くて早くお風呂に入りたかった。
「はあー、いっぱい食べました。やっぱり炭火で焼くと肉の美味しさが引き立ちますね」
ミルはお腹を摩りながら言う。
「そうだね。二人が喜んでくれたらよかったよ」
「明日は男の部の準決勝だし、キースはお風呂に入ったあと寝なさい」
「うん。そうするよ」
僕達は胃の中の肉をある程度消化したあと家に帰った。お風呂のお湯に浸かり、体を暖める。
シトラとミルが背中を洗ってくれた。本当は全部洗いたいそうだが、僕は赤子ではないので、遠慮しておく。二名の背中も洗い、綺麗にした。
お風呂から上がり、寝る準備をして寝室に向かう。
僕はアルブと共に眠り、シトラとミルが別室で一緒に眠る。
八月二六日。
朝、天気は雨。土砂降りではないが、どうもどんよりした雨だった。じめじめと言うのだろうか。気温が暑すぎるより雨が降っていた方が涼しくていいかもしれない。
僕は布団から起き上がり、出発の準備をする。アイクさんから貰った冒険者服を着て朝食を得て、何ら変わりない一日の始まり。
僕は橙色武術祭の準決勝に緊張しているのか、どうも落ち着かない。
椅子から立ち上がったり、目を少し閉じてみたり、息を整えてみたり。そうするだけで、心がほんの少し静かになった。
でも、心がすぐに乱れ、緊張してくる。
昨日のミルとシトラがこんな状態だったのかと思うと、なんで、こんな状態なのにあそこまで戦えたのかと疑問に思った。
僕はシトラとミル、アルブと共に闘技場へと向かう。
移動中、何度あくびしただろうか。思い出せない。別にふざけているわけではなく、緊張しているとあくびが出てしまうのだ。
――対戦相手はオリーザさんか、もう一人の男性か、どちらだろう。わからない。でも、どちらが相手でも、僕は全力で倒すのみ。
闘技場にやってくると多くの観客がいた。雨だろうが関係ない。良い場所で見たい人が多いので、昨日から移動せずにそのままの席で眠っている人もいただろう。違反ギリギリだが、とがめられていないと言うことはそう言うことなので怒ることは出来ない。
「じゃあ僕は試合場で一戦目か二戦目のどちらか見てくるよ」
「ぼくたちは観覧席でキースさんの勇姿を見ていますね」
ミルは僕の手を握り、力を籠める。
「後半だったら上で見てもいいけど、下でも見れるから、キースの好みで決めたらいい」
シトラはアルブを抱きながら、言う。
「主、スキルは本当に使用しなくていいんですね」
アルブは尻尾を振りながら聞いてきた。
最後までお読みいただき、ありがとうございます。
続きが気になると思っていただけましたら、ブックマークや評価をぜひお願いします。
評価はこのページの下側にある【☆☆☆☆☆】をタップすればできます。
毎日更新できるように頑張っていきます。
これからもどうぞよろしくお願いします。




