オムライス
「ほんと、ミルちゃんはキースが大好きよね。何がそんなに良いんだか……」
「じゃあ、シトラさんはキースさんが作ったハートオムライス食べちゃ駄目ですからねー」
ミルはシトラの方を向き、言う。
「何を言ってるの? 食べるに決まってるじゃない」
シトラはさっきの発言と全く違う返答をした。結局二名は僕の料理を食べたいと言うことで昼食の材料を買いに、市場に向かう。
「うう……。負けてしまいました」
市場にある大食いレストランで、橙色の長髪をたなびかせ、山もりの料理を一人で食しているティナ・レーピアさんがいた。
あまりにも大量の食事に僕たちは引く。
魔力視で体を見て見ると、魔力がスッカラカンだった。そのため、食べて魔力の回復に努めているのだろう。
「どうしたんだい。話でも聞こうか?」
橙色の勇者ことライアン・ハートフルがいつも以上に紳士的な対応を取りながら、ティナさんに話しかけた。
「どうもこんにちは橙色の勇者さん。別に話すことなどありませんから、あっちに行ってもらえますか。食事の邪魔です」
ティナさんをライアンなど気にせず、食事を進める。
「はは、そんなこと言わずに、一人で食事するのは寂しいでしょ。俺が一緒にいてやんよ」
「結構です。あなたと話すことはなにもありません。不愉快なので、前に座るのもやめてください」
「手堅いな……。でも、そんなところが美しい」
「ははっ……、どうもありがとうございます。何も嬉しくありませんが、あなたのような人をすけこましと言うのでしょう。私はあなたのような人が大嫌いです。話かけないでくれるととてもとても嬉しいので、どこかに消えてください」
「う、うぐ……。そ、そうだね。この時間はお暇させてもらうよ……」
ライアンは潔く引き下がり、ティナさんの近くの席に着席。彼女の姿をチラチラと見ながら、ため息を吐いた。
「ライアンはティナさんの大盛り料理を一緒に食べたかったのだろうか……」
「違いますっ」
「違うでしょ」
僕はミルとシトラに同時に突っ込まれ、両者に首を振られた。
「ティナさーん。お待たせしました。負けた者同士、一緒に慰め合いましょうっ!」
現れたのは黄色髪の短髪女性、ソアラさんだ。こちらも大盛り料理を皿に盛り、ティナさんの席に座る。
「負けた者同士はいらないでしょう。みじめな気持ちになります」
「すみません、私は勝っても負けてもどっちでもよかったので……」
「はぁ……。そんな精神だから、最後勝ちきれなかったんですよ」
「ですね……。でも、相手の獣族さんがめちゃくちゃ強かったのは事実ですよ。私、大剣と魔法まで使ったのに負けました……。完敗です」
「そりゃあ、橙色武術祭の準決勝まで残っていた方達なんですから、強いのは当然です。まあ、悔しくないと言ったら嘘になります。なんせ魔法を一切使わず倒されたわけですからね。相手の弱点を完全についた完璧な作戦だと思ったのですが、思っていたよりもお相手の身体能力が高かった。見誤った結果、剣を奪われ肉弾戦に持ち込まれてしまった」
「魔法を重ね掛けした攻撃と獣族の筋力じゃ、普通に魔法が勝つはずなんですけどね……。離れていたのに攻撃が当たるあの拳が謎で仕方ないですよ」
ティナさんとソアラさんは共に大量の食事を得ながら、会話していた。話の題材は対戦相手のシトラとミルのようだ。負けた原因を考え、改善していこうとする姿勢を見て、僕は強者だなと感じた。
ミルとシトラの方を見ると、へにょへにょとしており、嬉しがっている。このままだと普通に抜かれかねない。
「ミル、シトラ。嬉しがっている場合じゃないよ。このまま行ったら、ソアラさんとティナさんに負ける未来が来る」
「うぅ……。確かに、ギリギリの戦いでした。ぼくたちも精進しないといけませんね」
「そうね。あの二人のためにも、腑抜けた戦いをしないように全力でぶつかりましょうね」
「はい。もちろんですっ!」
ミルとシトラは互いに右手を握り合い、明後日の意欲を高めた。
「じゃあ、食材を買いに行こう」
僕達は卵、麦米、鶏肉、トマトソース、グリンピース、玉ねぎ、にんじんを買い、家に戻る。
僕はミルとシトラのためにオムライスを作り、ハートの形にトマトソースをかけて二名の前に出した。
「キースさん『ミル大好き』の文字が足りません」
「こっちにも『シトラ大好き』の文字が無いじゃない」
「そこまで書くのは難しいよ。だから、声で我慢して言うことにする」
僕はミルの耳元で「ミル大好き」と呟き、頬にキスをする。
「きゃーーーーっ! はぐはぐはぐはぐっ! 美味しい、美味しいっ!」
ミルは黄色い声を放った後、オムライスをスプーンで口の中に掻きこんでいく。
となりにいるシトラの耳元で「シトラ大好きだよ」と呟き、頬にキスをした。
「ふっーーーーっ!」
シトラはダルそうだった目を見開き、オムライスをスプーンで口の中に掻きこんでいく。
「主、主。私にはないんですかー」
アルブはテーブルをどんどんと叩き、お腹が減った子供のように、待っていた。
「今持っていくよ」
僕はアルブのもとにオムライスを持っていき、同じように「アルブ大好きだよ」と呟いてキスをした。
アルブはオムライスに顔を突っ込み、無我夢中で食べ進める。
「凄い食べっぷり……。ゆっくり食べないと喉に詰まるからね」
「はーいっ」
三名はオムライスをペロリと完食した。お替りはないので、我慢してもらう。
「じゃあ、大好きだよをお替りください」
ミルは手を上げて僕にお願いしてきた。
「仕方ないな……」
僕はミルに抱き着き、耳もとに囁く。
「ああ……。幸せ……、こんな幸せなことがあって良いんでしょうか……」
ミルはふにゃふにゃになってしまい、昼寝の時間に突入する。
「次は私……」
「はいはい、シトラもね」
僕はシトラにも同じように、呟いた。すると、キスのお替りも欲しいと言うので、頬にしようとするも、シトラは強引に口づけをして来た。そのまま抱き着かれて床に叩きつけられる。
今日、勝ったので大目に見よう……。
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