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三原色の魔力を持っていない無能な僕に、最後に投げつけられたのがドラゴンの卵だった件。〈家無し、仕事無し、貯金無し。それでも家族を助け出す〉  作者: コヨコヨ
第三章:橙色の領土。クサントス領

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身体強化と五感

「ふぅ……。落ち着け落ち着け……。まずは魔力操作をすればいい」


 ミルは瞳に魔力を持って行った。どうやら、僕の真似をしているらしい。確かに魔力視なら、裸眼よりも状況の判断は出来ると思う。

 僕もミルと同じように魔力視を使って試合場を見た。

 砂と風は消え、中央にいるティナさんが見える。直径五メートルの範囲が橙色の魔力に覆われており、あの場に踏み込んだら切られるんだろうなと優に想像できた。


 剣身に橙色が見えないため、鉄製だと考えると、剣を振る速度がどれほどかによって戦法が変わってくる。


 ミルは顎に手を置き、尻尾を揺らしながら考えていた。すると、ティナさんが走り出す。どうやらミルに考え事はさせたくないらしい。砂嵐の効果が効いている間に、倒したいと言う判断だろう。


「ふっ!」


「くっ!」


 ティナさんの攻撃はミルの髪の毛を少し切った。ミルは魔力視によって攻撃を躱し、一歩踏み出して反撃に出る。だが……。


「ふっ!」


「つっ!」


 ティナさんのあまりに早い切り替えしに、ミルは眼を細め、背中が剣身の上表面を擦るほどギリギリの地点を跳躍して回避。

 あの切り返しと紙一重の回避ができる両者は流石、準決勝まで登ってきたなと思う。


 ミルは剣身を踏み台に、ティナさんと距離を取った。


 ミルの攻撃が当たるよりも、ティナさんの剣速の方が上なので、懸命な判断だ。攻めても後手にしかならないため、判断を見誤った瞬間、剣の錆びにされる。


「ぺっぺっ……。口の中が砂だらけ……。最悪です……」


 ミルは唾を吐き、口内の砂を出していた。


「さすが獣族……。この環境下の中でも、攻撃を二度躱すなんてさすがですね」


「褒めてくれてありがとうございます。でも、身体強化を使えば、攻撃をぼくに当てることは可能なんじゃないですか」


「そうやすやすと使える魔法じゃないんですよ」


 ティナさんは剣の柄を両手で握り、正面に構える。


 ミルは足踏みをしながら、魔力を両手に溜めていった。


 剣対拳と言うあまりに不利な状況。加えて天候は最悪。そんな中でもミルは冷静だった。鼻と目だけでティナさんと戦うつもりらしく、魔力切れを狙うため『身体強化』を促すも、ティナさんはミルの戦法をしっかりと熟知しており『身体強化』を使わない。


 まあ、天候を操作するなんて魔力を相当使うはずだ。加えて『身体強化』まで使ってしまったら、魔力がすぐに尽きてしまう。魔力を無くさせるか、剣を当てるか、どちらが先に理想の勝利の方程式を弾きだせるか。残り八分。短い時間の中、頭と体を動かして勝利を狙う。


「ふぅ……。はっ!」


 今度はミルから攻めた。受け身では、ティナさんの剣を一度躱しても攻撃に移れなかった。ならば、速度を付けてからの攻撃しか、ミルがティナさんに攻撃を当てる方法が無い。

 ミルは魔法が使えず、攻撃範囲の広い武器もない。そのような状況を鑑みて素早く判断し、攻撃に移ったのだろう。時間を無駄にしたくないと言う糸がくみ取れる。


「はあっ!」


 ミルは橙色の地面に足を踏み入れ、攻撃を繰り出す。


「せいやっ!」


 剣の間合いに入られたため、ティナさんも攻撃を繰り出した。


 ミルは拳を突き出し、ティナさんは剣を縦に振りかぶる。砂嵐の中でも綺麗な軌道が見えた。


 だが、ミルは全身の筋肉を一瞬で硬直させる。今までの運動力が無くなり、鼻擦れ擦れで剣が過ぎさる。


 ミルは地面に向った剣の穂先を踏みつけ、持ち上げられるのを阻止したあと、拳をティナさんの顔面に打ち込む。


「くっ! ぐはっ!」


 ティナさんは歯を食いしばりながら、拳を受ける。一度受けた箇所から、もう一発、魔力の塊が飛び出し、ティナさんの顔を襲った。

 一度で二度の攻撃を食らったため、衝撃が内部まで届き、力で耐えられる訳もなく、剣の柄を離しながら後方に弾き飛ばされる。

 剣を踏まれていたため、力を後方に逃がすこともできず、長い髪を大きくなびかせながら頭から地面に向かった。反った状態から、腹筋に力を入れ、体を丸める。その瞬間、長い脚が弧線を描き、地面に向く。そのまま足裏で着地するも、後方に向かう力は未だ健在で、地面を何度も転がり、砂塵を巻き立たせる。


「くっ……。あんな急停止、普通出来ないでしょ……、どうなってるの……」


 ティナさんは鼻と口角から一筋の血が流れていた。どうやら鼻腔と口内を切ってしまったらしい。


 ――ミルが急停止した理由は地面と靴裏を無色の魔力でくっ付けただけだ。接着してしまえば体は止めやすい。相手に見えにくい無色の魔力だからこそ、出来る戦法だろう。


「これで、剣が使えませんね。どうやって戦いますか?」


 ミルはティナさんの剣を持ち、武器を奪った。そのまま場外に捨て、素手同士の戦いとなる。ミルに素手で対抗するのは厳しい戦いになるはずだ。きっと橙色の勇者でも同じ条件だと苦労するはず……。


「仕方ありません。このまま戦っても勝ち目はありませんし、勝って賞金が欲しいですし、出し惜しみはしません『橙色魔法:身体強化』」


 ティナさんは両腕を顔の前でバツ印のように重ね、肘を後方に持っていき、脇を勢いよく閉める。すると、膨大な橙色の魔力が発生し、長い髪が光り、蠢く。

 まるで生きているかのようだ。

 その瞬間、砂嵐は止まり、雨のようなサーッという心地よい音が一瞬鳴った。


 砂嵐が止まったことでミルの感覚が全て元に戻る。


 『身体強化』されたティナさんと六感がそろったミル、このまま行くと、攻撃を加えたミルの方が判定勝ちに近いが、のこり五分、半分を切ってからが本当の勝負だ。

 結果はまだわからない。


 ティナさんの『身体強化』は何か普通の橙色魔法と違い、輝きが強い。魔力の質が高いのか、橙色に限りなく近いのか、わからないが異様な魔力を体から放っている。


 ミルの第六感も危険だと言っているのか、余裕のある表情ではない。


「では、行きます……。はっ!」


 地面に落ちた砂塵を後方に吹き飛ばし、通った地面の周りにある砂も巻き上げながらティナさんは走り出した。


 ミルの頭上に一瞬で移動。拳を大きく振りかぶり、ミル目掛け、振り抜く。


「ぐっ!」


 ミルは眼を見開き、歯を食いしばって右に飛び移る。ティナさんの拳が地面に直撃し、固い地盤が大きく陥没した。

 直径三メートル、高さ一センチメートルほど凹ませた。決して柔らかくない地面なのに、拳で凹ませてしまうとはとてつもない筋力だ。『身体強化』の影響を大きく受けている。

最後までお読みいただき、ありがとうございます。


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