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三原色の魔力を持っていない無能な僕に、最後に投げつけられたのがドラゴンの卵だった件。〈家無し、仕事無し、貯金無し。それでも家族を助け出す〉  作者: コヨコヨ
第三章:橙色の領土。クサントス領

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好敵手

「二〇戦目、開始っ!」


 審判が手を振り下げると、ミルは低い姿勢で走り出した。


「あなた、中距離戦が苦手でしょ。悪いけど、近づけさせないから」


 槍士は槍を両手で持ち、左脚を前、右脚を引き、矛先をミルに向けながら構える。


「苦手かどうかは、自分で確かめてくださいっ!」


 ミルは持ち前の瞬発力で、地面を掛ける。


 いきなり九〇度曲がったかと思ったら、すぐに直進、横への移動と直進の緩急が独特で、槍士は槍を突く瞬間を見極めかねている。


 槍士にとって一番最悪な状況は槍を折られる。捕まえられる。奪われると言った、攻撃手段を失った場合だ。ずっと動かしていたら、腕が伸び切っている間に捕まれ、引っ張られる可能性だってある。なるべく一刺しで決めたいのだろう。


 だが、ミルの稲妻を思わせる走行により、攻撃の判断がつかない。前方にいたかと思えば、いつの間にか後方にいる時もあり、またある時は右側、また左側と、攻撃する瞬間を迷えば迷うほど、ミルの罠にはまっていく。


 ミルの狙いは相手に攻撃させて、持ち前の危機察知能力で回避。カウンターをお見舞いすることだ。時間が経てばたつほど、両手の魔力量は増える。

 ミルは僕と同じく魔力操作が得意で、高速移動をしながらでも魔力を溜められた。つまり、長引けば長引くほど、ミルが有利になっていく。加えて、カウンターを恐れ、何もしないでいると……。


「攻撃しないなら、させてもらいますねっ!」


 ミルは相手の懐に移動しており、鳩尾に拳を打ち込む。


「なっ! いつの間に」


 槍士はミルを見た瞬間、後方に跳躍。ミルの拳は外れた。だが……。


「ぐふっ! な、何が……。躱したはず……」


 槍士は後方に着地したら、たちまち膝を地面につけ、嘔吐した。


 どうやらミルは右拳に溜められていた魔力を鳩尾に打ち込んでいたらしい。獣拳が内部の臓器を貫通し、ダメージを与えたのだ。


「はぁ、はぁ、はぁ……」


 槍士は呼吸困難に陥り、立っているので精一杯と言った状態だ。鳩尾に獣拳を食らったとなれば、体の重要な部位に大きなダメージを負ったことになる。痛みからじき倒れるだろう。


「ぐぅ……」


 槍士はミルに攻撃できぬまま呼吸困難により、倒れた。


 周りは騒然としており、ミルは僕の方に手を振る。


 ミルは一撃で勝負を決めた。ミルの戦法をうち破るには、ミルの先を行く戦闘の勘を持っていなければならない。

 彼女は手負いだった黒いマクロープスを引き付け、瀕死状態にまでさせたほどの実力を持っている。


 ミルならライアンにも一矢報いることができるのではないだろうか。いや、ライアンの方がさすがに強いか。


 倒れた槍士は担架で運ばれ、ミルの勝利が決定した。ミルが試合場から戻ってくると、一目散に僕に抱き着いてくる。そのまま頬にキスをしてきて、身を震わせていた。


「キースさんに鍛えてもらったぼくが簡単に負けていられません。次もしっかりと勝って、優勝賞金をいただきますよ!」


「あまりお金のことを考えなくても良いからね。試合を楽しまないと意味ないよ」


「もちろん、楽しんでますよ。ただ、ぼくが他の方よりちょっとばかし強いだけです」


 ミルは鼻高々なになっていた。


 まあ、自分が強くなっていると実感できるのは楽しく、気分が良いのだろう。だが、あまりに伸びすぎた鼻は折られると心が傷つく。

 ミルより強い者はこの世に何人もいる。ミルは鍛錬を怠らないし、自分が他人より秀でていると思っていないかもしれない。

 だが、強さに意味はなく、過程が重要だ。だから、ミルの頑張りを知っている僕はこうなるのも必然なのかもしれないと心の中で思っていた。でも、ミルを打ち負かす者が出てきてほしいと言う自分がどこかにいる。


「あー。賞金の金貨一〇〇〇〇枚。なにに使おうかなー。やっぱり、ぼくとキースさんの子供の教育費用に充てたほうがいいですかねー」


 ミルは大会で勝利し、賞金をすでに勝ち取った気でいる。


 今、第七試合の女部門、三一試合が全て終わったところだ。僕の見たところ、ミルを打ち負かすほどの選手はシトラくらいしかいなかった。

 まだ、実力を隠している可能性はあるが、もう第七試合まで来ているので、隠し事も出来なくなっているだろう。


 皆全力で戦っていると考えると、ミルの戦いを知るシトラくらいしか、勝てる相手がいない。皆、ミルの作戦にはまり、敗退する未来が見える。


 僕が考え込んでいると、後頭部から拳が飛んできた。シトラが僕をぶったのだ。痛くはなかったが、僕の考えが読まれていたらしく親指を立て、任せろとでも言わんばかりの微笑みを見せた。


「キースは自分のことを考えなさい。ミルちゃんは私が倒す」


「はは……。ほんと、何でもお見通しだね」


 シトラとミルは視線を合わせ、バチバチの火花が舞っていた。


 ミルもシトラを好敵手として考えているのか、早く戦いたくてうずうずしている。


 二名が第八試合で戦うのか、はたまた決勝戦で戦うのか。僕はわからない。でも、誰が見ても心震える試合になるだろう。そう、確信できる。


 僕は助言をせず、二名の戦いが来る日を待ち望んだ。


 八月一六日。男の第七試合が始まった。


 九二名の試合があり、四六戦おこなわれる。全て一〇分。四六〇分だとすると、だいたい八時間あれば、第七試合が終わる。


 僕は八戦目なので、一時間もしないうちに僕の番が回ってくるだろう。オリーザさんは四〇戦目なので、相当後の方だ。


 僕はオリーザさんといつ当たるのかヒヤヒヤしながら、対戦表を見ている。その後、観覧席に戻り、席に座った。


「キースさんは八戦目ですか。すぐ出番ですね」


 ミルは僕の肩に頭をかけながら呟く。


「うん。早く終わらせてしまいたいよ。この緊張感が本当に苦手なんだ」


「その緊張感を楽しむのが大会の良い所じゃないですか。たくさん楽しめばいいんですよ」


「そうだけどさ……」


 僕はシトラから貰った黒いグローブを握り、フルーファを脚に挟みながら緊張をほぐす。


「緊張しなくても、主なら大丈夫ですよ。自分を信じてください」


 アルブはシトラに抱かれながら足をばたつかせて呟く。


「自分を信じるしか恐怖に打ち勝つ方法はない。自分の辿ってきた日々を思い出しなさい」


 シトラは僕の顔を見ながら言う。本当に何気ない一言だが、今日の試合も僕は頑張れそうだ。


「ありがとう、皆。勇気が少し湧いてきたよ。頑張って戦ってくる」


 僕は皆の応援を力に変え、七戦目が行われている間に観覧席を出て一階に降りる。そのまま試合場に続く通路を歩いていく。

最後までお読みいただき、ありがとうございます。


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