安心しきった冒険者ギルド
僕はべニアさんがどこにいるのか、わからないのでとりあえず騎士団に来てみた。
橙色武術祭の間は騎士団と連携して仕事に当たるとクサントスギルドの扉に貼ってあったので、少なからず誰かはいるはずだ。
騎士団は全領土に配置されており、中央にある王都の本部が指令を出しているため、祭りだろうが、仕事を休むわけにはいかない。そのはずなのだが……。
「う、嘘……」
クサントス領の騎士団にやってきたところ、騎士とは思えない猫一匹が受付に寝転がり、受付中と書かれた木版を抱いていた。騎士団の中はもぬけの殻。
皆、外で仕事をしているか、眠っているのか、どちらかだと願いたいが、現在の時刻は午前七時三〇分。仕事をしていてもおかしくない時間だ。なのに誰もいない。
「こりゃ……、笑えないぞ」
僕は騎士団の資料を勝手に見たら犯罪だが、今は誰もいないので見られない。まあ、見る気もないが、ルークさんのような情報員が侵入したら根こそぎ情報を持っていかれてしまう。なんて危機感の薄い領土なんだ……。
「ふわぁ……。よく寝た……」
「うわっ、なんか出て来た」
受付の足下から、誰か出て来た。どうやら、受付さんらしい。誰もいない訳ではないようだ。
「すみません、クサントスギルドのギルドマスターをしているべニアさんに連絡したいことがあるんですけど、会えませんか?」
「べニアさんですか? ふわぁぁ……。ちょっと待ってください……」
眠たそうな女性が、奥に向っていき、壁を見る。
「えっと、べニアさんは闘技場で、試合の審判をするようです」
「そうですか。ありがとうございます」
僕は女性に頭を下げ、闘技場に向った。試合開始は午前八時から。それまでに話を付けておかないと。
五分ほどで闘技場に到着した。
べニアさんを探すと彼女は会場内で地面の様子を見ていた。石ころなどが落ちていないか確認しているようだ。
「べニアさん。少しいいですか?」
「キース君、どうしたんだい?」
べニアさんは僕に気づき言う。
「クサントス領の周りから、嫌な雰囲気を感じます。冒険者で魔物の討伐を行ったほうがいいですよ。そうしないと、魔物の大群が攻めてくるかもしれません」
「魔物の大群……。そうなったら、ここにいる八万人の力自慢たちが戦いに向かうから、心配しなくても大丈夫だ。魔物とは言え、多くの人間に掛かれば、大したことはない」
べニアさんは多くの仲間がいると言って完全に安心しきっていた。
――殲滅力がバカ高い赤色の勇者が一〇時間戦っても討伐しきれなかった魔物の大群が攻めてきたらどうするんだ。
確かに八万人はすごい数だけど参加者の数だよな。
冒険者さんと一般人も混ざっているだろうし、子供だっていた。会場に来ていない人だっているだろうし、実際に戦えるのは八万人もいないはずだ。
「べニアさん、出来るなら、ギルドを開けて少しでも仕事が出来るようにしてください。橙色武術祭で負けた冒険者に仕事場を与えた方が生活しやすいはずですし、魔物の数を減らせます」
「もう、試合が始まる。すまないが、試合場から出て行ってくれ。本来は試合前に試合場に来るのは禁止だ。だが、キース君の顔に免じて不問にしよう。キース君も細かいことは気にせず、祭りを楽しめ。恐れるものは何もない。強大な魔物が来てもライアンに任せれば大丈夫だ」
べニアさんは楽観視しまくった発言をした後、僕は試合場から出た。
「…………気にせず楽しめか。どうなっても知らないぞ」
僕は楽観的すぎるべニアさんに呆れ、家に戻る。シトラとミルが心配しているかもしれない。
僕が家に帰ると、シトラとミルが出発の準備を進めていた。
「あ、キースさん。おはようございます。今までどこに行っていたんですか。心配しましたよ」
ミルは僕のもとに駆け寄る。そのまま、抱き着いてきた。
「領土の外が少し気になって、見ていってたんだ。いやな気配がしたのは確かだった。でも冒険者ギルドと騎士団の両方が祭りに全力を注いでいてさ……。あげくの果てに、気にせず楽しめと言われてしまったよ」
「なら、気にせず楽しめばいいじゃないですか。キースさんの気持ちもわかりますけど、ギルドマスターが言うなら、きっと大丈夫なんですよ。気にしすぎも毒ですし、遊びましょう」
「そうだね……。気にしすぎも駄目か。じゃあ、楽しもう」
僕達は闘技場に向かい、第二試合の戦いを見て確実に強い人ばかりが集まっているなと言う印象を得た。
試合を見ていると、勝つか負けるかの接戦で客は大きく盛り上がる。
多くの者の歓声を聞くと大きく盛り上がっていく。その気分が心地よい。
一致団結する力と言うのは皆が同じ視線を向き、集団で移動しているような状態だ。一人で盛り上がるより、何万人で盛り上がった方が感情が爆発している気分になる。
これが楽しくて皆、闘技場に脚を運んでいるんだろうな。そう思うほど、僕の気持ちも高ぶっていた。
八月六日、七日の昼で、第二試合が終了した。
八月八日。僕の誕生日と初試合が重なる。
「んん……。ん?」
「んはぁっ……。おはよう、キース。よく眠れた? あと、誕生日おめでとう」
僕はシトラにキスで起こされた。誕生日だからだろうか。何とも悪くない目覚めだ。
「うぅ……。ぼくもキースさんとキスしたいです……」
「ミルは抱き着きで勘弁して……」
僕はミルにひねりつぶされそうになるほど抱き着かれ、体が悲鳴を上げる。何とか解放してもらい、朝食をとって出発の準備をする。
――今日が僕の初戦だ。勝てるかな。シトラとミルは三回戦目だ。全員出る可能性があると思うと、緊張してきた。僕の相手は本戦を二回も勝ち進んできた実力者だ。油断はできない。シトラとミルの相手だってそうだ。
試合の回数が増えるごとに相手も強くなる。この高揚感たるや戦い好きにはたまらない大会なのがひしひしと感じられた。
僕は戦いがあまり好きではないので、緊張でひねりつぶされそうだが、シトラとミルは握り拳を作り、待ちきれないと言った表情をしている。
「主、スキルの使用は無しでいいんですね?」
アルブは、僕の肩に乗りながら聞いてきた。
「うん。僕は正々堂々と自分の力だけで戦うよ」
「私の力も主の力の一部だと思うですけどね……」
「アルブの力を使ったら、相手の攻撃が僕にとどかないでしょ。そうなったら、倒しようがない」
「わかりました。では、スキルは使用しないと言うことで」
僕はアルブの力を借りず、最後まで戦うと決めた。その方が祭を楽しめるはずだ。
今日の天気は雨。でも、祭りは雨が降っても開催される。
僕達は雨具を着て会場に向かった。
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