橙色武術祭第一試合
本戦と言うだけあって皆、とても強そうだ。四〇〇〇人ほどいる本戦出場者を全員把握できるわけがないので、初戦、第二回戦は情報無しでの戦いになるだろう。
「よろしくお願いします」×シトラ、対戦相手。
シトラと相手の女性は試合場に入り、頭を下げた。シトラは獣族と言う種族なので、すでに相手も警戒している。だが、シトラの髪色が銀なので、魔法の類は警戒してない。
「試合、始めっ!」
審判の方が試合開始の合図を送ると、相手の女性は初っ端から『身体強化』を発動した。獣族と持久戦を行うのは不利だと判断したのかもしれない。シトラの方は相手が『身体強化』をすると踏んでの開始早々踏み込んで、突撃していた。開始一秒から、真っ向勝負が行われる。
「はああっ!」
「はああっ!」
シトラの右拳と相手の右拳が、互いの顔に打ち込まれる。両者共に強い一撃を狙っての攻撃かと思っていた。
だが、シトラは拳を引き、相手の視覚外からの回し蹴りを放ち、相手の側頭部に蹴り込む。
意表を突かれた相手は防御の態勢を取れず、そのまま、右側に弾き飛ばされた。
「よっしゃあっ!」
シトラが一発目からカウンターを狙った攻撃を仕掛けるとは思わず、ミルも満面の笑みで叫んでいる。鍛錬の成果が出たのだろう。
相手は側頭部を蹴られ、体が麻痺してしまい、動けなくなっていた。そのため、開始一〇秒も経たず、シトラは初戦をもぎ取った。今のところ、橙色武術祭の最速記録のようだ。毎試合、これだけ早かったら、一ヶ月も大会が持つわけない。
シトラは一勝し、第二試合まで三日ほど時間が空く。その間に、体長が崩れないよう、調整する。ミルの試合は昼食を得た後にあり、丁度眠たくなる時間だった。
だが、ミルは戦いたいと言う気持ちが大きく、眠気を感じさせない。
「じゃあ、ぼくも行ってきます!」
「うん。頑張って。ミルなら勝てるよ」
「はい! ぼくの華々しい試合を見ていてください」
ミルは試合会場に向っていった。
ミルの相手はガタイの大きな女性だった。筋肉が男性のように盛り上がっており、そこらへんの男性より強そうだ。恵まれた体格と筋肉によって『身体強化』を行った際の上昇幅が大きい。逆に、ミルはかよわそうに見える。
「よろしくお願いします!」×ミル、対戦相手。
「試合、開始!」
審判が合図を出すと、相手は『身体強化』を使用。そのまま、ミル目掛けて走り込む。ミルは何も起こっていないように、茫然と立ち尽くしていた。気合いは感じるが、動く意志が感じられない。
「はあっ!」
相手は脚を高らかにあげてミルの頭上から踵落としを思いっきり繰り出す。ミルは体をほんの少し右に移動させた。
相手の踵が地面に当たると、巨大な罅割れを生じさせる。あれほどの威力を頭に食らっていたらと思うと、背筋が凍る。
ミルは攻撃を躱した。相手は躱されても、攻撃を止めない。
相手はミルの堅実な作戦に確実にはまっている。ミルの戦いを見たのが初めてなのかもしれない。
「おらおらおらおらおらおらおらっ!」
ミルは相手の猛攻を紙一重で躱し続け、着実に体力を奪い、両手に魔力を込めていく。三分ほど経ったころ、さすがに魔力の使い過ぎと疲労により、相手の行動が鈍くなった。
「せいやっ!」
ミルは相手の甘えた攻撃の隙を見て、魔力の溜まった右拳を腹部に打ち込んだ。すると、巨大な花火が破裂したような衝撃音が鳴り、辺りが一瞬静まり返る。
加えて、攻撃を受けた女性の体が折りたたまれるように湾曲し、地上、五メートル付近を浮遊したあと、自然落下しながら地面にたたきつけられる。口から泡を吐き、気絶していた。
「ありがとうございました!」
ミルは頭を深く下げ、お辞儀をする。そのまま、僕の方に投げキッスをしてきた。ピョンピョン跳ね、嬉しそうだ。僕は恥ずかしかったが投げキッスを返し、ミルを倒す。
シトラとミルは共に勝利し、二回戦に進んだ。
ミルは試合会場から戻り、僕に抱き着いてくる。撫でてほしいらしい。勝ったご褒美として僕はミルの頭を撫でてあげた。周りから変な視線を浴びせられそうだが戦いに集中しているので見られていない。
「いやあ、よかったよかった。シトラとミル、両方とも一回戦突破だね」
「ま、あと一〇戦くらいありますけどね。誰が来ても、ぼくは負ける気ありませんよ」
「私だって、負ける気しないわ。相手がミルちゃんでも倒すから」
「ぼくだってシトラさんが相手も負けません」
シトラとミルは互いを好敵手だと認めており、一番の壁だと思っている。出来れば決勝戦で見たいが、途中で当たってしまう可能性もある。どういう試合になるかは大会運営のみぞ知ると言う所だ。
「じゃあ、僕達は帰ろうか」
「ええ、もう帰るんですか?」
「だって、第二回戦が開催できるようになったら、大会運営が教えてくれるんだよね。なら、見ていなくてもいいんじゃない? 二回戦目の相手も見覚えのない相手だと思うし」
「もう、甘いわね、キース。狼は兎を狩るのも本気で行うのよ。なるべく試合を見て、戦いの技術を盗まないともったいないじゃない」
「そ、それはそうだけど、暑くない? あと、全部の試合は流石に見れないよ」
「確かに暑いけど、外よりは涼しい。別に、全試合を見る必要もないじゃない」
「まあ、そうなんだけどさ……」
僕はシトラとミルが戦いを見たいと言うので、この場にとどまることにした。
膝の上にアルブを置き、飼い猫のように背中を優しく撫でる。アルブは凝った体を伸ばし、お腹を見せてきた。優しく撫でてあげると両手両足をプルプル振るわせ、心地よさそうな吐息を漏らす。そのようにして時間を潰していると、シトラとミルは昼食を買って戻ってくる。
食事を得ながら戦いを見て、きわどい接戦を見ながら心臓を高鳴らせる。気づいた時には僕も戦いを見るのに夢中になっていた。
いつの間にか午後七時。だいぶ長い間、試合を見ていたようだ。現在の進行状況は良好で、一回戦の半分に満たないほどの試合が終わった。この調子で行けば、三日後には第二回戦が開催されそうだ。
僕達は午後七時に闘技場を出て外食し、午後八時三〇分に家に帰って来た。そのまま、お風呂に入り、戦いの反省点を上げる。
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