お尻を追っていなさい。
「子供達が六勝しているってすごくないですか?」
ミルは僕の方を見ながら言う。
「うん……。すごいと思う。きっと実力があるんだよ。でも、本戦に出ても、優勝しないと大金はもらえない。加えて本戦は勝ち抜き式だ。負けたら終わり。そんな中、子供でも稼げる方法が勝利を売るって言う方法なんだろうね。でも運営側がこんなことを許すわけがないから、何か対策をしているはずだよ。それか、人目が少ない時間にやることで、上手く隠れているか。まぁ、どちらにしろ、犯罪行為だと思うよ」
「でも、しないと生活できないんですもんね。ぼくも生活が辛い時期は身売りしようとしてましたよ。ま、ぼくの貧相な体じゃ売れませんでしたけどね。でもでも、そのおかげでキースさんに合えたので、最高でした」
「そうだね。ミルだけでも救えてよかった。ここにいる者達は皆強く生きているんだね……」
僕は七勝の者を探した。だが、七勝をしていると本戦に出場できるからか、のこっている者の中で七回勝っている者はいなかった。最大で六勝の者しかない。
ただ、六勝目の子供達から勝利を買い、七勝をしている大人がいる。そのものに三回勝てば一〇連勝で本戦に出場できるはずだ。
女性の方は残念ながらおらず、男性の方は結構な数がいた。遊び感覚で戦いを受けてくれて僕を舐めまくっている大人が多い。
僕は三人と戦い、一時間もしないうちに三勝できてしまったため、僕は一〇連勝で本戦に進める。この三勝の中、僕はアルブの能力を一つも使っていない。と言うのも、橙色魔法しか使ってはいけないと言う暗黙の了解があるので、アルブの能力も反則になるはずだ。だから、使えないと言ったほうが正しい。まあ、死ぬかもしれない場面が起こったら使わざるを得ないけど……、極力は使わないでいたい。
「よし、不完全燃焼で終わるところだった。あとは本戦に出るだけだ」
「キースさん、絶対に優勝しましょうね」
「うん。そうだね。あと、僕は優勝賞金を何に使うか決めたよ」
「え? 何に使うんですか」
「放浪者や孤児たちに賞金を分け与えることにする。そうすれば、僕が戦う意味が出来る」
「なるほど、ま、キースさんが手に入れた金貨なら、キースさんが好きに使えばいいと思います。ぼくはキースさんの判断を尊重しますよ」
「ありがとう。ミルもシトラや他の参加者に後れを取らないよう、頑張ってね」
「はい。僕も出来るだけ優勝を目指します。どんな人と当たるのかわからないですけど、負けてあげる気はさらさらありません」
ミルは拳を握り、やる気を見せる。僕達は闘技場を出て家に戻った。すると玄関の明りがついており、どことなく不穏な空気を感じる。僕は扉を開け、玄関に入るとシトラが頬を膨らませて少々お怒り気味だった。
「遅い……。どこに行ってたの」
「どこって普通の居酒屋だよ。僕はお酒を飲んでないし、闘技場に寄ったから帰るのが少し遅れたんだ。心配させてごめん」
僕はシトラにギュッと抱き着いて背中を摩る。
「も、もう。それをすれば毎回許すと思ったら大間違いなんだからね。家の中で一人で待っているのはほんと、毎回毎回死ぬ思いなんだから……」
「うん……。そうだよね。怖い思いをさせたまま、時間に遅れてごめん。お風呂は入った?」
「ま、まだ……」
シトラは視線を背け、ぽつりと呟いた。
「じゃあ、皆で入ろうか」
「うん……」
僕とシトラ、ミル、アルブの四名でお風呂に入り、一日の疲れを落とす。今日は特段疲れたわけじゃないが、今頃、ライアンは巨乳のお姉さんと遊んでいるんだろうな。
「む……、キースさん、何か不信なことを思いましたね」
ミルは耳を立てて聞いてきた。
「べ、別に考えてないよ」
「むむむ……。おっぱいの大きなお姉さんって考えてませんでしたか?」
「……か、考えてないよ~」
「キース、私と言う女がいながら他の女に手を出してるの……」
シトラは目を細め、鋭い眼光を向けてくる。
「ご、誤解だよ。橙色の勇者が女性に遊びを誘われていたんだ。その相手がやけに胸が大きかっただけだよ。本能なのかな。眼で追ってしまうんだ。シトラ達も凄い筋肉の人を見ちゃうでしょ」
「キースの体がすごいから他に目移りしないんだけど」
「つまり、キースさんにとってはぼくたちの体じゃ不満と言うことですか~」
シトラとミルは僕を陥れようとしているのか、ジト目で弄ってくる。
「えっと……。僕は体で選んだりしないよ。僕はシトラとミルがいいんだ」
「きゅんっ……」×シトラ、ミル。
「すぴぃ~」
アルブは水面に浮きながら器用に眠っていた。
僕たちは深夜のお風呂に浸かり、皆で眠った。熱いのに、シトラとミルは僕に抱き着いてくる。今日、遅くなったバツだと言うので、仕方ない。ミルが眠るとシトラが口づけをして来て声が出そうになる。
「し、シトラ……、いきなりどうしたの……」
「ず、ずっと……、私を見てなさいよ……。私のお尻だけをおってなさい。他の女に手を出したら許さないんだからね……」
シトラはほぼ暗闇の中でもわかってしまうほど頬が赤くなっていた。ほんと素直じゃない。
僕はシトラの頬に手を当てて熱を感じ取り、見えにくい中、お返しをする。シトラの手が僕の肩に置かれ、服をギュッと握っていた。
八月に入り、橙色武術祭の本戦が大きく取り上げられていた。外がずっとお祭り騒ぎで、なんて大きな祭りなんだと思わざるをえない。
なんせ、街のそこらじゅうに屋台が並び、クサントス領での昔ながらの遊びが銅貨五枚から遊べた。
僕たちはずっと遊んでいるわけにはいかないので、仕事に向かう。ただ、昨日にミルは発情止めをすべて飲み切ってしまったらしく、新しく買いに向かう。
僕達はクサントス領の端の方にある古びた薬屋に到着した。
「う、ううん……。あぁ、キースさんのにおいを嗅ぐだけで……、全身が震えちゃいます」
ミルは誰がどう見ても発情中で、甘ったるい香りをむんむんに放っていた。このままでは外で脱ぎ始めてしまうので、お腹から魔力を吸いながら薬屋にやって来た。
「すみません。リーフさんはいますか?」
お店の中に入ってもリーフさんの姿はなかった。
「お店の扉は開いていたのに、何でいないんだ……」
「お、おぉ~い。だ、誰かぁ……。た、助けてくれ……」
お店の奥からリーフさんのか細い声が聞こえ、僕はミルを椅子に座らせたあと、お店の奥に向かう。すると、姿が子供にしか見えない森の民のリーフさんがお尻を丸出しにしながら腰に手を当てて倒れていた。




