仕事無し
――今は黒卵さんが寝てるんだ。また、列車を灰にするくらい暴れ出したら止められない。
「ん~? おいおい、黒髪じゃなくって白髪がいるぞ! めっずらしいなぁ~、ひっくっ」
「フレイ、飲み過ぎだぞ。それ以上飲んだら、ルフス領が火の海になっちまう。お前は酒癖が悪いからな」
「るっせぇえ~、ひっくっ。ん~、あ~、どっかで見た覚えが……。いや、覚えてねえわひっくっ」
フレイはベロベロに酔っていた。
あの非行を悪びれるそぶりも見せず、木製のジョッキに並々と注がれたエールを喉に流しこんでいる。
周りの冒険者たちはフレイを見て『いつもみたいにまた酔ってるよ』といった軽い感覚で、怒りを覚えていないように見える。
――そうか、フレイが列車の事故を起こした張本人だと誰も知らないんだ。だから、普通に接しているのか。ここで正義の味方みたいに、自首しろと言ってやれない自分の無力さが悔しいな……。
僕はフレイを避けるように歩き、くすくすと笑っている受付のお姉さんのもとに向う。
「あ、あの……。少しだけ聞きたいことがあるんですけどいいですか?」
「はい、何でもご相談に乗りますよ。お名前を教えていただけますか」
「は、はい。キース・ドラグニティと言います」
「キース・ドラグニティさんですね。ルフスギルドにようこそお越しくださいました。私はルフスギルドで受付をしておりますミリア・ナーベスと言います。今日は、よろしくお願いいたします」
「よろしくお願いします……」
受付のお姉さんは笑顔で僕の対応をしてくれた。どこか、心の底から笑っていないような気もするが仕事なのだから仕方ない。笑顔で接客してくれるだけでもありがたいじゃないか。
「今、受けられる仕事とかありませんか。出来れば三原色の魔力がない僕でもできる仕事がいいんですけど……」
僕は小声でお姉さんに伝える。実際、三原色の魔力が無いというのは僕の劣等感を強めている部分なのだ。出来れば周りの人に知られたくない。
まぁ……白髪の時点でバレバレなんだけど。
自分で三原色の魔力を持っていませんと言うのと、周りから三原色の魔力を持っていないんだろうなと思われるのなら、言葉に出して伝えるほうが僕の精神が傷つく。
「三原色の魔力を持っていない方でも働ける仕事ですか。そうなるとFランクの依頼ですね。お小遣い程度しか稼げませんけれど……」
「お小遣い程度……」
「ここはルフスギルドの本部ですからランクの低い依頼があまりないんですよ。稼げそうなゴブリン退治でも……魔力を持っていないとなると、苦戦するのが目に見えています。ゴブリンに襲われて亡くなってしまうかもしれませんからね」
「配達とか、土木工事とか、何ならゴミ捨て場の掃除でもやります。何か仕事をしないとこの先、生きていけないんです」
「そう言われても、配達やゴミ捨て場の掃除は魔法でやった方が格段に速いので、お勧めできません。時間がかかると依頼者様から苦情が来るので、初心者を簡単に送り出せないんですよ。それに、土木工事は『橙色魔法』が使えないとすぐ死にます。あれは魔法なしでする仕事じゃありません」
「で、ですけど。それじゃあ生活が……」
「すみません。どうも当ギルドにはキースさんにお勧めできる依頼はございません。ですから、仕事をお探しの場合は飲食店をめぐっていただければ、少なくとも皿洗いの仕事くらいは見つかるのではないでしょうか」
「そうですか……。分かりました。飲食店を回って仕事を探します。もう、1つの質問をしてもいいですか?」
「はい、どうぞ」
「奴隷はどこで買えますか?」
僕が発言した瞬間、ギルドの空気が凍り付いた気がした。
いや……目の前のミリアさんの顔が凍り付いているだけだ。
「えっと……。奴隷ですか」
ミリアさんは顔を暗くして、僕に聞き直してきた。奴隷と言う言葉を使ったらだめだったのだろうか。
「はい、奴隷商の方に聞きたい話があるんです」
「そうですか、わかりました。今から地図でお教えします」
「ありがとうございます」
ミリアさんはギルドの奥に向い、丸められた地図を持ってきた。そのまま、僕との間にある木製のカウンターに大きく広げる。
「ここです」
ミリアさんはルフス領の中心街から大分外れた位置に指先を置く。周りには何もない。あるのは家の形を模した四角の絵柄ばかり。
「ここに行けば、多種多様の奴隷を売買できます。奴隷商が集まった地域ですから、キースさんの聞きたい話というのも、奴隷専門の商人が答えてくれるかもしれません」
「教えていただきありがとうございます。今すぐにでも行ってきます」
「あの、キースさん。今、キースさんがしようとしているのは人探しですよね」
「え……。どうしてそれを……」
「顔をみればわかりますよ。ルフスギルドに初めて来て、奴隷商を訪ねてくる方は皆さんキースさんと同じような顔をしていますから」
「そうなんですか。えっと、恥ずかしながらミリアさんの言う通りで、奴隷になった家族を探しています」
「キースさん。忠告しておきます。奴隷を探すのは今すぐに止めるべきです。その行為は、あなたの身を滅ぼします」
ミリアさんは僕のためを思って行ってくれているのだと、眼を見ただけでわかった。
でも……。
「それくらい、バカな僕でもわかっていますよ」
「え……。ならどうして、奴隷探しのような無謀な行いをしているんですか?」
「無謀でも、やらないといけないんです。僕の生きがいは、大切な相手を見つけて幸せにしてあげることなんです。ただそれだけの為に、僕は生きています。家族を奴隷にされてのうのうと生きていけるほど、僕の精神は強くありません」
「キースさん……」
「僕はもう行きます。お仕事の件と奴隷商の件を聞いてくださり、ありがとうございました。また、仕事の依頼が無いか聞きに来るので、よければ、いい依頼を残しておいてくださるとありがたいです」
「わかりました。キースさんにお願いできそうな仕事があれば、残しておきます」
「ありがとうございます。それでは、失礼します」
僕は深々とお辞儀をして、ミリアさんのもとをあとにする。
ルフスギルドの中はフレイの罵声とそれに相互する他の冒険者達の歓声で大盛り上がりだった。
だが、僕の心は沈んでいた。
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