黒色のマクロープス
「ミル、魔石は回収した?」
「はい。一二個この袋の中に入っています」
ミルは橙色の濃い魔石が一二個入っている麻袋を僕に見せてくる。
「うん。採取漏れは無いね。じゃあ、アルブ。ミルの倒した個体も食べていいよ」
「了解しました~」
アルブはマクロープスの死体を貪り食い、白い体を真っ黒にしながら食べ進める。個体数が多いので、少々時間が掛かった。
その間、僕達も昼食にする。雨でも濡れないウェストポーチに紙で包まれたサンドイッチを入れておいたので、ミルの分を渡す。
僕とミルは大きな木の下で雨を防ぎながらサンドイッチを食べていった。
「ミルはマクロープスをどうやって倒していったの?」
「ぼくはマクロープスの顎と側頭部を持って横に捻って首の骨を折って倒していました。ぼくの蹴りと殴りの威力じゃぜんぜん致命傷にならなかったんです。あと、ナイフは五感が上手くはたらかなくて全然当たらなかったので、直接触れて倒していました」
「なるほど。僕の方はフルーファで苦しめないよう、一撃で倒していった。逃げるという行為を取っていたから、敵と自分達の差をしっかりと把握できるくらいには知能が高い見たいだね」
「そうですね。でも、そうなると、橙色の勇者は一体どうなったんでしょうか?」
「ん~。一番有力なのは遭難してしまったとかだと思うんだけど、もしかするとギルドカードをまた落として探し回っているのかも」
「はははっ、もしそうなのだとしたらとんだお騒がせ野郎ですね。でも、あの人ならやりかねません。雨のせいで驚くほど視界が悪いですし、泥に埋まっていたらどれだけ探しても上手く見つけるのは困難です。橙色の勇者を見つけたらすぐに帰らせましょう」
「うん。そうだね。皆、心配してたし、再発行すればいいだけだ」
僕とミルはアルブの食事が終わるまで待った。ざっと三〇分ほどだと思う。
「よし、アルブの食事も終わったし、橙色の勇者捜索を再開しよう」
「はい」
僕達は進んでいた方向に走って行く。どれだけ進んでもアルブが空から方角を確かめれば遭難することはない。一時間ほど走り続けた先にマクロープスに似た魔物が一体いた。その姿形はマクロープスそっくりだが、体毛の色が違う。全身が黒っぽい。上位種の類で間違いないだろう。
「黒いマクロープス……。嫌な予感しかしないな……」
「ベッベッベッベッベッベ!」
黒いマクロープスが地面を蹴り、僕に殴りかかって来た。気づいた時には敵の血管が浮かび上がった極太の脚が目の前にある。
「くっ!」
僕も鍛え込んだ脚を振り上げ、蹴りで応戦した。
「きゃっ!」
ミルは僕とマクロープスの脚が衝突した衝撃波で吹き飛ぶ。
――ミルは自身の能力が万全じゃない。
僕は雨の日では、この魔物とミルを戦わせるのはあまりに危険だと判断した。
「ミル! ここは僕に任せていったん退避するんだ。雨の中じゃ戦いにならない」
「は、はい!」
吹き飛んでいたミルは潔く従い、空中で一回転して木の枝に着地、そのまま、先ほどまで移動していた道を戻り、戦闘を離脱する。
「ベッベッベッベッベッベ!」
黒色のマクロープスと交差する脚は中央で震えており、力に関しては互角のようだ。
「ここまで黒くなったら、もはや別の魔物だよ……」
僕は脚を跳ね上げ、マクロープスの体を蹴り返しながら体勢を整え、背後に付けているフルーファを横から引き抜く。
「ベッベッベッベッベッベ!」
マクロープスは僕に蹴られ、八メートルほど飛び、難なく着地する。
「さあ、攻撃範囲は僕の方が上だ。どう来る」
僕はフルーファの柄を捻って斧の形状にしたのち、両手で構えた。
「ベッベッベッベッベッベ!」
マクロープスは地面を蹴り、黒い影が通ったような残像が残るほど速く移動する。
「くっ! やっぱり早い……」
マクロープスは周りの木の幹を足場に使い、森の地形を利用して縦横無尽に跳ねまわった。辺りの木々が揺れまくり、草の擦れる音があまりにもうるさい。
「ぐはっ!」
他の音に気を取られていたらマクロープスに背後に回られており、僕は背中を思いっきり蹴られる。
済んでのところで大剣の状態にしたフルーファを背中に挟めたおかげで僕の体が思いっきり吹き飛ぶだけで済んだ。
地面もぬかるんでいたので、擦れるというよりかは滑るようにして力を逃がすことが出来たので、致命傷にはなっていない。まあ、口から血を吐くくらいの傷は負ったが、すぐに治る。
「油断してなかったんだけどな……、その上を行く速さ、加えて攻撃力。半端じゃないね」
「ベッベッベッベッベッベ!」
マクロープスは足踏みをしており、腕を構えて隙を見せない。
「どうやって倒そうか……」
「ベッベッベッベッベッベ!」
僕が膝立ちから立ち上がると、マクロープスとは五〇メートルほど離れていたのに、奴の超加速によっていつの間にか僕の顔の横に足があった。
あと八ミリメートルで直撃していただろう。僕はほんのギリギリで首を倒し、攻撃を回避する。そのままフルーファを振り、マクロープスの体を切りつけた。
黒い血しぶきが舞い、フルーファは美味しさから唸る。ほんと大食いだ。
マクロープスの体が真っ二つに切れたわけではなく、腹の皮を切ったかなと言うくらいの感触でしかなかった。案の定、視界に映るマクロープスの右腹下から左肩に掛けて切り上げられた痕が残っていた。黒い血も滲み出ている。黒い血は、雨によって落とされるも、茶色の地面に滴っていた。
「ベッベッベッベッベッベ……」
黒色のマクロープスは傷つけられた途端、威勢がよかったのにも拘わらず、迷わず逃走した。木々が揺れているのを見るに、幹を足場にして跳ねながら逃げているようだ。あまりの速さに追いつける気がしない。
「深追いは厳禁か……」
僕はフルーファの状態を見る。大した罅割は無かった。逆に、敵を切りつける前よりも潤っているように感じる。
魔物を切りつければその分、武器の切れ味も増す。そんな気がする。
アイクさんから詳細に説明してもらったわけではないためわからないが、敵が強ければ強いほど魔力を食し、切れ味が増しているような感覚はあった。
なんせ、フルーファにはブラックワイバーンの体を切断できるほどの力があるのだ。死体を切るのと生きている物体を切るのとでは全く違うと思うが、このフルーファは相手が強ければ強いほど効果を発揮するスペシャルウェポンだと僕は勝手に想像する。
「このままあの黒いマクロープスをほっておくわけにはいかない。クサントスギルドに一度戻ってべニアさんに報告しに行くか。いや、ミルにだけ戻ってもらって僕は勇者を探そう。アルブ! ちょっといい」
僕は空を飛んでいるアルブに声をかける。
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