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三原色の魔力を持っていない無能な僕に、最後に投げつけられたのがドラゴンの卵だった件。〈家無し、仕事無し、貯金無し。それでも家族を助け出す〉  作者: コヨコヨ
第三章:橙色の領土。クサントス領

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ただならぬ気配

「えっと、銀貨三枚で足りますか?」


「もちろん! 朝の元気を注入するにはこれくらいしないと!」


 店員さんの大きな声が耳に響く。


「はは……。ありがとうございます。ミル、食べられる?」


「もちろんです! このくらいアイクさんの量に比べたら美味しく食べられる範囲ですよ」


 ミルはスプーンを持ち、眼を輝かせている。久しぶりの大盛り料理に興奮しているようだ。


「はぁ~。お腹空きました~」


 アルブは寝起きにも拘わらず、食べられるのだろうか。


 僕とミル、アルブはカツカレーを貪り食う。辛いが、癖になる味でまた足を運びたくなってしまう力がある。朝っぱらから元気を注入し、元気に働こう。


「ふぅ~。美味しかった。ごちそうさまでした」


 僕は完食し、両手を合わせて神様に感謝する。


「キースさん、カレーパンを昼食にしましょう。あれ、もの凄く美味しそうじゃないですか」


 ミルはカレーパン販売中と書かれている品書きを見せてくる。


「朝、カレーを食べて昼もカレーを食べるの?」


「カレーとカレーパンは別物ですよ。なので、良いじゃないですか」


「まぁ、たまにはいいかもね。すみませ~ん! 特製カレーパン三個ください」


「ありがとうございます!」×店員さん一堂。


 僕とミル、アルブはカツカレーを完食した後、カレーパンを三個購入し、紙袋に入れてもらった。熱々で食べた方が美味しいと思うが、冷めても美味しいとのことなので、昼の楽しみに取っておこう。


 朝食を取り、昼食を買った僕達はクサントスギルドにやって来た。だが、どこか様子がおかしい。


 僕がクサントスギルドに入ろうとすると、扉が一気に開き、完璧な橙色の髪を持つ男性にぶつかった。両者共に弾き飛び、僕が地面を相手が床を転がる。


「いたた……。だ、大丈夫か! って白髪」


「ええ、大丈夫です。あなたの方こそ大丈夫ですか。って、橙色の勇者」


 僕と橙色の勇者のライアンが衝突した。初めて言葉を交わしたが、ぶつかって話すとは。


「だ、大丈夫なら、もう行かせてもらう。すまないが急いでるんだ!」


 ライアンは大慌てで『橙の泉』がある東北東の方に走って行く。


「さっきの人、橙色の勇者ですよね。昨日、闘技場でギルドマスターと戦ってた……」


 ミルは眼を細めてライアンの行動を見る。


「うん、どう見ても本人だね。でも、どうしてあんなに慌てているんだろう」


 僕は立ち上がり、クサントスギルドの建物に入っていく。


「いったい何がどうなっているんだ。考えられる要因は去年はルフス領で多くの魔素が検出された。その影響が出ているのか。風によって運ばれてきた魔素が『橙の荒野』にいる魔物を狂暴にさせている可能性もある」


 クサントスギルドの中はとてもせわしなく人が動いていた。特に一睡もしていなさそうなべニアさんは眼の下を黒く染め、顔色が悪い。


「べニアさん、おはようございます。えっと、どうしたんですか?」


 僕はべニアさんに話しかける。


「ああ、おはよう、キース君。マクロープスが群れで現れたんだ。加えて昨日と同様に狂暴化した個体の群れらしくてね。昨晩、討伐に送った冒険者達が返り討ちにあって数名が未だに『橙の森林』で身を隠しているそうだ」


「え、大丈夫なんですか?」


「今、ライアンを向かわせたからもう大丈夫だ。ただ、今回みたいな事案が続くと困る。ライアンは一人しかいないからな。多くの場所で狂暴化した魔物が現れたら対処しきれない」


「大変そうですね……。でもべニアさんは少し寝た方がいいですよ。顔色が悪いです」


「ああ、そうだな。一睡もしていなかった。さすがに健康に悪い。カレーでも食って寝るか」


 べニアさんは受付台の奥に向かった。


「ニクスさん、ぼく達はどうしますか。このまま仕事に行くか、今日はお休みするか」


「ん~。話を聞いた感じ『橙の泉』付近の魔物が狂暴化しているみたいだし、別方向の依頼なら受けられるんじゃないかな。『橙の鉱山』あたりなら、魔物が狂暴化していないかも」


「なるほど。『橙の泉』は東北東ですけど『橙の鉱山』は北西ですもんね。大分距離が離れますし、仕事ができるかもしれません」


「はは、僕達は仕事が本当に好きだよね……」


「ほんとですね。仕事をしていないと体がむずむずします」


 僕は受付に向かい『橙の鉱山』で何か仕事が無いか聞く。


「すみません『橙の鉱山』で何か溜まっている仕事はありませんか?」


「『橙の鉱山』でしたら、ロックアントやサンドワームなどの依頼があります」


「なるほど、じゃあどっちの討伐依頼も受けます。上限は何体ですか?」


「上限はありませんが、ロックアントは最低でも一〇匹の討伐をお願いします。サンドワームは一体です」


「わかりました。じゃあ、何か様子がおかしいなと思ったら報告しますね」


「ありがとうございます。気を付けて仕事をしてきてくださいね」


 僕は慣れているロックアントの討伐と初めて挑戦するサンドワームの討伐を受けた。少しでも人々のためになるよう、仕事を頑張ろう。


 僕とミルは北西の方向に走り『橙の鉱山』に到着した。すると、雰囲気が以前来た時よりも違う気がする。


「なんか、不穏な空気を感じる……。重々しい」


「本当ですね。今日は宝石を掘りに来たわけじゃないですけど、気分が乗りません。ん~、どこから嫌な気を感じるんでしょうか。ちょっと集中しますね」


 ミルは耳をピンと建てて動かす。尻尾も振り、全神経を集中させる。


 僕も魔力視を使ってどこかに不穏な点が無いか調べる。すると隙間と言う隙間から、黒っぽい魔力が流れ出ていた。


 ――な、何なんだこの量。どう見ても魔力だよな。黒っぽいってことは位の高い魔物が潜んでいるということになる。ブラックワイバーンみたいなやつだと厳しい戦いになるぞ……。


「キースさん、岩石の中に何か大型の魔物が潜んでいます。繭……。何かの膜につつまれているようで、包んでいる膜から魔力が漏れ出ているようです」


「膜……。何かに包まれていたということか」


 僕は冒険者の手引きを引く。


 『橙の鉱山』に出現する魔物の中で膜がある個体なんていなかった。何かほかの魔物かとも思ったが、ただならぬ気配を……感じるのだ。何もいないなんてありえない。

最後までお読みいただき、ありがとうございます。


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