三時のおやつ
僕達がクサントスギルドに到着すると、ギルド内が騒がしかった。多くの冒険者が目を輝かせ、一人の男性を見ている。
「どうしてお前はギルドカードをすぐに紛失するんだ。いったい何回目だ?」
「は、八八回くらい……」
「八八八回目だ。三年近く冒険者をしておいて毎回毎回落としやがって……」
「面目ない。いつも服の中に入れているのだが、戦うとどこかに飛んで行ってしまうんだ」
「反省している姿は見ればわかるが、そろそろ改善しないと付き合いきれないぞ」
「いっそ、グローブに縫い付けてしまうのはどうだろうか。そうすれば、無くすことはない」
「それもありだな、職人に作らせるか……」
橙色の勇者は正座しながらギルドマスターの貫禄を放つ女性と対話していた。
――僕が拾ったギルドカード、もしかして橙色の勇者のカードかな。
僕は自分の胸に手を当ててどうしようか迷った。ギルドカードを本人に渡して確かめるか、受付に渡しておいてもらうか。どちらが面倒事にならないかと思った時、後者の方がいいと判断する。
「はあ、ここにずっと居られても他の冒険者の邪魔になる。ギルドカードが見つかるまで鍛錬でもしていろ」
「わかった。じゃあ、ちょっくら外に行ってくる!」
橙色の勇者は正座から立ち上がり、冒険者達の開けた道をさっそうと走って行く。
「あいつが勇者だなんて恥ずかしいったらありゃしない」
女性は額に手を置いて苦労しているようだ。ギルドマスターはどこのギルドでも多忙なんだろうな。
多くの冒険者さんが受付に流れていき、依頼の報告を行い、報酬を貰っていた。
僕たちも受付にバルーン草とハイレオー達の素材を渡す。
「バルーン草の依頼をまたこなしてくださり、ありがとうございます。えっと、こっちはハイレオーの素材ですか?」
受付さんは麻袋の口を開け、中身を見て眼を丸くしている。
「はい。草原で大量に現れて襲われてしまったのでやむを得ず倒しました」
「あ、ありがとうございます。えっと……、素材の数がずいぶんと多いんですけど」
「まぁ、二○頭以上いたと思うので、素材の量も同じように多くなってしまいました」
「ハイレオーを二○頭以上も倒したんですか……。魔法も無しに……」
受付さんは僕の白い髪を見て驚いているようだ。
「ええ。魔法を使わずにこの大剣で倒しました。半分はこっちの子が倒したんですよ」
僕はミルの頭に手を置いて受付さんに知らせる。
「ハイレオーはBランクの魔物です。群れて行動し、数が増えるほど狂暴なので多くの被害者が出ているんです。まさかEランクの「名無し」さん達がこれだけの数を倒せるとは……」
「えっと、信じてもらえないのもわかります。信じてくださいとお願いするわけでもないので、素材の換金だけしてもらえれると嬉しいんですけど」
「わ、わかりました。すぐに用意します」
受付さんは素材の鑑定に入り、値段を紙に書き込んでいる。どれくらいが相場かわからないので、言われた金額を受け取ればいいか。
「えっと、今回の報酬はバルーン草一〇○玉で、金貨五○枚。ハイレオーの素材として魔石が二五個で金貨五○枚、牙一〇○本で金貨一〇枚。爪一六○本で金貨一六枚になります。計金貨一二六枚です」
「大金貨一枚、中金貨二枚、金貨六枚でお願いします」
「かしこまりました」
受付さんは僕の指定した金貨を木製の板に乗せて渡してきた。
「ありがとうございます。また来ますね」
「はい。是非起こしください」
今日の依頼で冒険者の得点が四になった。あと九六点でDランクに昇格できる。
「あの、渡しそびれたんですけど、これを落とした人に返してあげてください」
僕は内ポケットからギルドカードを取り出し、受付さんに渡す。
「落とし物ですね。持ち主を調べて返しておきます」
「よろしくお願いします」
僕はクサントスギルドから出て、繁華街に向かう。クサントス領の方達は皆、元気いっぱいで大きな声が飛び交っていた。
「キースさん、お菓子屋さんがありました。早速行きましょう!」
ミルは僕の手を握り、走り出した。ケーキが食べたくて仕方がないらしい。
「わかったわかった。そんなに引っ張らないで」
僕とミルはお菓子屋さんに入り、ショーケースに入っているケーキを見て何を買うか決める。
一個銅貨五枚の品から、金貨一枚品まであり、子どもでも買える商品が多い。
「じゃあ、この銀貨五枚のチーズケーキを一つください」
ミルは一ホールのチーズケーキを購入した。
「ミル、そんなに食べられるの?」
「甘い物は無限です!」
ミルは胸を張って答える。すごい自信だ。僕はミルほど甘党ではないので小さい品で十分。
「銀貨一枚のチョコレートケーキを一個ください。あと、銀貨五枚のイチゴのショートケーキを一個お願いします」
僕は四分の一ほどの大きさに切られた少し高めのチョコレートケーキを選び、シトラにはイチゴのショートケーキ一ホールを買った。シトラも甘党なのですぐに食べきってしまうだろう。
僕は銀貨六枚、ミルは銀貨五枚支払い、紙の箱にケーキを入れてもらい、慎重に持って家に帰る。扉を叩くと、シトラが出てきてお出迎えしてくれた。
「お帰りなさい。今日は早かったのね」
「まあね。シトラと一緒におやつを食べようと思って早めに帰って来たよ」
僕はショートケーキが入っている紙箱をシトラに渡す。シトラは匂いだけで何が入っているのかわかったのか、顔が明るくなった。
「す、すぐに紅茶を入れるわ」
シトラは紙箱を持ち、居間の方に走って行く。尻尾がブンブンと振れており、ケーキを早く食べたいのだろう。
僕とミルは手を洗いにお風呂場に向かい、お湯で綺麗にする。飲み水でうがいをして風邪を引かないように気を付けた。
居間に戻るとシトラがすでにおやつを食べる準備が完了しており、今か今かと待っていた。
僕とミルは椅子に座って皆で神に祈ってからケーキを食べ始める。アルブの分は皆の分を少々取り分けて食べてもらった。
僕たちは甘いケーキを食べて幸せを感じた後、ストレートティーを飲んで心を暖める。
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