家のお風呂
「シトラ、これは温泉なの?」
「ええ。温泉らしいわよ。源泉かけ流し。まあ、クサントス領だと珍しくないそうだけど」
「へえ、最高だね。こんないい所を良く見つけたね。さすがシトラ」
「でしょ、もっと褒めてくれてもいいよ」
シトラは気分よく、大きな胸を張り、嬉しそうに笑う。
そんな姿を見て可愛いな~と思い、頭をよしよししてあげると尻尾を振り、喜んだ。
「じゃあ、皆で料理を作って夕食にしよう」
僕はシトラが買ってきた食材を調理場に並べてみる。麦、卵、トマト、玉ねぎ、鶏肉などなどがあり、オムライスを作る予定だそうだ。
僕も手伝い、料理をする。ルフス領からクサントス領に移動する一ヶ月で気づいたことがあり、僕が料理を作るとゲル化してしまった不可解な現象の正体はアルブが料理を食べていたからだそうだ。
黒卵さんだったころ、魔力を食べ物を無意識に入れ替えていたらしい。僕の手料理が食べたかったという理由らしいが、しれて良かった。そのおかげで僕が料理を作っても全く問題が無く、アイクさん直伝の特性オムライスが完成した。
「キース、料理が出来るようになってたんだね。悔しいけど物凄く美味しい」
いつもは辛口評価のシトラは今回のオムライスは好評だった。いつも、外で作っていたので本領が発揮できていなかったと言う点もあるが、単純に調理場が使いやすかった。
「ハグハグハグハグ! 美味しい! キースさんお替り!」
いつも甘口評価のミルはすでにオムライスを完食し、口をケチャップ塗れにして子供のようだった。その姿も可愛らしいのがずるい。
アルブは顔がケチャップに突っ込むほど僕の作ったオムライスを美味しそうに食べてくれた。自分の手料理をしっかりと振舞ったのは初めてかもしれない。
「皆が喜んでくれると凄く嬉しい。これがアイクさんが料理屋さんをやっている理由なのかな。もう、たまらなく最高の気分になるね」
僕は料理をする楽しさに気づき、ミルやシトラも一緒に料理をする。ミルが料理を作るとグチャッとした見た目の悪い品が出来た。
「うぅ……。み、見ないでください……」
ミルはオムライスを両手で隠しながら恥ずかしそうにしているので、僕がオムライスを全て平らげる。今まで食べていなかったのでとても美味しかった。
「うん、すごく美味しいよ。いろんな味が混ざっていて口の中が大混雑だけど、ミルが一生懸命に作った料理は何でも美味しい」
「うぅ……。キースさん……。うわぁ~ん! 大好きです~!」
ミルは僕に抱き着いてきて泣いた。そこまで料理を食べてくれたのが嬉しかったのか。
シトラの作ったオムライスはやはり美味しかった。家庭の味というか、懐かしい味がする。食べ進めても飽きない。シトラは料理も上手いのだ。
「じゃあ、料理も食べ終わったし、お風呂に入ろうか」
「は~い」
ミルは大きな声をあげて返事をした。そのまま、お風呂場に向っていく。シトラもミルの後ろについていき、脱衣所に入った。
僕も二人の後ろについていき脱衣所で服を脱ぎ、布を持ってお風呂場に入る。温泉ほど大きい風呂場ではないが三人で入っても窮屈にならない程度には大きくシャワーも付いていた。
三人でお湯につかり、汗と疲れをしっかりと落とす。僕たちが入居するとわかると否や、業者さん達が掃除をすぐに行ってくれたそうだ。物凄い藻の量だったそうで大変な作業をしてくれたなんて感謝しかない。
「さてと、お湯にも十分浸かったし、体を洗おうか。誰から洗う?」
「皆で洗えばいいんじゃないですか?」
ミルはお湯につかったような考えを呟いた。
「皆で洗うって……。円になって背中を洗いあうってこと?」
シトラはミルの考えに形を付け、聞き返す。
「そうですね~逆に前を洗いあうって言うのも面白いかもしれませんよ~」
「前を洗いあうって……。普通に無理でしょ、向かい合っている時点で円になれない」
シトラはミルの提案の矛盾点を考え突き付ける。
「むぅ~、ちょっと面白そうだと思っただけですよ~。シトラさんは頭が固いです~」
「ミルちゃんはフワフワ過ぎるよ。私たちは獣族なんだから、相手に使われないよに頭を使わないと。何でも搾取されちゃうよ」
「うぅ、ぼくは取られるような品を持ってはいません。キースさんさえいてくれればそれだけで十分です」
ミルは僕の腕に抱き着いてきた。
「キースだって取り上げられちゃうかもしれない。獣族は何でも取られる。だから守らないといけないの。クサントス領はとても穏やかな領土だけど、他の領土に行ったらどうなるかわからない。ミルちゃんもいっぱい勉強してるでしょ。勉強以外の頭の使い方も覚えないと」
「シトラさんが大人に見えるのは頭がとてもいいからですかね?」
「さあ、体のせいなんじゃない」
シトラは自分の胸に手を当てる。ミルははっとして自分の胸に手を当てた。眼に涙を溜め、僕の方を見る。何かを訴えかけてくるような視線で、眼を反らせない。
「キースさん、ぼくは大人の女性になれますか?」
「な、なれるなれる。というか、ミルはもう、大人っぽくなってるよ。自信をもっと持っていいと思う。どれだけ、身繕っても心は変わらない。大人っぽさって全体からかもし出る雰囲気だと思うんだ。だから、ミルは気にしなくても大丈夫」
僕がミルに伝えると、ミルの表情が明るくなっていき、満面の笑みになった。
――ん~、子どもっぽい……。でも抱きしめたくなるくらい可愛らしい……。
結局僕たちは円になって背中を流し合った。僕はミルの小さな背中を流すことになる。尾てい骨から伸びる細長い尻尾がふにふにと揺れ、ミルの感情を表しているかのようだった。
腰がしっかりと引き締まっており、ムッチリとしたお尻がとても厭らしい。スポンジが無く、僕は手の平で洗わないといけなかった。
普通に貸してもらえばいいと思うんだけど……。
ミルが手で洗ってほしいと言うから、仕方がない。固形の石鹸を手で泡立て手に馴染ませたあとミルの背中を優しく洗っていく。
しっとり滑らかな肌、指が擦れてもつるつるなさわり心地。華奢な体、どうしてこんなに小さいのに、力が出るのだろうと疑問に思う。尻尾の当たりまで来たが、どこまでが背中なのだろうか。背中の中に尻尾も含まれているのかと疑問に思い、ミルに聞く。
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