誰もやりたがらない依頼
「ん~、キースさん。ぼくたちはどんな依頼をするべきですかね?」
ミルは多くの依頼書を見ながら呟く。
「やっぱり、日帰りが出来て誰もやらなそうな依頼がいいんじゃないかな。スライムとか、ホーンラビットとか、薬草採取とか、ロックアントみたいな感じ」
「それじゃあ、またまたDランクか、Cランクの依頼を受けたらいいですよね」
ミルは依頼を手の取り、僕に見せて来た。
「バルーン草採取。Dランクか。一枚で銀貨一枚ね。場所は『橙の森林』近場っぽいね」
僕はミルから依頼を受け取り、受付に並ぶ。多くの冒険者さんがBランクとかAランクの依頼を受けるなか、僕はDランクの依頼を提出した。
「え、バルーン草採取ですか?」
受付に依頼書を出すと、とても驚かれた。なぜ驚くのだろうか。
「えっと、何かおかしいですか?」
「い、いえ。誰もやりたがらないので、やっていただけてありがたいなと思いまして」
「バルーン草って取りずらいんですか?」
「はい。フワフワと浮いていて取るのが難しい薬草なんです。今、一番生える時期で、大きなバルーン草の中には綿も含まれていて服の素材になったりとか、使い勝手がいいんです」
「なるほど。数に制限はありますか?」
「い、いえ。制限はありませんけど。一枚とるのも難しいんですよ。物凄く強い魔物が現れる訳じゃないですけど、お金周りが悪いんですよ」
「なるほど……。わかりました。大量に取れてもいいと言う証言が欲しかったので、頑張って仕事をこなしてきます」
「よ、よろしくお願いします」
クサントスギルドの受付さんは僕に頭を下げ、お願いしてきた。
「よし、ミル。『橙の森林』に向かうよ。ここから、五○キロメートルくらい先だけど、僕たちなら余裕だね」
「はい! ちゃっちゃと行きましょう!」
「いや~、私が孵ってから初めての依頼です。緊張しますね~」
アルブは僕の頭に乗り、尻尾をブンブンと振っていた。
僕たちはクサントス領の北門から外に出て道に沿って真っすぐ走った。すると、草原地帯から、大きな木々が立ち並ぶ森林が見えてきた。
「お、あそこが『橙の森林』かな。あと、なんか浮いてるね」
森林の上空には緑色の物体が浮遊していた。四枚の葉が丸い物体にくっ付いており、渦巻きのようにクルクル回っている。
「あれがバルーン草。結構高い位置に移動するんだな」
「木の高さより全然上の方にありますね。普通に飛び跳ねるくらいじゃ届きそうにありません。木の上から飛んで捕まえて落ちてくるって言う手もありますかね?」
「ん~。アルブがバルーン草に触れて重くしてくれれば簡単に取れると思うよ」
「あ~。って、ぼくたち全く必要ないじゃないですか」
ミルは僕の方を向き、呟いた。
「取っても持って帰らないといけないからね。僕たちは持ち役になろう」
「まあ、持ち役なら全然いいんですけどね」
僕とミルは森林に入っていく。すると、大量のバルーン草が空中に浮いており、取り放題だった。手を伸ばしても絶対に届かない位置にあり、地上から高さ八○メートル付近の位置にある。
「じゃあ、アルブ、バルーン草に触れて重くしてきてくれる」
「わかりました」
アルブは透明だった翼をもとに戻し、飛び立つ。力強く飛ぶとバルーン草が風で飛んで行ってしまうため、八○メートル上空を滑空してバルーン草に触れていく。すると重くなったバルーン草が地面に落ちてくる。大きさで言うとキャベツ一球くらい。重さも同じくらいだ。まあ、アルブが重くしているからだと思うけどね。
「大きな袋に入れて持って帰ろう。四枚葉っぱが付いているから、バルーン草の花を一玉手に入れたら、銀貨四枚。綿の部分も含めたら銀貨五枚くらいになるのかな。じゃあ、一〇○玉手に入れたら金貨五○枚か。えっと……。アルブ、ざっと何玉くらいある?」
「そうですね、そこら中にあるので、万は硬いんじゃないでしょうか」
「そんなに持って帰れないし、一〇○玉くらい触れたら降りておいで」
「わかりました」
空から、バルーン草が少しずつ落ちてくる。何とも神秘的な光景で、眼を奪われる。誰も、手を付けていないおかげで空には大量のお金がなっていた。
僕とミルは葉っぱと果実の部分を分ける。薬草は鮮度が命だ。素早く回収し、もっていく必要がある。ま、一日あれば十分なので、焦る必要はない。
「キースさん。まだお昼にもなっていませんし、鍛錬していきませんか?」
「いいね。ミルに魔力操作の方法を教えるよ」
僕とミルは空いた時間を利用して森の中で鍛錬をする。開けた場所に移動し、体を動かせる広さを十分に確保した。
「えっとミルの無色の魔力は今、もの凄く少ない。人のように練る器官がないのかもしれないんだけど、とりあえず瞑想をしてみよう」
「キースさんが夜中によくやっているあの呼吸法ですね」
「うん。長く吸って、長く吐く。を繰り返す。簡単に言えばこれだけ。これさえできれば。十分だ。心身の緊張をほぐすときにも使えるし、覚えておいて損はないよ」
「わかりました。キースさんの呼吸法を真似してやってみます」
ミルと僕は地面に座り、瞑想を繰り返していった。僕の方は魔力が練り上がっていくが、ミルの方は先ほどと変わらない。いや、ほんの少し増えているかもしれない。でも、魔力視で見てもほんの少ししか変わらない。それだけ魔力を作り出すのが難しいのだろう。
「えっとキースさん、どうですかね?」
「ほんの少し増えてる。でも、本当に少ししか増えていないから、毎日続けて魔力を増やせるように頑張ろう。魔力操作よりもまずは増やすところからだね。夜寝る前とかに組み込んでいこう」
「はい! 頑張ります」
ミルは大きくお辞儀をしてきた。僕もミルならしっかりとこなしてくれるはずだと思い、しっかりと指導することにした。
瞑想を一時間ほど行うと、ミルの感覚が研ぎ澄まされたらしく、いつもより動きが軽やかになっている。物凄い効果を得たミルは瞑想の凄さに感動していた。
「じゃあ、キースさん。フルーファを好きなように切り込んできてください。ぼくは全部かわしてみせます」
ミルは相当な自信があるようで、手加減はいらないと言う。
僕は少し恐怖しながらも、フルーファを構える。
ミルは目を瞑り、耳と肌の感覚だけでかわすそうだ。
本当に大丈夫なのだろうか……。僕は心配になる。
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