岩石割り
「キースさん。どうでしたか? ぼくは麻袋一杯と半分ちょっと見つけました」
ミルは二袋を僕に見せてくる。
「僕は麻袋一杯分だけだよ」
僕は一袋を見せた。
「うわーい。キースさんに勝ちました」
「はは……、勝負してたっけ……」
「別に勝負はしていませんでしたけど、見た感じ、量では勝っているみたいですね~」
ミルは勝負事にせずに勝利し嬉しがっている。少々姑息だが、多めに見てあげよう。
「私もミルちゃんと同じくらいだった。毎回、驚かれるから、何がそんなに珍しいんだろうね。ただの石ころにしか見えないのに」
シトラも麻袋を二袋持ち、戻ってきた。
「ま、掘り出した鉱石は持ち帰って岩石部分を壊してみよう。鑑定所のある冒険者ギルドに行って鉱石だけを見てもらおう」
「そうですね。ぼく達には鉱石の価値がわかりませんもんね」
僕とミル、シトラは岩石を荷台に積んで、宿まで戻った。
服装が泥や砂まみれで綺麗な宿に入るのが申し訳なかったが、お店側の人は良くあることだから気にしなくても良いと言ってくれた。
部屋に戻ると、今朝よりも綺麗な状態になっていた。お店の人が綺麗にしてくれたそうだ。配慮が行き届いていて感心する。泊まる人のためを思っているのだとすぐにわかるのだ。
部屋の掃除だけならまだしも、大きな桶と岩石を割る道具を貸してくれた。どうやら、鉱山に行ったとすぐに気づかれていたようだ。岩石を桶の中で割れば、部屋が汚れずに済むと言っていた。
僕達は大きな桶を三個借り、それぞれ取って来た岩石を金槌などを使って割っていた。
「このくすんだ鉱石が宝石なんですかね……。この透明感が強い鉱石は宝石っぽいですけど」
ミルは宝石を二粒摘まみ、照明にかざす。
「ん~。どうなんだろう……。でも、透明感が強い石の方が、魔力がこもってる気がするよ」
僕は魔力視を使って透明感の高い石と濁った石を見比べてみる。すると、光具合が全く違った。透明感の高い鉱石の方が白く光り輝いている。濁っている方は光り方がよどんでおり弱弱しい。
「やっぱり透明感の強い石の方が価値が価値がありそうだね」
「えぇ……。そうなると、ぼくの鉱石は八割が濁っているので残りの二割だけが望みですね」
ミルは鉱石を沢山見つけていたが、濁った物が多かったようだ。
「私のも同じ感じ。透明感の高い石はほぼ無い」
シトラは九割が濁った石で一割りが透明な石だった。
「これだけ濁った石が多いのに、キースさんの掘り当てた鉱石、もの凄く大きくて透明すぎませんか? 反対側が見えそうですよ」
ミルはアルブが教えてくれて僕が初めに掘り当てた鉱石を持っていた。片手一杯に乗るほどの大きさで一二センチメートルくらいあった。形は菱形で水晶玉かと思うくらい透き通っている。
「ミルの持っている鉱石はアルブが見つけたんだよ。僕が見つけた鉱石はこっち側だけ」
「こっち側だけって言っても、ほぼ透明じゃない。キースは鉱石を見つける才能でも持ってたの?」
シトラは手の平いっぱいに透明な鉱石を持ち上げる。僕の場合、掘れば掘るだけ、鉱石が出て来た。どうも宝石の集まりやすい地脈を引き当てたらしい。
「ま、全部透明だから、水晶かもしれない。ミルとシトラは色付きの鉱石を当ててるから、もしかしたら高価な宝石かもね」
「どうでしょうね。でも、楽しかったので思い出の品にはなりそうです」
ミルは少々黄色がかった石を摘まむ。
「そうね。確かに楽しかったし、金貨一枚の価値はあったでしょ」
シトラは赤っぽい石を摘まむ。
「こうやって見比べてみると全部綺麗ですね~」
アルブは前足で石を突きながら遊んでいた。
「さ、お風呂に入ってご飯を食べて体力を回復しよう。岩石の入っている桶は受付で受け取ってもらえるから、着替えと布を持って行こうか」
「は~い」×ミル、シトラ、アルブ。
僕達は温泉に向かう間に、受付に一度寄って桶を返した。そのままお風呂に向かい、女子組と分かれる。僕はまたもや一人で脱衣所に入り、服を脱いだ。
お風呂場に入ると、昨日よりも賑わっており、大きなお風呂がむさくるしい男たちの巣窟になっている。どうやら団体客のようで、楽しそうに話していた。
「か~! 今日も収穫が無かったな~。クサントス領の鉱山は宝石が出やすいって噂は嘘だったのか?」
「今日は宝石付きの岩石をいくつも見つけている奴らがいたぞ。気づかなかったのか?」
「なに? そうなのか。全然気づかなかった。どんな奴らだった?」
「あぁ~、多分観光客だ。髪色が普段見ないようなやつらだったから、別の領から来た奴らだと思う。美男美女で掘るとこ全部、当たりを引くんだよ」
「ひえ~。すごい豪運の持ち主たちじゃねえか。俺達にも運を分けてほしいぜ~」
「ほんとだよな。ま、金儲けのために掘るのと無心で掘るのとじゃ、神様も忖度しているんだろうな」
「ははは、あり得るな~。宝石探しは金もうけのためにあらず! なんて言ってそうだぜ」
どうやら団体の皆さんは鉱山で宝石を掘り当てに来た人たちらしい。
団体さん達がお風呂からあがり、浴槽のお湯が一気に減った。数分後にお湯が溜まり直し、綺麗なお湯に戻っている。僕はお湯に浸かって体を癒した。
「ふぅ~。温泉はやっぱり気持ちがいいな~。疲れた日は温泉に入る。教訓にしようかな」
僕は両膝を抱えながら肩までしっかりとお湯に浸かっていた。すると、隣に大柄の男性が入って来た。
「ふぅ……」
頭から角が二本生えており、耳の位置も違う。昨日、僕の落とした布を拾ってくれた牛族の男性だった。筋骨隆々で肩幅がめっぽう広い。どう考えても強い。髪色は橙色でマゼンタとイエローの二色を持っているようだ。ま、クサントス領の人はほぼ橙色なので二色持ちが多い領土なのは周知の事実だ。
「お前の名前は?」
「え? えっと……キースです」
僕は隣に座っていた男性に話かけられた。会話をしてはいけないと言う規則はないので、話かけられても問題ない。
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