ぶどうジュースで晩酌
「腕っぷしが強かったとしても他の人と話せるようになるかどうかは別問題だよ。初対面の人と話すのが苦手なのはどうしよもない。まぁ、少しずつ直せたらいいなとは思うけど、まだ難しいかな」
僕はアルブの背中を優しく撫でながら呟く。アルブはゴロンと転がり、お腹を見せて来た。どうやら撫でてほしいらしい。お腹を撫でてあげるとアルブは手足をばたつかせて嬉しがる。背中よりもお腹を撫でられる方が気持ちいいようだ。
僕達が会話をしていると肉尽くしと思われる品が運ばれてきた。
肉の刺身にステーキ、揚げ物、ユッケ、煮物、焼き物、炒め物、八種類以上の料理がローテーブルに並ぶ。あまりの量に二名は満面の笑みだ。大量の肉加え、においから絶対に美味しいとわかるからだろう。
僕は銀貨三枚のとんかつ定食だが、こっちもこっちで結構な量だ。三枚のとんかつに麦飯、カレースープに野菜サラダという並びだ。
水差しとコップを置き、伝票を竹筒に入れた。
「現在、橙色武術祭のため、全ての料理が一.五倍になっております。料金は据え置きですので気にしないでください」
僕は金貨二枚と銀貨六枚を店員さんに渡す。お金を受け取った店員さんはその場を去っていった。どうやら水は無料らしい。
――クサントス領は料理を一.五倍に出来るくらい儲けていて、水も豊富にあるのかな……。ま、他の領土のことを考えていても仕方ない。今必要なのはどれだけ料理をおいしく食べるかということだけだ。
「じゃあ、神に祈ろうか」
「はい」「そうね」「神様に祈るのって毎回おかしいと思いますけどね」
ミルは僕と同じように両手を握り、神に祈る。シトラは両手を合わせ、祈っている。アルブは頭を動かし祈っていた。
「いただきます」×全員
僕達はフォークやナイフ、チョップスティックを使って料理を食べていく。アルブは口に入るだけバクバクと食べ、口周りを汚していた。
全員が無言になってしまうくらい食べ物がおいしく、お腹に溜まる。今回の主食は麦飯でパンよりも胃に入っているという感じが強く、お腹が空いていたのもあって三〇分後には全員が料理を完食してしまった。
「ぷは~。お水が美味しいです。クサントス領の料理も美味しいですね~。お金相応の味がします~」
ミルは全てを綺麗に食べた。好き嫌いは無く、何でも美味しそうに食べるので見ていて気持ちがいい。
「ふぅ、料理を食べることに集中していたら周りの騒音が気にならなかった。それだけこの料理が美味しかったってことね」
シトラは上品に食べていた。貴族の食事を見ているだけあって食べ方に花がある。ただ、口もとに麦枚がくっ付いているのがお茶目だな~って思う瞬間だ。
「はぁ~。いっぱい食べました~」
アルブのお腹はパンパンに膨れており、とんかつ定食が入っていると思うと面白い。どう考えてもアルブの大きさの三倍の量はあったのでよく入ったな~って感心した。
全員が満足して水を飲んでいると、お酒に酔った人たちがワイワイし始めた。時計を見ると午後八時過ぎ、寝るにはちょうどいい時間かもしれない。食べ終わったお椀はローテーブルに置いておけばいいそうなので、そのまま部屋にもどる。
「ふ~はぁ~」
ミルはベッドに敷かれた布団にぼふっと飛び乗る。マットレスの反発が良く、軽いミルは数回跳ねた。その際、浴衣の中が見えそうになり、太ももあたりまで見えたところで後方にいるシトラに鋭い視線を飛ばされ、思いとどまる。
「ん、んんっ……。さ、さてと晩酌とでもいきますか……」
「そんなふうに誤魔化してもミルちゃんの浴衣の中を覗こうとした行為は帳消しにならないからね」
シトラは僕の肩に手を置いて指先で頬を突いてくる。
「えぇ~、キースさんがぼくの浴衣の中を覗こうとしていたんですか~。もう、見せてほしいなら言ってくれればいくらでも見せてあげるのに~」
ミルは帯をするすると解き、浴衣を着くずす。するとシトラは枕をぶん投げ、ミルの顔に命中させた。そこから枕の投げ合いに発展する。
僕は晩酌という名のぶどうジュースを瓶からガラス製の器に移し変えて飲む。アイクさんから貰った高級な葡萄酒はミルが一五歳になったとき、皆で飲もうと約束したのだ。今回のぶどうジュースはクサントス領で作られた品で、甘みが若干強い気がする。ルフス領のぶどうジュースは渋みが強かった。産地が違うだけでここまでさが出るのだと思うと飲み物も面白みが強い。
「はぁ、はぁ、はぁ……。もう、いい加減にしてくださいよ、シトラさん……」
「はぁ、はぁ、はぁ……。なら、キースを無駄に誘惑しないでくれる……ミルちゃん」
ミルとシトラは両方とも浴衣がはだけ、下着が露出していた。僕としてはご褒美だが、シトラの下着がやけに肌の露出が高く、エッチくて眼をそむけざるを得ない。
――な、何であんな黒の大人っぽい下着を着けてるんだよ……。
僕は綺麗な女性の下着をお摘まみにぶどうジュースはを飲む。味が最高だった気がする。
「主、私もぶどうジュースを飲みたいです」
アルブがローテーブルに降り立ち、礼儀正しく座る。犬が座っている体勢に近しい。
「わかった。じゃあ、小皿を持ってくるよ」
僕はティーカップ用の小皿を使い、アルブが飲みやすいようにぶどうジュースを注いだ。
「はい、どうぞ」
「ありがとうございます」
アルブがブドウジュースを飲むために首を下げ、舌をペロペロと動かし、ブドウジュースを舐めとっているさい、僕はアルブの体を優しく撫でる。すると、長い尻尾がブンブンと振れ、心地いいのだとわかる。
「ふぅ~。美味しいですね~。主」
「そうだね」
僕とアルブがいちゃついていると、枕投げをして遊んでいた二人が僕の横に腰をドカッと下ろす。その振動でコップの中に入っていた液体に波紋が生まれるくらいだ。
「むぅ、ぼくも飲みたいです。ブドウジュース」
「私だって飲みたいよ。ブドウジュース」
ミルとシトラが飲みたいと言うのでコップにブドウジュースを注ぎ、渡した。二人は普通に飲み始める。僕はアルブを撫で続けていた。
二人はコップから口を全然放さない。もう、飲み切っているはずなのに、全然放さない。
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