村から移動
僕たちは、宿をあとにする。そのまま、依頼を終えたという証明書をギルドに提出しに向かった。
「ここに来るのは二回目だけどやっぱり緊張するな……」
「大丈夫ですよ。一回入ったんですから」
今日は五日前と違い、冒険者たちの数はそれほど多くない。
「冒険者はどこに行ったんだろうね。ギルドの中まで凄く静かだし……」
「ほんとうですね。受付のお姉さんくらいしかいませんよ。皆さん、それぞれの依頼に向かったんじゃないですか?」
「そうだとしても、人が少なすぎるよ。何かあったのかな」
僕たちはギルドの受付に向い、依頼達成の証明書を差し出す。
「確かに依頼主さんの印ですね。それではギルドの印を最後に押します」
受付のお姉さんは、二枚の証明書に赤色のインクで印を押した。
「これで二つの依頼を達成したとみなします。お二方ともお疲れさまでした」
お姉さんは僕達に深々と頭を下げる。
それに合わせて僕たちも頭をぎこちなく下げた。
「あの……。今日は何でこんなに冒険者が少ないんですか?」
僕は気になったのでお姉さんに直接聞いてみる。
「列車が運行し始めるからですよ。実際はいつもこんな感じで、寂しい雰囲気なんです。先日いた冒険者たちは列車に乗ってルフス領に向かう予定だったんですけど、あの事故があって立ち往生していたんです」
どうやら、ほとんどの冒険者が僕たちと同じ状況だったようだ。
「そうだったんですか。また何か事件があったのかと思って心配になってしまいました」
「冒険者を心配しても無駄ですよ。彼らはすぐ危険な場所に飛び込んで行きますから」
お姉さんは肘をつきながら言葉を吐き捨てる。
心配していないように見えるが、きっと心の中では心配でたまらないのだろう。
人とはそういう生き物だ。相手を心配してあげられる。
それが人たる所以なのかもしれない。
「それじゃあ、僕たちも行きます。短い間でしたけど、ありがとうございました」
僕とプラータちゃんは深々とお辞儀する。
「ええ、また何かあったらいつでも来てください。行ってらっしゃい」
――行ってらっしゃい……か。シトラ以外の相手から初めて言われたかもしれない。僕この言葉好きなんだよな。片っぽだけが言っても意味は通じるけど言われた方が言い返してやっと会話が成り立つ。
そう……二つの言葉で完成する感じが相手を思って投げかけているようで、元気を貰えるんだ。
「はい、行ってきます!」
僕はお姉さんに向って『心配しないでください』という気持ちを込めて「行ってきます」と伝えた。
お姉さんも感じ取ってくれたのか、肘をつきながら手を振り、微笑んでいる。
僕たちはギルドを出て、線路が元に戻っている駅に向かった。
迷惑をかけたお礼として、駅員さんたちが村で待っていた人たちに、列車に乗れる切符を無償で配っていた。
僕たちも駅員さんから切符を受け取り、駅のホームに向う。
「銀貨五枚分が浮いてよかったね」
「はい、パン五〇個分が浮きました!」
プラータちゃんは満面の笑みを浮かべながら、切符をつまんでいた。
「死にかけた割には合わないけどね……」
「そうですけど。私たちは今こうして生きているので、ありがたく受け取っておきましょう。駅員さんたちは何の非もありませんから」
「確かにね。全部あの男がやったんだった。ルフス領にいるって記者さんが言っていたけど、広いルフス領で流石に合わないよね。うん、さすがにね!」
「ルフス領はすっごく広いんですから。王都と同じくらいの広さがあるんですよ。その中でたった一人の相手とまた出会うなんて、燃え盛る土地でお花を見つけるくらい難しいですよ」
「勇者は僕達の顔なんてもうすっかり忘れているだろうし、心配するだけ無駄か。ルフス領に行ったら何するかを考えた方が有意義だね」
僕たちはルフス領に着いたあと何をするのか話し合った。
「私はまず、家族に会って無事を伝えます」
「僕も最後まで付き合うよ。プラータちゃんを家族に無事に送り届ける。その後は……お別れだね」
「そうですね……。でも、悲しくありません。キースさんとの日々は色々ありすぎて忘れられませんから」
「確かに。天と地を両方味わった日々だったよ。僕も一生忘れない思い出になった」
まだ分かれるわけではないが、空気がしんみりしてしまう。
「ま、まぁ。まだ少し先の話だから、心の整理は十分できるよ」
「そ、そうですね。今は別れ話より、楽しい話をした方がいいですよね」
僕は気持ちを切り替えて、プラータちゃんと向き合いながら会話する。
プラータちゃんの明るい展望を聞いていると、僕の未来まで明るくなるようだった。それほど彼女は相手を元気に出来る力がある。この力をどこまでも伸ばしてほしい。
そうすれば、きっとプラータちゃんの周りに笑顔がずっと溢れてるだろうから。
話していると、遂に列車がやって来た。
六日前に乗っていた列車と似ているが、少し違う。
列車は駅のホームに入ると速度を落とし、停止した。
車両の中には王都から乗ってきた人たちがいる。子供からお年寄りまでおり、皆笑顔だった。それを見ると事件前の乗客を否応にも思い出してしまい、涙が溢れそうになる。
車両の扉が開き、数人が出てきた。
誰も出てこなくなったころ、僕たちは列車に乗り込む。
前乗っていたときは少しだけぼろかった僕の革靴は、既にボロボロの状態になっている。
――この靴で王都はさすがに歩けないな。
僕は焼け焦げた靴裏で木製の床を踏みしめる。その感触は前乗っていた車両と変わらない。恐怖心を少し覚えたが、後ろが詰まっているので心を押し殺して進む。
握っているプラータちゃんの手も、少し震えていた。
開いている二人席を見つけ、プラータちゃんを窓際に向わせたあと、僕は木製の座席に深く腰を掛ける。
「はぁはぁはぁ……。な、何とか座れたね。過呼吸になるほど、トラウマになっているとは思わなかったよ」
「はぁはぁはぁ……、ほ、本当ですね。駅のホームから座席までの間がもの凄く長く感じました」
さすがに死にかけた経験は体に酷だったようで、めまいや吐き気、心拍の上昇などの身体異常が現れた。
僕は木製の窓を開け、風の通しを良くする。それだけで動悸が多少和らいだ。窓からの眺めは、はっきりと見えない。
僕の視点が定まっていないのだ。恐慌しそうになったが、黒卵さんを抱きしめて恐怖をグッと飲み込む。
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