旅日より
「じゃあ、僕達は何をしようか。夜中は暇で仕方ないから、鍛錬しかしてこなかったんだけど、他に何か良い時間の使い方とかある?」
僕はアルブに聞いてみた。
「主は鍛錬をし続けたらいいと思いますよ。主に身体の限界はありません。成長は『無限』ですからね。どこまでも強くなれます。毎日毎日少しずつ積み重ねて行けば、無色魔法でも他の魔法使いを凌駕するかもしれませんよ」
「僕には限界がないのか……。でも、成長を感じにくくなっているんだけど」
「そりゃあ、成長速度は初めが最も大きくて少しずつ低下していくものですよ。一〇センチメートル成長出来ていた努力が同じことをしても一ミリメートルしか成長しなくなるようなものです。でも、成長が止まったわけじゃありません。常に成長し続けていますから、主の根気強さの見せ所ですね」
アルブは前足を持ち上げ、曲げ伸ばしをする。
「そうなんだ。じゃあ、鍛錬を続けるよ。アルブも来る?」
「お供します」
僕はフルーファを持ってアルブを肩に乗せたまま、部屋を出る。鍵をしっかりと閉めて不審者の侵入を防ぎ、シトラとミルを守る。
宿の空き地に移動し、フルーファの形状を大剣から斧に変え、アイクさんが行っていた基礎練習を真似して行う。アイクさんよりも身長が低いので、難しかったが見様見真似だったが、ぎこちないながら出来た。周りから見たら、斧が体の周りをブンブン回っているように見えるだろう。いったい何種類の動きが一連の中に入っているのだろうか。
「構える、振る、背後、横、引く、……」
僕は一つ一つの動きを確かめながら基礎練習を行った。二時間後、斧を振る見かけだけはよくなった。でも、実践で使えなければ意味がない。基礎を反復練習した後、体作りのために筋力の鍛錬を積む。塵を積もらせていくのだ。いつか巨大な山になると信じて。
僕は朝まで鍛錬を繰り返した。汗だくになり、フルーファの持ち手が手汗によって滑る。ほんと困る。僕の手汗のせいだと思っていたが、実際は握力の低下によって持ち手がしっかりと握れていなかったのだ。
朝日が昇ってくると生えまくっていた雑草が、僕の居た位置だけ無くなっていた。フルーファを振っている間に、雑草を刈っていたらしい。
日の出の時間は午前六時頃のはず。二名も起きたころだと思うので部屋に戻った。
「むにゃむにゃ……。キースさん……、そんな大きなバナナ、食べられません。でも頑張って食べます」
「んン……。キース……、美味しそうなソーセージを食べさせてくれるの……、嬉しい……」
ミルとシトラは寝言を呟き、未だに夢の中だった。
僕は二名が眠っている間に、汗まみれの体を水を含ませた布で綺麗にする。服も汗っぽかったので水で洗濯しておく。
出発の準備を整えながら、ミルとシトラが眼を覚ますのを待つ。午前七時頃に二名が眼を覚ました。
「おはよう、二人共。よく眠れた?」
ミルとシトラは下半身を確認したのち、顔を赤くさせ、しらっと起き上がる。そのまま下着を脱ぎ、新しいものに履き替えた。僕が洗濯に使った水で下着を洗い、何事もなかったかのように風に当てて乾かす。二人も汗を掻いてしまったのかな。
「二人共、準備が終わったら食堂に行って朝食を得るよ。その後に出発するからね」
「りょ、了解」×ミル、シトラ。
「ん? 二人共、今日はやけにたどたどしいね。どうかしたの」
「い、いや~。いい夢を見たなと思いまして……。でも、キースさんに合わせる顔が無いというか……、何というか……」
ミルはモジモジしながら答えた。
「わ、私も同じ感じかな……。ちょっと今は、キースに合わせる顔がない」
シトラもミルと同じようにモジモジとして赤面していた。その後、シトラとミルは互いに薬を水で流しこみ、発情を止めていた。
今の季節は発情しやすいらしく、一日一回は薬を飲んでいる気がする。あまり飲み過ぎるのも行けないような気がする……。僕が二名に無理をさせているんだろうか……。
昨晩はシトラといい感じになっていたがアルブの誕生によって、いちゃいちゃ出来なかった。そもそも、何をしたらいいのかよくわかっていない。だが、一応謝っておこう。
「ごめん、二人共……。無理させてるよね」
「キースさんが謝ることじゃないですよ。ぼくの体がいけないんです。キースさんのことを考えるだけで発情しちゃうなんて……」
「ミルちゃん、別に体が悪い訳じゃないと思う。キースが無駄にカッコよくなっていくのが悪いんだよ。昔は泣き虫のへっぴり腰だったのに、今では男らしくなっちゃってさ……」
ミルとシトラは僕の方をチラチラ見てため息をつく。薬が効いてきたのか、顔の熱りが引いていった。
僕達は部屋を出て朝食を得に食堂に向った。
ミルとシトラ、アルブは朝食だというのにとんでもない量を店員さんに頼み、胃に落としていく。
僕は適量を食べ、美味しい料理を味わった。
旅で重視したいのは土地の美味しい食事だ。まずい料理をわざわざ食べたいとは思わない。お金はあるのでなるべく美味しい料理を食べて幸せを噛み締める。そう言う旅が楽しいと思う。
もちろん、観光も楽しみだが、僕たちは皆、食べることが大好きなので、いつも以上に顔がニマニマしてしまう。
朝食を得た僕達は部屋に戻り、出発の準備を進めた。魔道具を使って乾いていないパンツを乾かし、冒険バックに詰め込む。忘れ物がないかを確認して宿を出た。馬屋から馬を引き取り、元気が有り余っている馬を荷台につなぎ、出発の準備が完了した。
「よし、皆。忘れ物はないね?」
「はい!」×ミル、シトラ、アルブ。
皆は返事をして、手を上げていた。僕は手綱を握り、撓らせて馬を動かす。
荷台の点検は済ませてあるので、安全のはずだ。走っている間に分解したりしない。
今日の天気は快晴で旅日よりだ。ミルとシトラは気温が丁度いいぽかぽか陽気のため、荷台の中ですやすやと眠っていた。
「主、疲れたら休んで良いですからね。『無休』を発動しているとはいえ、人の体が本来持っている自己修復機能も活用しないと、体がボロボロに劣化してしまいます。私の方でスキルを発動するかしないかを判断しているので、一日中起きていられますが、疲れた時は休みましょう」
アルブは僕の肩に飛び乗ってきて、助言してきた。
「わかった。でもまだつかれていないから、大丈夫だよ。心配してくれてありがとうね、アルブ」
「いえいえ、主の体調管理は私の役目でもありますからね」
アルブは誇らしそうにつぶやいた。白い体に太陽の光が反射し、神々しい。
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