ルフス領を出発
「アルブ、何から聞けばいいんだろう……。色々と情報がありすぎて頭がこんがらがっているんだけど、僕たちの関係は召喚獣と主の契約って感じなのかな?」
僕はアルブを見ながら聞いた。
「そうですね。おおむね間違っていないと思います。はぁ~、産み落とされてから数億年……、長い間、主を探し続けました。ようやく巡り合えた。妥協せずに長い間待ったかいがありましたよ」
アルブは前足を胸の前で組みながら言う。
「アルブは何のために産み落とされたの?」
「母から役割は与えられませんでした。なんせ、七色以外の無色ですからね」
「無色……。七色ってドラゴンも勇者と同じで七色いるの?」
「そのはずですよ。逆に今の世界に名を轟かせているドラゴンはいないのですか?」
「聞いた覚えがないよ……」
「ほえぇ……。じゃあ、皆は何をしているんでしょうね。ま、他のドラゴンの話はどうでもいいです。このように、外に出られただけでも私はとても嬉しいのですよ」
アルブは部屋の中を自由気ままに飛び回り、僕の膝の上に乗る。小型の犬や猫くらいの大きさで、ドラゴンと呼ぶには可愛らしい大きさだ。まだ孵ったばかりなので小さいのは当たり前か。
「はてさて、主。私は棚の上で静かにしていますから、お二方と続きをお楽しみください」
アルブは棚の上に降り立ち、しゃがむ。
「な、何を言っているんだい。ぼ、僕は何もするつもりはないよ。ちょっと眠るだけさ」
「むぅ~。キースさんのヘタレ……」
「ほんと、腰抜けなんだから……」
ミルとシトラは僕を情けない男だと罵ってきた。
――朝だし、雰囲気がめちゃくちゃだし、ミルは未成年だし……。ま、また今度にしよう。
僕のヘタレ精神はこの後も長く続くことになる……。二名の限界が訪れるその日まで。
僕はミルとシトラの誘惑に打ち勝ち、ほんの少し仮眠をとる。二名も一緒に仮眠をとり、午前一〇時頃に起きた。
「ふぅ……。ふぅぁ……。よし、体調が少しばかりかよくなったな」
僕がベッドで眼を覚ますとアルブは僕の胸の上で眠っていた。
僕はアルブの頭を優しく撫でてあげると、嬉しそうに頭を手の平に当ててくる。ドラゴンと言われなければ、ただの翼が生え、尻尾と首が長く、四足歩行の生き物でしかない。はは……、それをドラゴンと言うのか。
「アルブの姿が見えると皆怖がるからさ、姿を変えられたりしない?」
「ん~。なら、翼を見えないようにすればリザードのように見えるのではないですかね。と言うか、普通に『無視』で見えなくなっていると思いますけど」
アルブは翼を見えなくして四足歩行の生き物になった。翼が消えたのはいったいどういう原理なんだ。
「何で、アルブの翼が消えたの?」
「消えていませんよ。ただ、見えなくなっているだけです。『無視』されているだけなので、触ってみれば、存在します」
僕はアルブの背中に触れる。すると、何やら翼のような物体があった。
「んあ……っ、主、翼の付け根は敏感なので、もっと……優しくしてください……。私、産まれたばかりなので……」
アルブの甘い声が呟かれる。
「何言ってるの……」
僕はシトラとミルを起こし、出発の準備をする。フルーファの様子を見たら艶々だった。こんなに光沢があったかと思うほどで、上機嫌だとすぐにわかる。初めての満腹感を味わっているかのような気が伝わってくる。だが、ホーンラビットの油でてかっているだけかもしれないと思い、乾いた布で拭いて手入れをしておいた。
出発の準備を整えた僕たちは部屋を出る。アルブは僕の肩に乗り、シトラとミルは荷台に乗る。僕は荷台に前座席に座って馬車を操作する係りだ。
「三人と一匹での再出発ですね。もう、フレイともおさらばです。一生会わなくてもいいくらいに拘わってほしくないです」
ミルはフレイを特段嫌っていた。
「そうね。キースにお礼も言わず、手柄を自分の物だけにしようとしている感覚が理解できない。ほんと、どうかしてるわ……」
シトラは朝刊を読み、フレイに悪態をついていた。そう、表紙にフレイの功績がデカデカと乗っていたのだ。
『赤色の勇者、万を超えるホーンラビットの大群をたった一人で殲滅し、ルフス領を救う。大勝後に王都へ遊びに行く余裕を見せた。次回の順位決定戦に期待高まる』
「はは……、王都に遊びに行く余裕を見せたか……」
――実際は逃げたが正解なんだよな。フレイが遊びに行ったと言ったわけじゃなく、ルフス領の記者が書いたんだろう。フレイは嘘を付けない性格らしいからな。
僕達は北門に向かい、ルフス領を出る。北門の外は荒野が広がっており、大きな木々がはえているので森と言っても遜色ない。ただ、道が作られているので森や荒野の中で迷う心配はなさそうだ。
「キースさん、ルフス領から、クサントス領までどれくらい掛かるんですか?」
ミルは僕に抱き着きながら聞いてくる。昨日も抱き着いてきたら危ないと言ったばかりなのに……。
「えっと、馬車なら一ヶ月くらいじゃないかな。列車なら七日も掛からないと思うよ」
「なら、列車で行った方が楽なんじゃない? わざわざ馬車で行かなくても……」
シトラは外の景色を見ながら呟く。
「列車は……、ちょっと色々あってさ。馬車の方がのんびりできて良いかなと思って」
「まぁ、時間は腐るほどあるし、まったりとした旅も悪くないか」
僕はフレイの件で列車に乗るのが結構トラウマになっている。人込みも好きじゃないので、時間はかかっても馬車で移動した方が気持ち的には楽なのだ。
ルフス領とクサントス領に挟まれている土地はどちらの土地でもなく、ルークス王国の土地ということになっている。そのため、髪色がどんな人であれ住もうと思えば住んで構わない。まぁ、各領土もいろんな髪色の人が住んでいるが対外別れている。
髪がわかれている理由としては主に役職や性格、技量によると言われている。大昔から色分けされているのでいまさらおかしいと思う者の方が少ない。もとから色が別々だったから今も分かれていると母さんに教えられた。中央にあるルークス王国の王都は多くの髪色が存在し、別れている訳ではない。
僕が馬を操り、シトラとミル、アルブは荷台で遊んでいる。仕事とは無縁のまったりとした時間が流れていた。
ルフス領から離れて六時間ほど馬を走らせると、村が見えて来た。
木製の看板が立ち『ようこそ』と書かれている。領と領の間にはこういった小さな村や街がいくつもあり、列車の駅や馬屋も完備されている。そのため、安心して領間を移動できる。魔物も出現するが、冒険者が駆除して回っているそうなので、被害は小さい。
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