黒卵さんの正体
「えっと、僕は血を洗い流してくるよ。さすがに汚いからさ」
「はぁ……、じゃあ、私はキースの穴だらけの服を直しておく。全部脱いでおいて。後で洗濯するから」
シトラはあきれた様子でベッドに座り込んだ。
「じゃ、じゃあ、ぼくはキースさんの背中を流す役を……」
ミルが僕についてこようとすると、シトラがミルの腕を掴み、進むのを止めた。
ミルも潔くベッドに座り、待つことにしたらしい。
僕は服を脱いでシトラに渡したあと、お湯が出る蛇口をひねり、大きな桶にお湯を溜める。お風呂が無いので体を拭くための場所が作られており、汚れた水は排水溝に流せばいいようだ。黒く染まった髪を綺麗に洗うと、白髪に戻り、いつもの僕になった。黒卵さんも袋から出して綺麗に洗う。
「黒卵さん、寝ちゃってるけどいつ起きるのかな……」
僕は黒卵さんを綺麗に洗う。
黒卵さんの援護狙撃が無かったら途方もない時間が掛かっていた。ほんと黒卵さんのおかげで勝てたような戦いだった。でも、強さには代償がつきものだ。何を要求されるかわからない。あと、強さはうぬぼれだ。僕自身が強い訳じゃない。黒卵さんが強いんだ。だから、僕は強さを疑い、自分の強さを確立する。そのための頭だ。
僕の力はフルーファを振って倒していたあの時間だ。剣の振り方、身のこなし、状況判断。
魔力量も体の強さ、体力なんかも多分黒卵さんのおかげだ。少なからず、僕の力も入っていると思うけど、黒卵さんの力で底上げされている。何かに頼った強さほどみじめなものはない。黒卵さんには感謝しているが、僕の強さではないのでこれからの戦闘では力を控えていきたい。本当に危険な時だけ力を貸してもらおう。
「ふぅ、さっぱりした。黒卵さんも綺麗になりましたね」
真っ黒な黒卵さんは光を反射せず、何も映らない。僕は黒卵さんを抱えて脱衣所に出る。体を拭き、新しい下着が置いてあったので着替えた。
僕が寝室に戻るとシトラとミルが鼻息を荒くしながら、ベッドに寝転がっていた。
「ふぅ、ふぅ、ふぅ……。キースさんの汗のにおい……、ゾクゾクしますぅ」
「ふぅ、ふぅ、ふぅ……。ほんと……もう嫌って言うくらい良い匂いがする……」
「二人共……。何してるの……」
僕が戻ってくると、シトラとミルは固まり、何事もなかったかのように洗濯を再開した。
僕も何も見なかったふりをしてベッドに座る。
洗濯し終えたシトラとミルは穴の開いた服をささっと縫ってくれた。僕の服はほぼ復活し、穴が開いていたとは思えないほど、綺麗に縫われていた。先ほどの時間を差し引いても、しっかりとやることはこなしているのだから僕は何も言わないでおく。
「キースさんがいなかったら今頃フレイはどうなっていたんでしょうね。きっと泣きわめいて逃げ出してますよ」
僕はフレイと共闘してホーンラビットを倒したと二名に言っておいた。まぁ、始めはフレイが戦っていたのだから共闘と言っても差し支えないだろう。
最終的に鎮圧したのは僕だが、始めの個体数を減らしてくれたのはフレイなので別に文句はない。そもそも名声が欲しい訳ではないので、フレイの手柄になっても何も思わない。
ただ、せっかく倒したホーンラビットを売ったら大金になっただろうなというちょっとした心残りはある。今日か明日の情報誌にはフレイの活躍がデカデカと乗るのだと思うと、目新しい情報という知識は案外役に立たないのかもしれない。
「はぁ……。二人は荷台の中で寝るとして僕は疲労困憊の中、馬の操縦をしますかね……」
僕はベッドに寝ころび、少し脱力していた。疲労はあるが動けない訳ではない。別に眠たいという訳でもない。なので、馬の操作は可能なはずだ。
「キースさんは少しでも休んでください。働きすぎは体に毒ですよ」
ミルは僕のもとに添い寝をしてきた。血で汚れた寝間着は洗い、顔も拭いてきたようだ。
「キースの疲れを癒すのも奴隷の役目……だと思うし、午前中はここで休んでいこう」
シトラもベッドに上がって来て、添い寝をしてきた。先ほどまで頭に雷が何度も落ちていた二名が、今は甘い香りを放つ綺麗な花に見える。僕は喉をゴクリと鳴らし、両手を二人の肩に置こうとした。そんな時だった。
「ふわぁ~。よく寝ました~。いったい何年の時を眠っていたのでしょうか。あら、主、お楽しみ前でしたか。申し訳ありません。何なら私も混ぜてほしいですね」
お腹の上に置いてあった黒卵さんに罅が入り、バキッという音共に、中からトカゲに翼が生え、両手両足に鋭い爪、二足歩行でも問題なさそうな太い脚、リザードのような長い口に牙、尻尾も長く、全身が鱗で覆われていた。眼が大きく愛らしい虹色の瞳。だが、殻とは裏腹に白い体をしており、純白の羽そのもの。もう、見かけからして神々しい。
「ほ、本当に孵った……」
ミルは真っ白な生き物を見て、眼を見開いている。
「卵から声が聞こえるという話は嘘じゃなかったのね……」
シトラも白い物体を見て眼を見開き、驚いていた。なんなら僕も絶句している。
「き、君はいったい……。何者なんだ……」
「主、初めまして。私には名前が無いので付けてもらえますか?」
「な、名前……。名前は……そうだな。体が白いから……、シロとか?」
「…………」×ミル、シトラ、ドラゴン。
三名のじとっとした視線が向けられる。
「う、嘘嘘。さすがにそんな安直な名前を付けないよ。ん~、ん~。白は別名アルブスともいうし、アルブって言うのはどう?」
「アルブですか……。良いですね。では、私を今日からアルブとお呼びください」
「わかったよ、アルブ。えっと……とりあえず、色々聞きたいんだけど、卵の殻を集めようか。布団に落ちると掃除が大変だからさ」
「そうですね」
アルブは翼を広げ、羽ばたく。すると、空中に浮き、僕の胸から移動した。
「う、浮いてる……。すごい」
「浮くなんて用意ですよ。何たって私はドランゴンですからね」
アルブは頭をもたげ、胸を張る。僕とミル、シトラの三名は割れた殻を回収した。
「この殻、驚くくらいに硬いんだけど……」
「本当ですね。割ろうとしてもびくともしません」
シトラとミルは殻に力を入れるも全く割れない。僕も同じように殻を割ろうと力を加える。すると、ぱりぱりと鶏の卵の殻を割っているような感覚に陥る。
シトラとミルは結構な力持ちだ。そんな二人でも割れなかったのに、僕が触ったら簡単に割れた。力のせいなのだろうか?
殻は全て回収し、革袋の中に入れておいた。今後、何かに使えるかもしれないため、とっておく。
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