アイクさんとの別れ
「キースさん、あんな別れ方でいいんですか?」
ミルは僕の服を掴んで聞いてくる。
「いいんだ。あまり干渉しすぎるのも悪いし、挨拶できただけでも良かったよ」
僕はエルツさんに別れを告げた後、闇市を出る。
午後三時頃、この時間帯ならアイクさんのお店は空いているはずだ。
僕は行きなれた道を移動し、アイクさんのお店に向った。
「こ、こんにちは……。アイクさんはいますか」
僕は久しぶりにお店の中に入った。
「キースか。久しぶりだな。元気だったか」
食堂で皿を片付けているアイクさんが僕に話かけていた。
「お久しぶりです。一応元気でした。アイクさんは知っていると思いますけど、僕たちはルフス領を離れます。えっと、その……、帰ってきた時にまた寄ってもいいですか……」
「ふっ……。当たり前だ。いつでも戻ってこい。俺がキースにしてやれたことなんてほとんどないが、お前は俺の想像を超えてはるかに強くなった。素直に誇らしいよ。お前達ならどの領土に行ってもきっと煙たがれるだろう。だが、実力で有用性を証明してやればいい」
「アイクさん……」
「厚かましいかもしれないが、子どものいない俺にとっては楽しい時間だった。息子がいたらこんな感じなんだろうなと思わせてくれて感謝している」
「ぼ、僕も、アイクさんみたいな人が父親だったらよかったと何度も思いました。実の父親じゃないですけど、アイクさんは実の父親よりも親身になって僕に寄り添ってくれました。何度、アイクさんに救われたかわかりません。本当にありがとうございました」
僕はアイクさんに頭を下げる。
「はぁ……、しみったれた空気は苦手なんだ。ちょっと待ってろ」
アイクさんは皿を運び、僕たちの前をあとにした。
「キース、あの人がアイクさん?」
シトラは小さな声で話しかけて来た。
「そうだよ。僕の第二の父さんなんだ」
「キースがそこまで言うなんて、相当いい人なんだ……」
「はい、本当にいい人ですよ。ぼくも第二の父親だと思っています。アイクさんとなら一緒にお風呂だって入れちゃいますよ」
ミルの言いたいことは何となくわかる。
「そ、そこまで……。私も一緒に生活してみたかったな……」
「シトラとの相性はいいかもね。アイクさんは仕事をきっちりかっちり行う仕事人間だからさ、シトラの仕事状態とあってるよ」
「そうなんだ」
シトラもアイクさんに興味があるのか、話を色々したそうにしている。
数分後、アイクさんは大量の荷物を持って戻って来た。
「ふぅ……。待たせたな。これがキースのために買っておいた良い葡萄酒。あと、俺の専用武器のフルーファだ。契約は解除してあるから、キースが握れば新しい主として契約される。キースは武器を持っていなかっただろ、俺には必要ないから冒険のお供として使ってやってくれ」
「え、えぇ……。そ、そんな大切な物、貰えませんよ。葡萄酒だけでもうれしいのに……」
「じゃあキース、今、持っている武器は何だ?」
「え、えっと……、アイクさんから貰ったダガーナイフだけです……」
「そのナイフだけで戦っていけるほど、世の中は甘くない。ブラックワイバーンだってその武器で倒せたのは奇跡だ。他の冒険者はもっといい武器を使いながら戦う。キースとフルーファの相性はいいはずだ。好きな時に打撃と斬撃を切り替えられる」
アイクさんは大型の斧を僕に渡してきた。持ち手が二メートルほどあり、刃の部分も一メートル以上ある。
「ほ、本当にいいんですか? アイクさんの相棒なのに……」
「ずっと裏庭にほったらかしにしてあるより、誰かと一緒に冒険した方がこいつも嬉しいだろ。年配の俺にはもう扱いきれない。こいつは食欲旺盛だからな、魔力量の多いキースを気に入るはずだ」
「わかりました。キースさんがそこまで言うなら、いただきます」
僕はアイクさんから大型の斧、長い持ち手と巨大な黒い刃の付いた武器を貰った。
持ち手を握ると全身から力が抜けるような感覚に陥る。でも、食べ過ぎ状態からちょうどいいくらいの感覚に戻った。すると餓狼は光り、納まる。
「い、今の光は……」
「契約完了だな。簡単に持ち上げられるはずだ」
僕は餓狼を持ち上げる。すると、片手斧よりも軽く感じた。
「持ち運ぶ時は斧の状態じゃなくて大剣にしておくと運びやすいぞ」
「え……、大剣になるんですか?」
「ああ、持ち手を捩じれば変形する」
僕はにわかに信じがたいと思い、握っている持ち手を、雑巾を絞るようにねじってみた。すると、大きな斧が大剣に姿を変える。斧の部分が持ち手に納まるように剣身に変形したのだ……。
「こ、こんな機能が付いた武器、いったいいくらしたんですか……」
「ま、金のことは気にするな。使い勝手さえよければいいだろう」
「そうですけど……」
僕は大剣になった餓狼を背負っている黒卵さんと背中の間に挟む。すると、磁石でも付けたのかと思うほどピタリと止まり、ズレ落ちない。
「何ですかこの大剣。バンドも着けていないのに、くっ付いたんですけど……」
「ほう、気に入られたんだな。くっ付いてくるくらいキースが気に入ったということだ」
「まるで大剣が意志を持っているような言い方ですね……」
「意志と言うか、気持ちと言うか……、使っていればおのずとわかると思うぞ。武器は生きている。だからこそ使い手を選ぶ。くっ付いてくれるということはキースはフルーファに気に入られたんだ」
「僕にはまだよくわかりませんけど、アイクさんの使っていた武器を使いこなせるように頑張って行きたいと思います」
「ああ、頑張れよ。次にミルだが……、一応渡しておく」
アイクさんはミルに得体のしれない箱を渡した。
「こ、これは? いったいなんでしょうか」
「避妊具だ。今年で成人らしいからな、使い方を間違えないように説明書をしっかりと読むように」
「…………ありがとうございます!!」
ミルは沈黙の後、大きな声で感謝し、細長い箱を懐に大切そうにしまう。
「あと、治療鞄も渡しておく。ただの旅行と言っても何があるかわからないからな。備えておいて悪いことは起こらないはずだ」
アイクさんは手提げ鞄をミルに渡す。
「はい。確かに受け取りました!」
ミルはアイクさんから、鞄を受け取り両手で持つ。何が入っているのかわからないが、アイクさんが持たせてくれるものだ。きっと使いやすい品が入っているに違いない。
「君がキースの言っていたシトラか。君も三原色の魔力を持っていないんだな。だが、とても綺麗な色だ。キースが惚れるのもわかる。君には届ものがある。これを」
アイクさんは見覚えのある箱をシトラに渡した。
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