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三原色の魔力を持っていない無能な僕に、最後に投げつけられたのがドラゴンの卵だった件。〈家無し、仕事無し、貯金無し。それでも家族を助け出す〉  作者: コヨコヨ
第一章 『無限』の可能性

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黒卵さんと入浴

「まさか、浴場まで使えるなんて。ありがたいの一言に尽きる」


 僕は掃除で汚れた体をお湯で綺麗に洗い流したあと、浴槽に入る。少し熱めのお湯が足先に触れた。少しずつ浸かっていき、肩までつかると吐息が漏れる。


「お湯に浸かるのなんて、久々だな。やっぱり気持ちがいいよ。体の疲れが全てとろけてしまう……。これで明日も頑張れそうだ」


 僕は広いお風呂にたっぷりと癒してもらい、明日の活力を養う。浴槽からあがり、体を洗う。石鹸を泡立てると爽やかですっきりとした何とも言えない香りが漂う。

 体の汚れを石鹸の泡で綺麗に落としていき、最後にお湯をかけて、全てを洗い流す。


「ふぅ~。いい感じだ……。あ、そうだ。黒卵さんも洗ってあげよう」


 僕はお風呂場にまで黒卵さんを持って来ていた。それでも周りの人は何の反応も見せない。きっとただのお風呂道具の一種としか見ていないのだろう。黒卵さんを革袋から取り出して、泡で擦っていく。もこもこになっていき雲のようになった。


「うわぁ、すごいもこもこだ……。それだけ汚れてたのかな。もしかしたら真っ白になってたりして……」


 僕は自分の髪と同じ白色を期待していた。特に色が同じだからと言って、何かが変わるわけではない。ただ、もう少し親近感がわくと思っていたのだ。


「え……。いや、洗っても黒なのか」


 黒卵さんは表面の汚れが落ち、さらに真っ黒になった。あたりの光をすべて吸収しているのか、全く反射しない。

 今、すこし光沢が出ているのは洗い残した泡が光を反射しているのだろう。


「黒卵さんは、もっと黒い色だったのか。そりゃ、三〇〇年も放置されていたら汚れちゃうよね」


 僕は黒卵さんに付いている泡を綺麗に洗い流した。

 少し喜んでいるように見えるのは、僕の勘違いかもしれない。

 でも、僕が嬉しくなっているのだから心が繋がっている黒卵さんも嬉しいに違いない。


「よし、黒卵さん。露天風呂に行きましょう」


 どうやらこの宿は露天風呂もあるらしい。とんでもなくいい宿だ。今日は快晴だったので、きっと星が綺麗に見えるだろう。


 夜も深まり、月の灯りに照らされているであろう露天風呂に僕は向った。


「中は広かったけど、外も広いな。ここの宿、本当に一泊銀貨一枚でいいのか。どう考えても割に合っていないよ」


 お湯から立ち昇る湯気によって魔道具の灯りが滲む。

 橙色の灯りは月の光と合わさり、幻想的な空間を作り出していた。筋骨隆々のむさ苦しいおじさん達さえいなければ、楽園と言ってもいいだろう。


「よいしょ……。ふぅ~黒卵さんいい湯加減ですね」


 黒卵さんからの反応はない。


 ――そりゃそうか、卵だからな。


 僕は周りから見たら卵に話しかけている、頭のおかしい人になっているな。まぁ、黒卵さんには助けてもらったし、なぜか離れられないし。でも『温めてください』と頼まれたのなら仕方がない、最後まで責任を取ろう。


 黒卵さんの頭だけが白濁のお湯から出ており、お風呂を囲っている黒い石とほぼ変わらなかったため、僕は小さく笑ってしまう。


「卵ってお湯で温めていいのかな。ゆで卵になってしまうのではないだろうか。さすがに問題ないよな、ドラゴンとか言ってたし。もしかしたら自分をドラゴンだと思っている、黒いレッサードラゴン(ドラゴンもどき)だったりして。はは、それはそれで面白いな」


 僕は白濁のお湯を左手で掬って黒卵さんの頭に掛ける。

 すると、黒卵さんが汗を掻いたように滑らかな殻にお湯が滴る。子供だったらこのまま頭を大きく揺らし、きっと水しぶきを上げるのだろう。


「ほんとに綺麗な月だな……。明日もいい日になりそうだ。ね、黒卵さん」


 とても小さく、聞こえるか聞こえないかギリギリの音だったが「そうですね………」と確かに聞こえた。


「はは……。寝言みたいに返事するんですね」


 そこから言葉は聞こえなかったが、黒卵さんもいい気分になってくれたようだ。

 僕はお風呂からあがり、脱衣所で体を拭く。自身の体をマジマジと見つめ、右腕に力を入れてみる。


「ふっ!」


 腕の筋肉が所々盛上り、多少なりとも男らしく見える。でも、周りの冒険者たちと比べるとまだひよっこ……。鍛え方が足りない。


「魔法が使えない僕は身体能力で何とかして行かないといけないんだ。体をもっと鍛えないと。朝、黒卵さんを持ちながら走るか。少しでも体力を付けよう」


 僕は体を拭き終わり、下着類を身に着ける。宿が貸してくれた寝間着を羽織った。


「もし、赤色の勇者みたいな非人道的な輩が現れた時、生き残れる確率を上げておかないとシトラに会う前に僕が死にそうだ」


 魔法が使えないというのは、結構深刻な問題だった。

 大きな硬い肉を食べるためにはナイフが必要不可欠なように、この世で生きていくためには魔法が必要不可欠なのだ。


「ほとんどの仕事は三原色の魔力のどれかに合った魔法を使うし。工事現場ですら『橙色魔法』を使うんだ。生きづらい世の中だよ……、ほんとに」


 喉が渇いたので近くにある井戸から水をくみ、喉に一気に流し込んだ。


「美味しい! お風呂上がりの一杯の水は格別だよ」


 僕は木製のコップを月に掲げ、大きく伸びをする。

 全身温かいお湯に解され、疲れが一切ない。


「よし、部屋に戻って寝よう」


 僕は部屋に気分よく戻る。扉を開けると、プラータちゃんがベッドの上でもぞもぞと動いていた。


「プラータちゃん、何しているの?」


「わぁ! き、キースさん。お帰りなさい……」


 プラータちゃんは僕が寝ていたベッドに横たわり、枕を抱えて停止していた。


「ただいま……。えっと、何しているの?」


「えっと、えっと……。ベッドを整えようと……」


 プラータちゃんは僕から目をそらす。何か、後ろめたいことでもあるのだろうか。

 色々考えるが結論に至らず、僕は気にしないことにした。


「そうなんだ。変わった整え方だね……。それでいつ整うのかな?」


「す、すぐ終わります!」


 プラータちゃんはベッドを飛び降り、シーツをピシッと整える。抱きかかえていた枕を元の位置に戻し、薄手の布団を掛けた。その際、皴になった薄手の布団を短い手で払いながら伸ばしていく。


「で、出来ました」


 プラータちゃんは、なぜか汗だくで息が荒い。それだけ真剣にやってくれたんだ。


「ありがとう、これで気持ちよく寝られるよ」


 近くに来ていたプラータちゃんの頭が丁度いい位置にあったので僕は手を添えて、お礼がてら優しく撫でた。


「えへへ……。キースさんの手、おっきいです」


「それじゃあ、明日も朝早いだろうから、そろそろ寝ようか」


「明日も頑張って働かないといけませんからいっぱい寝て、体力を戻さないといけませんね」


 僕はランタンの灯りを消して部屋を真っ暗にする。手探りでベッドまで戻り、寝転がった。

 薄手の布団をお腹に掛け冷えないようにする。

 もちろん黒卵さんにも薄手の布団をしっかりと被せる。


「あの、キースさん……」


「ん? どうしたのプラータちゃん」


「キースさんの依頼はどうでしたか?」


「あぁ……。えっとね、結論から言うとお金を貰えない仕事だった」


 プラータちゃんはベッドから上半身を置き上がらせながら驚く。


「でも、依頼主さんが凄く困っている人で僕も力になりたいと思ったんだ。魔力がなくても掃除くらいはできるから」


「キースさんがそれでいいなら……、別に構わないんですけど……」


「プラータちゃんは何も気にしなくてもいいよ。自分と家族のためにしっかり働いておいで」


「わかりました。私、もっと頑張ります!」


「ほどほどにね……。仕事のし過ぎも体に悪いから」


 僕はしだいに瞼が重くなり、眼を閉じる。すると、一瞬で眠りに落ちた。

最後までお読みいただき、ありがとうございます。


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