共食い
「はい。皆さんも日々の仕事を怪我に気をつけて頑張ってください」
僕が話し終わると、四人は川を飛び越えてシトラを取り囲む。皆、シトラに興味津々で質問攻めをしていた。シトラは全員を一度離れさせ、自己紹介をする。
「初めまして、シトラ・ドラグニティと言います。キース様が大変お世話になったようで、これからも末永くお知り合いのままでいてください」
「えっとえっと、初めましてトーチ・ラストロと言います。『赤光のルベウス』と言うパーティーのリーダーです」
トーチさんが自己紹介すると、他のメンバーも自己紹介を始め、シトラに質問をしていく。
シトラは『赤光のルベウス』さん達の質問をしっかりと聞いて返答をしており、女子達でわちゃわちゃとしていた。
女性たちが集まるとああなるのかと思い、僕は一人取り残されている。
ミルが加わると、仲のいい友達のように話しだし、皆、仲良くなっていた。
ほんと女性の会話術はすごい。人嫌いのシトラでも、悪い人達ではないとわかると、普通に話せるようになり、会話を楽しんでいる。
僕には男友達が結局出来なかったなと思い、少し羨ましかった。
僕にも友達みたいな人が出来たらいいのに……、と願っているようではまだまだ駄目なんだろうなとしみじみ思う。
僕の方から行動しないと友達なんて作れはしない。僕と友達になってくれる人、募集中と言う張り紙でも背中にくっ付けておけば興味を持ってくれた人が話しかけてくれるかもしれない。そんなこんな言いながら、結局恥ずかしくてできないのだけど……、友達は欲しいな。
――はぁ、友達の作り方、誰か教えてくれないかな……。
僕は『赤光のルベウス』さん達の話が終わるまで静かに待っていた。
女子の話を遮ると怒られるのはシトラとミルの会話で学習済みだ。出来るなら、報告に早く行きたいけどいつまで話しこんでいるつもりなんだろう。
女性たちの話は昼頃から始まり、辺りが暗くなり、野営の準備を行ってなお続いていた。
――ど、どれだけ話し込むつもりなんだ……。
僕はあまりに暇すぎて川で釣りをしており、すでに大人数で食べても数が余るほどの食糧が確保できていた。
無言で魚の処理をして焚火のもとに持っていく。木に刺した魚を並べ、焚火を利用した遠火で焼いていく。すると、魚が焼けたので、煤塗れの皮を取り、周りの人に渡していくと皆は話しながら受け取り、モグモグと食べては喋る。
いったいどれだけ喋ったら気が済むんだと思いながら、僕も魚を食べた。
寝られない僕は鍛錬を続け、夜が深まったころ話し合いが終わった。
「ふぅ~、楽しかった。って、あれ? なんか周りが暗くない?」
トーチさんは周りが暗いという当たり前のことを今気づいたかのように言う。
「本当ですね。いつの間に夜になったのでしょうか……」
マイアさんも同じように自身の周りを見渡して暗い景色を確認する。
「もう、ほぼ真上に月があるっす。深夜っすよ」
フランさんは月を指さして驚いていた。
「ふわぁ~。どおりで眠たい訳だ。なぜかテントも張ってあるし、今日はここで寝よう」
『赤光のルベウス』さん達は焚火の周りで眠り始めた。誰が見張りをやるんだと思っていたら、ミルとシトラも寝てしまい、結局僕一人だけ取り残して皆、眠る。
「はぁ……。僕が見張りを行うのか。まぁ、僕は眠らなくても大丈夫だから良かったものの、僕がいなかったらどうするつもりだったんだろうか。危険すぎるでしょ……」
僕は焚火が消えないように枯れ木を集めてくべていく。
沢山入れてもすぐに燃えて無くなるし、少なすぎてもすぐに消える。
薪をくべるのにも絶妙な加減が必要だ。僕には焚火を起こした経験がほぼ無いので、どれだけの薪を入れたらいいのかわからなかった。でも、数回でコツを掴み、焚火を安定させられた。少し成長できたと思い、ちょっとはにかむ。
「焚火を安定させて燃やし続けることが出来ますと言っても、別にすごい訳じゃない。でも、出来ることは増えた。それだけで儲けものだな」
僕は焚火を見ながら夜を過ごした。これだけ小さな炎なら何も恐怖心をぼ得ないが、木が丸ごと燃えていたらさすがに恐ろしい。もう、フレイにトラウマをいくつも受け付けられてしまっているので、出来れば克服したいが難しいだろうなと逃げてしまう。
「はぁ……、炎がトラウマになるなんて人としてどうなんだろうか。いや、動物は元から火が苦手だ。人も動物なんだから苦手なのは当たり前だ。怖いと思うのが間違っている訳じゃない。怖いのは当たり前なんだよ。大丈夫、これが普通だ……」
僕が焚火を見ていたら、森の奥で何かが蠢く。出てきたのは体調二〇センチほどのホーンラビットだった。
「ホーンラビット……。ホーンラビットって夜行性だったかな?」
僕は冒険者の手引きを取り出し、ホーンラビットについて調べる。
「えっと……、ホーンラビットは薄明薄暮性で明け方と夕方に動き、昼と夜に眠る。か……。今は明け方と言うにはまだ早い。あの個体だけ珍しいのかな」
ホーンラビットは魔物なので、出来るだけ倒しておかなければならない。四カ月前でも相当な数がいたけど、今はどうなんだろう。数は減ったかな。
僕がホーンラビットに向って石を投げて討伐すると、他の個体がぞろぞろと現れた。そのまま討伐されたホーンラビットの肉を食べつくす。僕は異様な光景を目の当たりにして全身に怖気が走った。
「と、共食い……。魚以外にも共食いするのか……。ホーンラビットが共食いをするなんて手引きに乗っていないのに」
僕はあまりにも悍ましい光景だったので視線を逸らすも、ホーンラビットから黒い血液が吹き出し、他の個体の顔に付着する瞬間や、体が縮こまってしまう不快な音を鳴らしながら骨まで食べていく光景が頭の中で鮮明に思い出せてしまう。
「いったいなんだったんだ……」
僕は異様な雰囲気に飲まれ、焚火を強くした。何が起こっているのかわからないのでミルかシトラを起こしてにおいで探ってもらおう。
「ミル。起きて……」
「むにゃむにゃ……。キースさん、らめぇ……。もう、耐えきれないれすぅ……」
僕はミルの肩を揺らして起こそうとしたのだが、なかなか起きてくれなかった。
「シトラ、起きて……」
「うぅん……。キース……、フニフニ……」
僕はシトラの肩を揺らして起こそうとしたのだが、ミル同様に起きてくれなかった。
「二人共、全然起きないぞ……。どうしたら起きてくれるかな」
僕は考えた。ミルの聴覚はこの場にいる者の中で最も敏感だ。ならば、少し強い刺激を与えれば、起きてくれるかもしれない。
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