ルフス領から出発する準備。
「凄く黒い……。これが生きて動いてたんだ……」
「そうだよ。飛び回って動いてたんだ。僕もこのブレスレットを見ると戦っていた時を思い出すよ。死に物狂いで頑張っていたあの時を忘れないために僕は一生付け続ける」
「キースさんが一生付け続けるのなら、ぼくも一生付け続けます。そうすれば、ずっとお揃いですもんね」
ミルも手首に付けているブレスレットを見せて来た。三人のお揃いの品は僕たちの繋がりになってくれるようだ。
「ねぇ、キース。今日も寝ないの……」
シトラは僕の体調を心配して聞いてきた。子供が風邪気味なのに遊ぼうとしている姿を見ている母親のような眼をしており、寝させようとしてくれている。
「う、うん……。寝ないよ」
「ぼくたちに挟まれながらなら眠れるんじゃないですか~」
ミルはニタニタと笑い、僕をからかってきた。二人に挟まれながらなんて寝られる訳がない。心臓が持ちそうにないのだ。
「二人に挟まれて眠れるわけないでしょ。二人共、僕のことは気にしなくてもいいから、好きなだけ眠って」
「私が寝たあと、悪戯したら怒るからね」
シトラはベッドにゴロンと寝ころび、枕に頭を置く。そのまま、僕を睨みつけるような眼力を放ってきた。大きな膨らみに触れただけで首を噛みきられそうだ……。
「ぼくが寝たあと、キースさんならぼくの体をどれだけ触ってもらってもいいですから~。好きな所をフニフニって揉んでもいいですよ~。お尻でも、おっぱいでも、何ならキスしたっていいですからね~」
ミルもベッドにゴロンと寝ころび、うつ伏せの状態で枕に顔の半分を埋めている。お尻が短パンを膨らませており、大きさが強調され、成長を感じた……。
「ぼ、僕が寝てる二人に手を出すわけないでしょ……。安心して眠ってよ」
僕は二人に背を向けて黒卵さんを抱きかかえながら屈伸運動を行う。
「はぁ……。じゃ、お休み……」
「むぅ……。ぼくも寝ちゃいますからね……」
シトラの力の抜けた声とミルのむくれた声が部屋に響いた。
「うん。お休み……」
僕は二人の方を向いて声を掛ける。
シトラの寝る姿勢はとても綺麗で、死体かと思ってしまう。両手をお腹の上に置き、真上を向きながら眠っているからそう見えるのかもしれない。
逆にミルの方は寝相が決まっていないため、眼をやるといつも面白い形になっている。さっきまではうつ伏せで眠っていたのに、すでに仰向けになり、両手を広げて眠っていた。
「ほんと両極端だな……」
僕は二名の睡眠の邪魔をしないように部屋の明りを消し、月明かりのみで生活する。
「はぁ、はぁ、はぁ……。きっつ……。もう、我慢できない……」
僕は体を一定の姿勢で長時間保つという鍛錬を行っていた。
体の内側が鍛えられるらしく、本で読んだ内容をそのまま真似してみると、四分も耐えられなかった。
音を鳴らさず二名に迷惑のかからない鍛錬なので取り入れてみたが、とてもいい。音が鳴らないうえに体の内側が鍛えられていると実感できる。最近、体の成長を感じ取りにくくなっていた。なので、僕もまだまだ成長できるのだと思うと胸が躍る。
「にしても、黒卵さんが言っていた期限が過ぎているのに、一向に孵らないな。どうしたんだろう。まだ温めたりないのかな。三カ月も孵化が遅れるなんて……、少し心配だな」
僕は黒卵さんに耳を近づける。
『すぴぃ……、すぴぃ……、すぴぃ……、すぴぃ……』
「も、もしかして……、寝てるのか。三カ月も寝坊するってあり得るの?」
僕は無理やり起こすのも悪いと思い、そっとしておいた。生きていることが確認できたのだから、問題はない。
僕は鍛錬を終え、瞑想をする。少しでも魔法を使えるようになりたいという一心で練習を続けているものの、未だに生活魔法のメラすら出ない。
僕には魔法の才能がとことん無いようだ。あまりにも無さすぎて何度も諦めようと思ったが、出来るようになると信じて今まで練習してきた。練習の成果が未だに開花しないが、気長に鍛錬しているので出来なくても仕方がない。
僕の小さな目標として生活魔法を発動させる。メラでもいいから、小さな魔法を放させてくれ。僕は魔法が放ちたいのだ。まぁ、結局今日も魔法は出なかった。
四月二四日、月曜日。
シトラとミルはようやく馬に乗れた。僕は馬車を扱えるようになり、旅が出来る準備は整った。
出来るならシトラ達にも馬車を扱えるようになってほしかったが、旅をしながらでも馬車の操縦は扱えると思い、出発する日時を決める。
三名で話し合い、四月三〇日の日曜日にルフス領を出発すると決めた。
少し間を開けた理由は冒険者のギルドカードを作るためだ。加えて挨拶回りなども行いたかった。
『赤光のルベウス』さん達やアイクさん、ミリアさん、エルツさん、ハイネさんなどなど皆がいたから、今、僕は生きている。別れると思うと泣きそうになるけど、悔いはない。
なんせ一生の別れという訳じゃないんだ。皆が生きていてくれれば、僕達の思い出の場所が残っていることになる。どこに行っても、時間を掛ければ戻って来られる。
僕達は多くの領土をめぐる予定だけど、ルフス領はいい所だったと宣伝して回ろう。フレイの件さえなければ本当にいい場所なのだ。
赤色の勇者にさえ気を付ければ良い所と言う歌い文句にでもすれば、ルフス領にも多くの人が来てもらえるのだろうか。
僕とミル、シトラはルフスギルドにやって来た。
「え……、キース君。久しぶり! 元気だった~!」
受付で仕事をしていたミリアさんが僕に気付くや否や、抱き着いてきた。周りの人の視線もは関係なく勢いが強くて弾き飛ぶかと思ったが、何とか堪える。
「えっと……、この子は?」
ミリアさんはシトラを見て呟いた。
「初めまして。シトラ・ドラグニティと言います。キース様がお世話になったようで、大変ありがとうございました」
シトラは礼儀正しく頭を下げ、ミリアさんに挨拶をかわす。
「あなたがシトラちゃんなのね……。キース君がずっと追い求めていた大切な相手……」
「キース様、だいぶ恥ずかしい認知のされ方をしているようですね……」
シトラは僕の方を睨み、頬を少々赤めている。
「はは……、ごめん」
僕はシトラに苦笑いを見せ、許しを貰う。
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