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三原色の魔力を持っていない無能な僕に、最後に投げつけられたのがドラゴンの卵だった件。〈家無し、仕事無し、貯金無し。それでも家族を助け出す〉  作者: コヨコヨ
赤色の勇者をもとに戻すために出来ること

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戦闘訓練は経験の差が出る

「あとはミル……。って、あれ、どこに……。上か!」


「くっ! はあっ!」


 ミルは音もなく空中に跳躍しており、柔らかい体を利用して高く蹴り上げた脚を僕に振りかざしてくる。


 僕は両腕を重ね合わせ、ミルの脚の攻撃を防ぐ。巨大な岩が落ちて来たのかと思うほど攻撃が重く、高い位置から振り下ろしてきた速度も相まって完璧に当たれば重症になりうると判断した。


 ――ミルからこんなに重たい攻撃が飛んでくるなんて予想外だ。警戒しないとな。


 ミルは攻撃が通らないと判断し、僕の腕を力点にして後方に跳躍し、低い姿勢で着地する。まさしく猫そのものでお尻を高く上げ、尻尾が伸びている。耳も全方位を確認するためによく動いていた。息を荒げているのはシトラからの連戦と緊張からだろう。

 シトラよりも実践に出ていただけあって戦闘の勘が鋭く、危機察知能力も長けていた。さすがブラックワイバーンと戦っただけのことはある。あの時は逃げ回っていたが、恐怖心はミルを確実に強くしたはずだ。


「今のも当たらないのは流石に厳しすぎませんかね……。一回くらい当たってくださいよ」


「今の攻撃を受けたら僕の頭が割れるから受けられないよ。さ、ミル。一対一になったけど、これからどうするの?」


「くっ!」


 ミルは追い込まれていた。仲間の一人が倒され、二人がかりでも倒せなかった敵と相対している。通常なら逃げるのが普通だが、敵は逃がしてくれないだろう。だからこそ、立ち向かわなければならない。


 ミルは壁に取り付けられている武器の中から、使い勝手のいいナイフを三本取る。


 ナイフは直径二〇センチメートルほどの品で、背中に一本隠し、両手に一本ずつ持ち、構える。


 武器の仕様を禁止している訳じゃないので全然有りだ。敵が武器を使ってこない格闘家だけなわけじゃない。僕の練習にもなる。


 僕も木剣を構え、ミルと相対する。武器の長さでは僕の方が有利だが、素早い攻撃と軌道を読む力はミルの方が上。力は五分五分のはず……。


「ふっ!」


 今回は僕が攻める。先手必勝だ。


 ミルは動かず、僕の様子を窺っていた。木剣なので体が切れる心配はない。でも、当たれば確実に痛いので、なるべく寸止めしたいところだが、彼女に手加減をすると僕の方が倒されてしまいそうなので心を悪魔にして振りかざさせてもらう。


「はあっ!」


 僕の剣はミルの体擦れ擦れに振りかざす。かわされることはわかっていた。だから、次の攻撃に移って手首をすぐさま捻り、右斜め上に振り上げる。だが……。


 僕の剣はまたしても空を切り、砂埃が舞うほどの風圧を起こしただけでミルに当たらなかった。


「はあっつ!」


 どうやらミルは移動できる可動域を確保していたらしい。腹の開いた僕の胸に彼女の持つナイフが迫る。


「くっ!」


 僕は振り上げた剣をすぐさま捨ててミルの腕を止めるために全神経を使う。もう、あと一センチメートルでナイフの穂先が胸に当たっていたという位置で彼女の腕を捕まえ、攻撃を阻止した。


「あとちょっとなのに……」


「本当に、あとちょっとだったね……」


 僕はミルの腕を捻り、関節を決める。


「くっ!」


 ミルは地面に胸から着き、身動きが取れない。左手に持っているナイフを僕に向って投げて来た。


 だが、見え見えの攻撃なので当たらず、ミルの持ちナイフは右手の一本と腰の……、あれ、腰のナイフがない。どこに行ったんだ。ミルの周りにはナイフが落ちている訳じゃないし、どこだ……。


 僕は真上から嫌な気配を感じ、視線を向けるとナイフが落ちてきていた。


 ――ミルは捕まりそうになったとたんに左手に持っていたナイフを上に投げ、腰のナイフを引き抜き、僕に向かって投げることで上に視界を向けさせないように仕向けたのか。


 落ちてくるナイフの真下にいるのは僕で、ナイフが回転しながら落ちてくる。竿が頭に当たれば痛いだけだが、刃が頭に当たれば最悪突き刺さってしまう。当たる確率は五割。


 さすがに回避するか、防御するかしかない。


 生憎両手はミルを押さえるために使っている。片手だと逃げられる可能性がある。でも、ナイフが刺さると考えたら回避が確実。


 僕はミルの右手からナイフを奪い、場を離れる。ナイフはミルの背中に落ちるものの、音で柄の位置が分かるらしく、見る必要もなく背面で手にし、立ち上がった。


 加えて僕は背中にナイフを突きつけられていた。僕の背後にいたのは先ほど戦闘不能になったシトラだった。彼女はナイフを持ち、僕の背後に立っている。


 負けと反則が重なり、引き分けとなる。


 まぁ、僕はシトラを殺していたわけじゃないから、最後の詰めとしては起こりうる可能性はあった。


「ううぅ……あとちょっとだったのに」


「私がもう少し動けていれば、捕まらずに済んだのに」


 ミルは落ち込み、シトラは視線を下に向け頬を膨らませながら呟いていた。


 両者共によく頑張ったと思う。僕だって最後は死にかけたわけだし、詰めが甘いという弱点がわかった。


「ミルちゃん、すごく動くんだね。やっぱり冒険者の仕事をしていたら危険と隣合わせで危機察知能力が上がるのかな?」


 シトラはミルの動きに感動し、眼を輝かせていた。相手がすごければ年下でも関係なく尊敬の念を抱けるシトラの心の優しさがうかがえる。


「多分、ぼくが善戦できたのは冒険者の経験があったからだと思います。これでも一応、ブラックワイバーンと戦っていますからね。あ、これは言ったら駄目なんでしたっけ……」


 ミルは口をつぐみ、僕の方を向いてくる。


「シトラは他の人に言ったりしないから大丈夫だよ」


「ブラックワイバーン? え、ブラックワイバーンって……これ?」


 シトラはスタスタと走り、一冊の表紙に描かれている黒々とした絵を見せて来た。その絵はまさしくブラックワイバーンだ。


「そうだよ。あと、そのブラックワイバーンの絵より大きかった。シトラは僕達がブラックワイバーンを倒したと知らなかったの?」


「う、うん……。私、ほぼ何も聞かされてなくて……、ライトさんからの伝言くらいしか知らない。ライトさんの伝言が無かったらキースが来てくれていることもわからなかったし、ずっと監禁状態みたいなものだったから……。でも、ブラックワイバーンを倒してるなんて」


 シトラは本の表紙を見て一度開く。その本はブラックワイバーンを倒した経験のある冒険者がブラックワイバーンを倒すまでの経緯を描いた伝記だった。

最後までお読みいただき、ありがとうございます。


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