シトラのお願い
「いいないいな~。ぼくならもちろん即答なのに~」
ミルは僕のもとに寄ってきてムギュっと抱き着いてくる。
シトラからは触れられないので、ミルは見せつけるようにベタベタしてきた。すでに汗が渇いており、甘いにおいがして頭がくらくらするわけだが、シトラも頬が膨れているような気がする。あの氷の表情をするシトラがまさかね。
「キースさん。お風呂に早く行きましょう。もう、汗だくで気持ち悪いです」
「そうだね。行こうか」
「ちょ、ちょちょ……。ちょっと待って。一緒に入ってるの?」
「シトラさん~、メイドさんですよね~。敬語忘れちゃ駄目ですよ~」
ミルはずるい顔をしてシトラを見る。シトラは唇をググっと噛んで視線をただしたあと淡々と話し始めた。
「キースさんとミルさんは一緒にお風呂に入る気なのですか?」
「ま、まぁ。そうだよ。ミルが別に構わないというか、是非一緒に入りたいというんだ」
「はい! ぼくはキースさんとお風呂に入りたいんです!」
「へぇ~、そうなんですか~。一緒にお風呂~。はいはいはい……、どうぞごゆっくり~」
「し、シトラ、いったい何を怒っているの……」
「怒ってなどいませんよ。私には関係のない話ですからね。キースさんとミルさんが一緒にお風呂に入っていようがいまいが、私には何の関係もありません」
シトラはスンとして僕達に道を譲った。
「さ、行きましょうキースさん! 是非ともお背中を流したいところですが、生憎洗う場所は別々なので露天風呂で疲れを一緒に癒しましょう~」
僕はミルに引っ張られ、お風呂場に向かう。
「じゃ、キースさん。ぼくはこっちから入りますね」
「うん。僕は反対側から入るよ」
僕は男と書かれた扉に入り、ミルは女と書かれた扉に入る。脱衣所で服を脱ぎ、お風呂場に入ると、この時間でもまだお湯は温かかった。
源泉かけ流しとかなのだろうか。もしそうなら、すごい贅沢だ。僕がお風呂に入っていると、隣の女湯から声が聞こえた。
「なっ……。何でシトラさんも入ってきているんですか。今はお仕事中ですよね!」
「庭仕事で手が少々汚れてしまったので、手を洗うついでにお風呂に入ろうと思いまして」
「いや、洗面所で手を洗ってくださいよ。何さらっとお風呂に入る口実を作ってるんですか。にしても、お、大きいですね……」
どうやら隣の女湯にミルとシトラが入っているらしい。シトラの全裸……。僕には刺激が強すぎる。ミルと同等かそれ以上に厭らしいからな。ど、どうしよう。精神を保っていられる気がしない。
シトラとミルはお風呂の中で言い合いをしていた。裸の付き合いをしているらしく、僕には話を聞かれたくないから、露天風呂に言っていてほしいという。僕は了承し、一足先に露天風呂に向った。
露天風呂で体を解していると女湯の方から扉が開いた。
僕はミルが来たと思い、振り返ると髪を纏めて前の方を布で隠しているシトラだった。僕は慌てて前を向き固まる。
「何を緊張してるの、私を見つけた時に散々見たでしょ」
「あ、あれは事故で、その、見たくて見たわけではなくて……」
シトラは仕事ではなく、日常だった。僕の隣に入ってくると、夢にまで見たシトラが隣にいる。触れないが、彼女が視界に入っているだけで僕は嬉しかった。
「あった時から気になっていたんだけどキースが持っている黒い卵は、何なの?」
「これは父さんが僕に投げつけてきた卵なんだ。捨てておけって言われたけど、非常食にと思って取っておいたんだ。そしたら、喋り出して抱きながら温め続けてほしいって頼まれたんだよ」
僕が話しをするとシトラは耳を疑っていた。あまりにもばかばかしすぎて僕の頭がおかしくなったのではないかと言うほどだ。
「へえ、キースの言いようからすると嘘じゃなさそうね。でも、キースが元気そうでよかった……。普通に死んでるかもしれないって思ってたからすごく安心した……。義理のお父さんに手紙が見つかった時は殺されると思ったけど、もう一度売り飛ばされるとはね」
「ほんとだよ……。そもそも何でイリスちゃんに手紙なんて出したのさ」
「え……。き、キース。私の書いた手紙を読んだの……」
「父さんに投げつけられて舐めまわすように読んだよ。家を追い出されてしまったけど、こうやってまた再会できて本当に良かった。僕はシトラを見つけるまで冒険し続ける気だったけど、母さんがシトラを買ったこのルフス領に来てみたら大当たりだったよ」
「まさか会えるなんてね……。はぁ、キースなら追いかけてくるかもしれないとは思っていたけど案の定追いかけてくるし、見つかるし、領主に腕を焼かれている姿を見て頭が混乱してた。今でも信じられない。私を追ってこんな場所まで来るんだから」
シトラと話していたら、どこか、そわそわしていた。
「どうしたの、シトラ。何か気になるの?」
「えっと、その……。ミルちゃんの件なんだけど……」
「ミルの話? ミルがシトラに何かした。あとで言って聞かせておくから、何をされたのか話して」
「そうじゃなくて……。に、ニクスが私を助け出すまでミルちゃんとイチャイチャしないで……。イチャイチャするのは私を助けたあとにして……」
シトラはお湯の熱さで体温が上昇し、顔が赤面している。僕の顔をしっかりと見ていないとなると、恥ずかしがっているようだ。
「僕がイチャイチャしている訳じゃないんだけどな……。ミルがくっ付いてくるんだよ。だから、僕に言われても困る」
「ミルちゃんにはもう言ってある。混浴も禁止。抱き合って寝るのも禁止。手を繋ぐくらいならいいけど、抱き着き合うのは禁止。キスをするのも禁止」
「やけに注文が多いね。いっぺんに覚えられないよ。でも、シトラがお願いしてくるなんて珍しいね。昔はお願いなんてしてきた記憶がほとんど無いんだけど。少し丸くなった?」
「ふ、太ってないし! 食べ物がおいしいとつい食べ過ぎちゃうけど、全然太ってないから」
シトラは僕の手を持ち、お湯の中にあるお腹を触らせてきた。シトラ本人は太っていないというが僕の触った感じ、とても柔らかい横腹が付いている気がする……。
「シトラのお腹、ふにふにで気持ちいね」
「ば、馬鹿! そこは全然太ってないって言うところでしょ!」
「そ、そうなの……。ごめん、全然分からなかったよ……。でも、ガリガリよりはいいんじゃないかな。昔のシトラは見ていられなかったから……。僕は少し太っているくらいが安心するよ。ま、シトラは健康的な体が一番きれいでかわいいよ」
僕は笑顔でシトラに伝える。
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