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三原色の魔力を持っていない無能な僕に、最後に投げつけられたのがドラゴンの卵だった件。〈家無し、仕事無し、貯金無し。それでも家族を助け出す〉  作者: コヨコヨ
赤色の勇者をもとに戻すために出来ること

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尻尾だけは制御できない

 扉を数回叩き、僕は部屋に入る。


「あ、キースさんお帰りなさい。見てください。結構豪華ですよ」


 ミルはテーブル席に座り、料理を眺めていた。僕も荷物を戸棚に置き、椅子に座る。


 テーブルに並べられていたのは彩の良いサラダと四角いトロトロの肉がごろッと入ったビーフシチュー、ホカホカで美味しそうな白パン、氷で冷やされている水の入ったコップだった。シトラがカートを動かして運んできたらしい。


「では、食事の後にデザートと紅茶をお持ちいたしますので、好きな時にお知らせください」


 綺麗すぎる獣族のメイドさんは透き通るような美声で話した。


「わかった。ありがとう、シトラ」


 シトラは一礼してカートを押しながら部屋を出て行く。


「な、なんか、貴族になった気分です……」


 ミルは料理と部屋を何度も見回して呟いた。


「そうだね……。まぁ、シトラは貴族の家で働いていたメイドだから、雰囲気も貴族っぽい。僕は堅苦しすぎて好きじゃないけど……」


「確かに、堅苦しい気もしますね。でも、慣れていかないといけないですよね」


 僕とミルは神に祈り終わったあとスプーンを持ち、ビーフシチューを口に含んだ。


「美味しい……」×キース、ミル。


 アイクさんの料理も格別に美味しかったが、領主邸の料理も舌が唸るほど美味しかった。


 がっつり食べたくなる味ではなく、すごく上品な味わいになっており、絶対に貴族の家で料理を作っていた料理人だとわかる。


 アイクさんの料理は良くも悪くも、庶民の味で誰もが好きな味付けだった。だが、領主邸の料理人の作った料理は高級感漂う、一段階上の品だった。


「な、なんか……スプーン一杯一杯が深いです……。一気に掻き込んじゃいけないような味わいで涙が出そうです……」


「そうだね。僕もこんなに美味しい料理は初めてかもしれない」


 僕とミルは料理をいつもより味わって食べた。出された食事は残さず、全て食べきり、手を合わせる。


「シトラ、料理を食べ終わったよ」


 僕が外に声を掛けると、シトラが部屋に入ってきて皿などをカートに戻し、部屋を出て行った。


 僕は部屋の外に出てシトラの仕事ぶりをみる。


 シトラは屋敷の端に設置された昇降機にカートを乗せ、一階におろし、デザートと紅茶を乗せたカートが二階に戻ってきた。そのまま、彼女はカートを僕達の部屋に運ぶ。


 昔は少ない料理を運ぶだけだったので、シトラが手で持っていたが、今となっては両手で抱えられないほどの量なので、カートを使っているようだ。


 シトラが戻ってきた時には僕が扉を開け、迎え入れる。


 僕は椅子に座り、シトラのメイド姿をまじまじと見ていた。


「キースさん、シトラさんを見すぎじゃないですか……」


ミ ルは僕の方を見て少々嫉妬心が強めの視線を送ってくる。


「え? あぁ、ごめん。そうかもしれない……。昔からの癖なんだよ。シトラを見かけたら目で追ってしまうんだ」


「見られてるこっちの身にもなってほしいですけどね」


 シトラは冷たい声で話す。


「ご、ごめん」


 シトラはカートに乗っているケーキを僕とミルの前に置き、ポットからカップに紅茶を入れる。入れ終えたらケーキの近くに置き、少し下がって静かになる。


「い、いただきます」


 僕とミルはケーキにフォークを刺しこみ、掬って食べる。卵の風味と生クリームの甘み、イチゴの酸味がいい具合に溶け合い、決してくどくない味を口内で醸し出していた。


「お、美味しい……」×キース、ミル。


 ミルは角砂糖を紅茶に三個ほど入れ、僕はシトラが入れてくれたそのままの紅茶を飲む。


 紅茶の渋みとケーキの甘みが絡み合い丁度いい。ここまで丁度いいと逆に怖いくらいだ。


 ただ、同じく懐かしさも感じていた。紅茶の味は違えども、お湯の熱さや紅茶の渋み、色、匂いなど、僕の好みばかり。シトラに入れてもらっていた紅茶で間違いなかった。


「シトラ、すごく美味しいよ。僕の好み、覚えてくれていたんだね。ありがとう」


「一二年間、仕えてましたから……。それくらいは……半年たっても覚えてますよ」


 シトラの表情は硬い氷のようだが、尻尾はビックリするくらい振れている。指摘したいぐらい揺れているのだが……、ここは気持ちをグッと押さえて紅茶と一緒に言葉を呑み込んだ。


「キースさんとシトラさんは一二年も一緒にいたんですか……。凄い、もう兄妹みたいな存在なんですね」


「そうだね……、年数で考えると兄妹に近いのかもしれない。でも、僕はシトラのことを一度も妹だとは思ったことがないよ。ずっと可愛らしい女の子として見てた……。今もだけどね」


「よくもまぁ、そんな恥ずかしい発言を本人の前で出来ますね……」


 シトラの尻尾はもう、千切れてもおかしくないくらい振れている。ミルも食い入るように見ており、僕と一緒に笑いをこらえていた。


「お二人して何を笑っているのですか?」


「い、いや。何でもないよ。あ、お替りを貰ってもいいかな?」


 僕はカップをシトラに渡す。シトラはさっと受け取り、ポットから紅茶を注いでテーブルに戻した。


「ありがとう。シトラ。にしても、半年前よりも綺麗になったね。ほんと見違えてるよ。髪の艶とか、肌とか、爪とか、どこもかしこも綺麗になってる」


「見られるのはあまり好きではないので、止めてください」


「ごめん……。でも、昔よりもずっとずっと綺麗になって可愛くなってた。それだけで僕は嬉しいよ。シトラが辛い目に合っていないだけで僕は嬉しい。本当に良かった」


「………………」


 シトラの氷のような表情が少々赤くなり、僕から視線を逸らす。僕とミルはデザートとを終え、シトラにカップと皿を渡す。


「では、今日の午後七時にまたお食事をお持ちします」


 シトラは一礼してカートを押して部屋を出ていく。その時、僕が扉を開け、シトラが外に出やすいようにしておく。すると、シトラが小声で何かを呟いた。


「…………キースも、カッコよくなってたよ」


「し、シトラ……。もう少し大きな声で言ってほしかったな~! もう一回言って!」


「い、いやです……。で、では失礼します」


 シトラは熱った表情を見せないように下を向きながら僕の前をそそくさと走り、カートを押して部屋を出て行った。


「むぅ~。シトラさん可愛すぎます~! ずるいです~!」


 ミルは頬を膨らませ、むくれていた。風船のようになっているミルも可愛らしいのだが自分で気づいていないのだろうか。


「シトラは素直じゃないんだ。いつも冷たい表情なのに尻尾だけは正直なんだよ」


「シトラさん、キースさんの怒涛の誉め言葉にすごく尻尾を振っていましたね。すごく可愛かったです。尻尾が揺れちゃうのは制御できないんですね」


「そうみたいだね。でも、今からどうしよう……。ん~、じゃあミル、僕と一緒に鍛錬でもしようか」


「はい! おねがいします!」


 僕とミルは服を着替える。


 僕は高級な服装から冒険者服に着替え、動きやすさを重視した。


 ミルも同様に可愛らしい服装から冒険者の身軽な服装になる。

最後までお読みいただき、ありがとうございます。


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毎日更新できるように頑張っていきます。


これからもどうぞよろしくお願いします。

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