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三原色の魔力を持っていない無能な僕に、最後に投げつけられたのがドラゴンの卵だった件。〈家無し、仕事無し、貯金無し。それでも家族を助け出す〉  作者: コヨコヨ
第一章 『無限』の可能性

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僕の影は薄い

「はい、掃除を一緒に頑張りましょう!」


 僕とブランカさんたちは教会の中に入った。


「私たちはこの雑巾で掃除していく。床や椅子、照明、壁、ほぼすべての場所の埃をすべて綺麗にしていこう」


「了解です。それにしても、中は結構綺麗ですよね」


「少し前まで相当汚れていたが、ここまで綺麗になった。あとは磨き上げていくだけだ。綺麗になれば村の人達も拝みに来る、子供達の遊び場にもなる。今は管理する者がいないが、村の方々が管理してくれるはずだ。教会は皆の心。綺麗であれば心が晴れやかになり、汚れていれば曇っていく。この教会が綺麗になれば、この村はもっと活気のある場所になるはずだ」


 ブランカさんは木製の桶に手の平を翳す。『青色魔法:ウォーター』と唱えると、掌の前に魔法陣が浮かびあがり、水が出てきた。

 桶の中に雑巾を入れ湿らせたあと、硬く絞る。絞った雑巾を僕に手渡してくれた。


「ありがとうございます」


 治りかけの右手で僕は受け取る。


「えっと……聞いていいのかわからないが、キースさんの白髪は地毛なのか?」


「はい、地毛ですよ。生まれた時から白髪だったらしいです。両親は二人とも二色持ちだったんですけど、なぜか三原色の魔力を持っていない白髪が生まれてしまいまして……」


「やはり、白髪は三原色の魔力を持っていないんだな。だが、魔法が使えないと生活しにくくないか?」


「そりゃあ、もう大変ですよ。皆は何かしら魔法が使えるのに、僕だけ使えなかったんですから。父母、長男の兄には酷い目に合わされましたね」


「そうなのか……、辛い思い出だったのだな。聞いてすまなかった」


 ブランカさんは僕に向って頭を下げてくる。


「いえいえ、過去の話ですから。一昨日に何度も死にかけました。生きてるのが当たり前じゃないと痛感させられましたよ……。今は生きてると実感できて、一日一日がとても有意義なんです」


「私も学んだ。冷静さを欠くべきではないと。一生忘れられない一日だが、一生忘れない知識を手に入れた。仲間の死は無駄にしない。それこそ死んだ仲間に顔向けできないからな」


 ブランカさんは桶に貼られた水面に映る自分を見ながら、言葉をもらす。


 他の白服さん達も雑巾を絞り、教会を掃除し始めた。


 僕は壁、椅子、床の順に掃除していく。僕に投げつけられた腐った卵は自分で全て片付けていたから雑巾の扱いにも慣れていた。


 ――シトラも掃除をよく手伝ってくれたけど、鼻の良いシトラに辛い思いをさせたくなかったから、僕は孵卵臭で鼻がもげそうになりながら雑巾で泣く泣く掃除していたなぁ……。


 僕たちは朝から掃除を初めて、いつの間にか昼頃になっていた。


「ふぅ~。やっぱり掃除すると気分がいいな。自分の心を磨いている気がするよ」


「そうだろ、私も掃除が好きだ。綺麗になると心が晴れる。その間は無心になれるんだ」


 僕が教会の長椅子に座っていると、隣にブランカさんが座ってきた。絶妙に靴の裏が床にとどいていない。


「ほんとそうですよね。ちょっと掃除するだけでも気分が変わります。その後の未来まで良い方向に行くような気すらしますよ」


「そうだな……」


 ブランカさんは顔を上げて教会壁に取り付けられた七色のステンドグラスを眺めていた。

 僕はその姿に少し見惚れながら、昼の一時を過ごした。


 昼の休憩が終わり、掃除を再開する。一七人で掃除してもなかなか終わらない。

 中だけではなく、外も掃除するとなると五日間以上かかりそうだった。


 僕は無心になりながら掃除していると、いつの間にか日の光によって、教会の白い壁が赤く染まっていた。

 赤色を見ると怖気が背中を少し走る。真っ赤に燃える炎の色。フレイの髪の色。一昨日の死地の光景が思い起こされた。慣れていくしかない。


 僕たちは掃除を止め、教会の入り口付近に集合した。


「それじゃあ、ブランカさん。今日のところは帰ります。明日の朝また来ますね」


「ああ、よろしく頼む。キースさんが来てくれて大分楽になった。ありがとう」


「僕は掃除してただけですよ。それでも役に立てたならよかったです」


 僕は教会を離れ、借りている宿に向った。


「プラータちゃんの方はどうだったかな。僕の方は報酬無しだけど、人の役にたてたから満足だ。宿で美味しい夜食が食べられると思うだけで、脚が軽いな」


 今朝、空気が重いと思っていた一本道は綺麗な橙色(オレンジ)に彩られ、絨毯のような華やかさを醸し出していた。


「橙色は赤色よりも優しい色合いだな。でも、この色を見ると一日が終わるんだと思わされるよ」


 僕は橙色の長い絨毯を歩きながら、黒卵さんを撫でる。今までかまってあげてなかったと気が付いたのだ。


 ――それにしても。何で誰もこの状況に違和感を覚えないんだ。僕が大きな袋を抱えているこの状況、どう見てもおかしいと思うんだけど。買い物した後だと思われてるのかな。


 僕は気になり、一本道を出て人気の多い道で周りの反応を見ながら歩く。誰一人として僕の方を見ていない。

 結構珍しい白髪で大きな袋を抱えてるのに、だ。


「僕って、こんなに影が薄かったのか。でも逆に薄くていいのか。人の視線は痛いから、目立たない方が安心できる。僕も目立ちたいわけじゃないからこのままでいいや」


 僕は影が薄いと思いこみ、意気揚々と歩いていたら、さすがに気付かれて痛い目で見られた。顔に夕日の光が当たっていなかったら、耳にまで血が巡っている姿をさらしていただろう。

 羞恥心に耐えられず、黒卵さんを抱きかかえながら足早にその場を去った。


「はぁはぁはぁ……さすがに飛び跳ねながら歩いたら気づかれるか」


 宿まで戻ってきた僕は、借りている部屋に向う。

最後までお読みいただき、ありがとうございます。


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