もの凄い靴
「キースさんはこのまま成長したら大変ですね。今でもカッコよすぎてやばいのに、これ以上大人の色気が出てきたら、歩く女性ほいほいですよ」
「何言ってるかよくわからないけど、感謝したらいいのかな……。ありがとうミル。カッコいいって言ってくれてすごく嬉しいよ」
僕は笑顔をミルに向けながら、頭を撫でて感謝した。
「キュわぁぁ……」
ミルはボッと赤くなり、倒れかける。
僕はミルの背中を支え、しっかり立たせたあと、一緒に歩きだした。
僕とミルは一ヶ月前に作成をお願いした靴屋さんへと紳士靴を取りにやってきた。金貨一〇枚を小袋に入れ、一応何かあった時のためにもう一〇枚の金貨を持って来てある。最悪、部屋に取りに帰ればいいので気にしすぎなくてもいいはずだ。
「よ、よし。入るぞ……」
僕は木製の扉の取っ手に手をかけて引く。入店を知らせる木鈴がカランカランと鳴り、薪ストーブの温かい空気が充満していた。どうやらお爺さんは死んでいないみたいだ。
「おお、来たか! 待っとったぞ!」
お爺さんは以前よりもげっそりしており、健康状態が悪そうだった。だが、顔の悦び用は健康な人そのもの。無理をしていたのはすぐにわかった。
「お爺さん、顔色が悪いですけど、大丈夫ですか? しっかり休んだ方が……」
「この後、休むから心配せんでいい。それより、ほら。完成したぞ!」
お爺さんは漆黒な紳士靴を革袋から取り出し、見せてきた。もう、見るからに普通じゃない。何か異様な雰囲気を感じる。
「わしの人生で最高の出来だ。出来る限りを尽くした一足。そう言っても過言じゃないくらいだ!」
お爺さんは興奮が冷めないのか、とても熱い。それだけの熱量を使って作ってくれたのだと思うと凄く嬉しい。
「履いてみてもいいですか?」
「もちろんだ。足の形は以前と同じにして少し未来の形を想像して設計した。隙間が少々あるかもしれんが……、この靴なら問題ない」
僕はお爺さんから紳士靴を受け取り、靴を履き替える。指が二本分くらい空いているのだが、大丈夫なのだろうか。そう思っていたら、靴が伸縮し、歩きやすい大きさになった。
「な、なんですか……。靴が勝手に小さくなりましたよ……」
「ブラックワイバーンの革が敵意を感じて少し縮む性質を使った。履いた者の足の大きさ合うように作ったがぴったりだったようだな。革も使えば使うだけ、緩くなっていく。伸縮が弱く成れば、大人になっても履ける。完璧だろ」
「す、すごい……」
「それだけじゃない。はっ!」
「ちょ!」
お爺さんは先端がとんがった杖を靴に突き刺す。だが、全く通らない。傷一つつかず、ツルツルのままだ。
「耐久性も抜群だ。普通の刃、槍、矢では傷一つつかない。もちろん、ブラックワイバーンと同じくらい有能な素材を使った武器だと傷はつくが、足に傷が簡単に届かない。加えて革が再生するからな、傷だらけになっても次の日には元通りだ。靴底にも革を使っているから、足が傷つくこともない」
「何ですか……この靴。凄すぎますよ」
「まだまだ、魔法耐性も抜群で中級魔法、上級魔法なら無傷で相殺できる。なかなかの代物だろ~」
「す、すごすぎて言葉が出ませんよ……。僕がこんな貴重な靴を使ってもいいんでしょうか」
「ま、この素材を持ってきたのはおぬしだ。何も問題ない。思う存分使えば良い。手入れをする必要は無いが、一応一式包んでおいたから持っていくといい。愛着がわくぞ」
「いいんですか? 手入れ用品をいただいても……」
「別に構わん。わしのお古だからな。使いやすいはずだ。貴重な体験をさせてもらった。ありがとうよ」
「いえいえ。こんな素晴らしい靴を作っていたんですから感謝しないといけないのは僕です。本当にありがとうございました」
僕はお爺さんに頭を下げる。
「あ、そうだ。余った革で色々作ってみたんだが、使わんか?」
お爺さんは何やら木の板に乗せて持ってきた。
「靴を作った時に出来た切れ端で作った小物だ。嬢ちゃんに似合うんじゃないかと思ってな」
お爺さんの持ってきた木版の上には細い革を使って三つ編みのように編み込まれたマジック編みのブレスレットが五個置いてあり、とてもカッコよかった。
「これ、貰ってもいいんですか?」
「ああ、わしは着けんからな、貰ってくれ。手首につけておけば最悪、刃物を食い止めてくれる。出来るだけ普通の革に見えるよう加工をしておいたから、ブラックワイバーンの革だとバレにくいはずだ。安心して着けるといい」
「あ、ありがとうございます」
僕は五個のブレスレットを受け取った。加えて手入れ用品も受け取る。
「えっと、支払いは金貨一〇枚でしたよね」
「ああ、そうだ」
僕は金貨一〇枚が入った小袋をお爺さんに手渡した。お爺さんは袋口を開けて金貨の枚数を数える。
「うむ。しっかりと入っているようだな」
お爺さんは金貨をズボンのボケットに入れた。
「あの、少し聞いてもいいですか?」
「何だ?」
「ブラックワイバーンの革はすごく強靭な素材なんですよね。いったいどうやって加工したんですか?」
「何だ、そんなことか。答えは簡単だ、ブラックワイバーンの革も切れちまうナイフや針を使ったまでよ」
お爺さんは懐から、あまりにも綺麗な光沢を放つナイフを取り出して見せて来た。
「そ、そんなナイフがあるんですね。やっぱり上には上があるものなんですね」
「そりゃあそうだ。ま、このナイフを作ってもらったのはうんと昔の話だ。わしが師匠から認められ、一人前の靴職人になった時、当時名を轟かせていた鍛冶師に作ってもらったんだ。使い始めて六○年経っても切れ味が落ちやしない。怖いくらいだ」
「す、すごい……。その鍛冶師はどこにいるんですか?」
「さあな。消息不明なんだ。当時は王都に鍛冶場があってな、だが、わしがルフス領に戻る時にはもうなくなっていた。忽然と姿を消したんだ。いったいどこに行ったのやら……。この針も同じ鍛冶師に作ってもらった一品だ。何にでも刺さりやがる。何度指を貫通したかわからん」
銀の光沢を放つ針をお爺さんは見せてきた。
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