異色のギルド
「凄くカッコいいよ。僕にはミルの動きみたいな軽業は出来ない。敵から逃げる時とかに使えたらいいね」
「敵を倒すときに無駄な動きにならないよう、受け身も考えたんです。キースさん。攻撃してください!」
ミルが近寄ってきて攻撃の的になった。
「じゃ、じゃあ。ちょっと蹴るよ」
「はい。思いっきり蹴ってもらっても大丈夫ですよ」
「いや、思いっきりは流石に気が引けるよ」
ミルは少し飛び跳ねながら、攻撃を受ける準備をしている。僕は少し助走をつけて、回し蹴りをミルに放つ。
『ふっつ!』
『はっ!』
僕の蹴りをミルは腕で受け、体が軽いので弾き飛ぶ。地上から三メートルほどの位置でクルクルと回り、力を分散させたあと、土を巻き上げながらズザザッと着地する。
「どうですか! ぼくもなかなか動けるようになってきたんじゃないでしょうか!」
ミルは自分の動きに自信がついてきたのか、はたまた、すごく動けるようになって体を動かすのが楽しいのかわからないが、確実に強くなっている。
敵をすぐさま見つける危機感知に、反射神経、身軽さ、僕の攻撃を受けても耐える肉体。ミルはすでに並の冒険者よりも強いのではないだろうか。
「ミル、もう普通の冒険者さんよりも強くなっちゃったね。僕の指導ももう必要ないんじゃないかな?」
「いえ! ぼくはまだ、キースさんの隣に立てるだけ強くありません。ぼくはキースさんの隣に立てる存在になりたいんです。なので、これからもご指導のほどよろしくお願いします」
ミルは僕に頭を下げてきた。僕に褒められてすごく嬉しそうだ。だが、少しの油断が冒険中は危険なのだ。
「キュッツ!」
ミルのすぐ近くで身を隠していたホーンラビットが飛び出した。
僕はすぐさま飛び出し、ミルを庇う。すると僕の太ももにホーンラビットの鋭くとがった角が突き刺さる。激痛が走り、血が流れだす。左腕に付けているダガーナイフを右手で引き抜いてホーンラビットの首を掻っ捌いた。
「ご、ごめんなさい。キースさん。ぼくが油断していたから……」
「ミル、強くなってきた時が一番危ないんだ。自分の力を過信しすぎるのは良くない。これだけ近い敵なら、耳でとらえられたはずだよ。油断しすぎないように気をつけて」
「は、はい! って、キースさんの脚から凄い血が出てます! ほ、包帯、包帯!」
ミルはウェストポーチから包帯を取り出し、僕の脚の付け根を縄で縛る。血を塞き止めた後、深く突き刺さったホーンラビットの角を引き抜き、傷口にポーションを掛けてから包帯を巻いた。
「ありがとうミル。応急処置も上手くなったね」
「キースさんの役に少しでも立てるように、頑張って勉強してますから」
最近ミルは勉強を始めた。
体の方は仕上がってきているので、次は頭の方を鍛えたいらしい。
プルウィウス王国の言語は主にプルウィウス語が主流だ。また獣族達の使うビースト語やルークス連邦のルークス語などを使う領土もあり、結構多種多様。
各領土で訛りや方言があり、プルウィウス語ですらわからない地域があると言う。
だが、書きの場合はほぼプルウィウス語で通じるので、書けて読めた方がいい。
ミルはビースト語の読み書きは完璧に出来る。プルウィウス語は話せるものの書いて読むことはできない。加えて四則演算も出来ない。
僕は心優しいスージア兄さんのおかげで読み書きと四則演算が出来るようになった。今度は僕が教える番だと思い、ミルに教えている。
最近は冒険者の手引きを読み漁り、魔物の知識や怪我の処置方法などを調べるようになった。ミルなりに僕のためを思ってやってくれていると思うと凄く嬉しい。
僕は傷の治りがあまりにも速いので、包帯を巻いてからものの一分で完治していると思うが、ミルがせっかく撒いてくれた包帯なので、このままでいようと思う。
「よし、暗くなってきたし、そろそろ帰ろうか」
「はい」
僕とミルは荷台を引き、ルフス領まで走って帰る。馬がいたら便利だと思うが、馬を置いて置ける場所が無いので買っていない。馬がいなくても何ら問題ないので、買っていないと言うのもある。
僕とミルはルフス領の門に到着し、ギルドカード(仮)を見せてルフスギルドに向った。ルフスギルドに到着すると、異色な冒険者さん達がわんさか湧いていた。よく見ると青髪の冒険者であるマレインと『一閃の光』のメンバーであるマルトさんとチルノさん、セキさんの三人、その他大勢の冒険者さんがルフスギルドに訪れていた。
病院から退院したのだと思うが、髪色が色とりどりで少々圧倒される。
「キースさん、裏に早く回りましょう。あんな男は見たくもありません」
ミルはマレインを睨み、嫌な思いがぶり返したのか、裏庭にさっさと移動した。僕もミルを追いかけて裏庭に移動する。
ホーンラビットの素材を提出し、お金を貰った後、受付さんに聞いてみた。
「何で他の領土の冒険者さんが、ルフスギルドの本部に集まっているんですか?」
「ブラックワイバーンを倒したのは誰かと聴きに来ているんですよ。自分たちも戦ったのだから分け前が欲しいそうです。情けない人達ですね。冒険者は途中で降りたら他の人に手柄を取られても文句は言えません。彼らは負けたのにも拘わらず報酬をもらいたがり、冒険者の規則まで破ろうとしているんですよ。死なないように助けてもらっておきながらずうずうしい奴らです」
マゼンタ色の髪をした女性は怒っていた。ルフス領の人々は血の気が多い代わりに正義感も強い。曲がったことは嫌いと言った特徴がある。なので文句を言っている冒険者さんの中にルフス領の冒険者はいなかった。
まぁ『一閃の光』さん達の声は助けてくれた相手に会いたいくらいの話だったので悪い人達ではないと思う。逆に青髪のマレインは自分の失敗を仲間のせいにして、叫んでいた。目も当てられず、仲間たちの顔も黒くなっていた。
ミルは舌をベーっと出し、これでもかと言うくらい嫌っていた。少しすると僕にくっ付いてきて、尻尾を振る。温冷の差が激しすぎる……。と思いながら、ミルが僕に向ける表情が可愛い。
ルフスギルドの受付さん達は猛烈な勢いで他の領の冒険者さん達に叫び散らかしている。きっと僕達のことを口走る人は誰一人いないはずだ。
僕とミルは手を繋ぎながらアイクさんのお店に帰る。
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