ブランカさんを助けた黒髪
「あなたの気持ちを踏みにじるような真似をしてしまった」
白服はフードを取り、見覚えのある顔を出して僕に深くお辞儀した。
「えっと、別に怪我しなかったので、気にしないでください」
「そう言ってもらえると助かる」
――それにしても。近くで見ると思っていたよりもずっと小さいな。一四五センチメートルくらいか。それにしては顔が大人っぽい。それでも、どこか子供っぽさが抜けてない。変わった人だ。
「えっと、そうだな。まず自己紹介からか。私の名前は、ブランカ・ニウェウスだ。よろしくたのむ」
ブランカさんは剣を鞘に納め、右手を差し出してきた。
「僕の名前はキース・ドラグニティと言います。よろしくお願いします」
僕は差し出された右手に自身の右手を差し出し、握手した。
身長と同じで僕の手よりも明らかに小さい。この手で僕は抑え込まれてたのか。いったいどこにそんな力があるんだろう。
「あの、聞いてもいいですか……?」
「何をだ?」
「ブランカさんたちはいったい、どういった集団なんですか。ただ白服が好きな人たちじゃないですよね」
「そうだな、私達は教会から子供たちを攫っている集団だ」
「え……。教会から子供達を攫っているんですか」
「そうだ。それだけ聞くと悪名高いが、実際は違う。私達は教会が抱えきれなくなった子供達を攫っているんだ」
「抱え込めなくなった子供……」
「孤児を引き取るのは教会にも限界がある。限界を超えれば、それ以上の子供を受け入れられない。だから成人になりかけの子供や、意志の強い子供を攫っている。攫うと言うよりも勧誘するの方が正しいかもしれないな」
「勧誘ですか……」
「私たちは旅しながら教会を回り生活している。数ヶ月前に立ち寄ったこの教会はほぼ廃れていたから私たちで修復したんだ」
「そうなんですか。それじゃあ……どうして列車なんて襲ったんですか」
ブランカさんは言葉を詰まらせる。
「仕方なかったんです。どうしてもお金が必要だったんですよ! あのままだったら私達、餓死してました!」
ブランカさんの後ろから女の子が飛び出してきて、叫んだ。
「餓死ですか」
「あの時、有り金を盗まれて食べ物を食べられない日が続いていた。死の淵だったとはいえ他人を害する行為を取ってしまったのは私の責任だ。私が許可してしまったばかりに多くの仲間を死なせてしまった」
ブランカさんは本当に悔しそうな顔をしていた。
きっとこの場にフレイがいたら噛みついて死んでも放さないだろう。
「多くの仲間と罪もない人を殺した赤色の勇者は一生許さない。だが、それ以上にあの惨劇を起こしてしまった私自身を許せないのだ。すべてを話して自首しようと考えたが、昨日の事件は事故として処理されていた。私はどうしたらいいか分からず、ここに戻ってきてしまった。そこにキースさんがいたのだ」
「そうだったんですか。でも、ブランカさんのするべきことは決まっていますよ」
ブランカさんは僕の話を聞き、顎をあげる。
「今までやってきた子供たちを保護する旅を続けるんです。死んでしまった子供たちの為にもブランカさんはやり抜かなければならないと思います。それが、今、出来るブランカさんの償いになるんじゃないでしょうか」
僕は思ったままを口にした。ブランカさんを助けようとも、励まそうとも思っていない。ただ、そう思ったから言葉にしただけだ。
実際、ブランカさんは罪を犯した。
ブランカさんにとって、きっとその罪はとても重いだろう。それでも、生きているのならば償わなければならない。
自分を許せる日が来るまで。そんな日は一生来ないかもしれないが、その日が来るまで常に罪を背負いながら生きていくしかない。
「そう……だな。キースさんの言うとおりだ。私も命を救われた身。黒髪の彼がいなければ私は今ここにいない。後ろにいる皆もそうだ。私に力がなかったばかりに仲間を死なせ、奴隷の人生を送るところだった」
「く、黒髪の彼?」
「信じられないかもしれないが、黒髪の人間がいたんだ。私は助けてくれた彼にお礼を言いたい。私を助けたあと、勇者とどうなったのか分からない。だが黒髪の彼なら……どこかで生きてる。そんな気がするのだ」
――ど、どうしよう。ブランカさん、黒髪がいるって信じている。ここは正直に『僕が貴方を助けました』とカッコつけて言うべきなのか。いやいや、それはさすがにカッコ悪すぎる。
僕はもう黒髪にはならない。ブランカさんの生きている理由の一つが黒髪の僕にお礼を言いたいというものなら僕が真実を言わない限り絶対に叶わない。
そうすれば、ブランカさんが再度死の淵に立っても『黒髪にお礼を言っていないから死ねない』と奮起してくれるはずだ。ここは黙っておこう。
「く、黒髪ですか……。そんな凄い人がいたんですか。初めて知りました。えっと、カッコよかったですか?」
――僕は何を言ってんだよ。別にカッコよさなんて求めていないだろ。感謝されただけで十分じゃないか。
「ああ……とてもカッコよかった。彼こそ、本物の勇者だと思う。きっと彼はこの世界を救ってくれる救世主なのだろう。そんな彼に助けられたのだ。私は簡単に死んでいいはずがない。彼の行為を見習い、私自身がこの身をささげる覚悟で活動を続けると今、決めた」
――う……。ブランカさん、ごめんなさい。僕はそんな大層な人間じゃないんです。ほんとは白髪で三原色の魔力無し人間なんです。
ブランカさんの中の僕はいつまでも彼女の中で力を湧き立たせる原動力になってくれるはずだ。実際の僕が強くなくても、何ら問題ない。強く生きてください、ブランカさん。黒髪の僕は常に心の中で応援していますから。
「すまない、長々と話してしまった。キースさんは教会の掃除をしに来たのだよな。申し訳ないが、報酬を払う余裕が今の私達にはない。だから、お引き取りを……」
ブランカさんはローブから小さな袋を取り出し、俯きながら袋の口を開ける。
中には何もはいっていなかった。
「え? 何を言っているんですか。僕も掃除を手伝います。教会の修復はまだ終わっていないんですよね」
「だが、報酬が払えないと……」
「お金は要りません。僕は掃除がしたいからするんです。こう見えて掃除が結構得意なんですよ」
「そ……それじゃあ、よろしく頼む」
ブランカさんは頭を深々と下げた。
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