教会で誓い合うと幸せでいられる
――そうだ。今は泣いている場合じゃない。シトラを助けるためには僕がしっかりしないと。
僕はミルに引っ張られながら聖誕祭が盛んな教会付近へとやってきた。
周りの人たちは寒い中、綺麗なドレスや衣装を身にまとい、木々に飾りつけされた煌びやかな布やぬいぐるみなどがとても美しかった。
僕とミルはルフス領の街を歩く。デートと言うにはほぼ歩いているだけなので、散歩と言ったほうがいいかもしれない。ただ、時間を忘れ、ずっと歩いていた。
ミルは常時喋り、僕は聞く側に徹する。たまに話の返しを行っていると、会話が途切れない。ミルが話したがりなのか、気持が乗ると止まらないようだ。
「にしても、本当に今日は元気な人たちが多いね」
「そうですね。やっぱり楽しいと心も晴れやかになるから、楽しそうにしているんですよ」
ミルは僕の手をブンブンと振って脚を高く上げながら歩く。
ルフス領は七つの領土の中で一番活気が無いと言われていたのに、聖誕祭の盛上りようを見たら、嘘に感じてしまう。それくらい、皆の顔が嬉しそうだった。
「キースさん! 教会でお祈りしていきましょう! きっといいことが起りますよ!」
「はは、そうだね。行こうか」
僕とミルが手を繋いで白色が特徴の建物に向っていく。その途中で多くの人達が僕達の方を見てくるので、いい気はしない。ミルも人に見られるのはあまり好きではないので、萎縮していた。それでも、笑顔を崩さず、僕の手を引く。絶対に無理させてしまっているなと思い、僕はミルを引き寄せて肩を抱くようにして歩いた。
「き、キースさん……」
「ごめん、ミル。気を使わせちゃったよね。ミルも人に見られるのは嫌だと思うし、こうやって歩いたほうが、視線を半分に出来るでしょ。あと、近づいたほうが温かい」
「キュぅ……。ち、近すぎるのも心臓に悪いです……」
ミルは視線を下に向け、僕から顔を背ける。僕は少し微笑んで教会の中に入っていた。
教会の中ではルフス領の人々が両手を合わせ、神に祈りを捧げている。神父が聖典を読み、音楽隊の人達が綺麗な音を奏でている。中央の通路は開いており、女神の像に祈れるようになっている。ただ、人の数がすごく多いので時間が少々掛かりそうだ。
「キースさん、ちょっと……」
ミルが僕の腕を下に引っ張り、耳元で囁く。
「どうしたの?」
「聖誕祭の時に愛を一緒に誓いあうと末永く幸せでいられるそうですよ」
「へ、へぇ……。そうなんだ……。だから、祈ったあとにキスをする人達が多いんだね……」
「キースさんもぼくの唇にキスしてもいいですよ。ま、そんなことしなくても、ぼくはキースさんにメロメロなので離れる気なんて無いですけどね」
ミルは僕の方をちらちらと見ながら言ってくる。
ミルは未成年なので手を出すつもりはない。ただ愛を誓いあうと末永く幸せでいられるのならすごく嬉しくはある……。
僕が葛藤していると、僕達の番があっという間に来てしまった。
僕とミルは並び、女神の像に両手を合わせて祈る。
――僕の周りにいる人達が幸せになりますように……。
――キースさんが幸せになりますように……。で、出来れば、キースさんの子供を産めますように。あとあと、いっぱいチュッチュできますように。それから、キースさんに愛してるって言われますように!
僕とミルは祈り、眼を開ける。周りの人たちはなぜか僕達を見て固唾をのんで見守っていた。何でだろう。別に他の人の時は見ていなかったのに……。
僕は周りの人から同調圧力をかけられ、ミルの方を向き、肩を持つ羽目になる。
ミルは眼を潤わせ、とんでもなく可愛らしい。艶やかな髪、すべすべモチモチの肌、綺麗な瞳、ピンク色の唇……。
ミルは眼を瞑り、僕に身をゆだねている。僕も雰囲気にのまれ、唇をミルの唇に近づけてしまう。
教会の周りから、大きな爆発音がしてスタンドガラスが多くの光の筋を伸ばす。花火だと思うが、この音のおかげで僕は正気に戻り、あと数ミリのところで止まり、ミルの頬にキスをした。
「今はこれで……許して」
「むぅ……。仕方ないですね」
ミルは僕の頬にお返しと言わんばかりにブチュ~っとキスをして、キスマークがついてしまったのではないかと思うくらい、強いキスをされた。
「今はこれで勘弁してあげます。でも、キースさんにキスしてもらってぼく、すごく嬉しいです。周りの音が無ければもしかしたらって思いましたけど、運悪く花火の音と被ってしまいました」
「ほんと危なかったよ。もう少しで唇にキスしそうになった」
「してくれてもよかったのに~。ま、キースさんの律儀なところも大好きなので、ぼくとしてはドキドキできて最高の時間でした」
ミルはニシシと笑い、僕のキスした右頬を手で押さえ、嬉しそうにしている。
僕もミルにキスされた左頬を手で押さえて摩る。
僕達は手を繋ぎ、教会を出ると花火が未だに上がっており、空に大量の火の花が咲いていた。
時刻は午後五時ぐらいですでに夜になっていたのでとても綺麗だった。
光がミルを照らし、いくつもの色を反射してとても綺麗だった。潤った瞳に光りが入ると虹色に見えて僕の眼に似ている。
「キースさん……、そんなに見つめられると照れちゃいます……」
「ごめん。ミルの眼が綺麗だったからさ、見とれてたよ……。ミルの眼も虹色っぽく見えるんだね。僕と同じでちょっと嬉しいよ」
「そうなんですか? 普段は黄色っぽい眼をしてると思うんですけど、今はキースさんと同じ虹色なんですね。ぼくも嬉しいです!」
ミルはとびっきりの笑顔を見せてきた。僕もつられて笑う。
外は寒いが、人々の熱気は寒さを打ち消すほど燃えており、どこもかしこも煌びやかだ。
聖誕祭はどの領土でも同じように行われ、祝われる。
どういった祭りなのかと言うと、プルウィウス王国の初代王の誕生日にちなんで、全領土でお祝いしていたのが始まりだと言われている。まあ、簡単に行ったら凄い人の誕生日を一緒に祝おいうと言う祭りだ。
僕とミルは手を繋いで歩き、アイクさんのお店まで戻る。あまりに至るところでイチャイチャしているので居心地が悪かったのだ。
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