燃やされた贈物
病院を出たあと、僕達は走って領主邸にまで向かった。距離が結構離れていたが、僕とミルにとっては散歩程度の移動だったので馬車代を浮かせられた。
「ここが領主邸ですか……。ぼくはここに来るの何気に初めてかもしれません」
ミルは領主邸の前にやってきて目を見開いている。
「僕は何度も来てるけど、まだ一度も中に入れてもらっていないんだ。ルフス領に住んでいるという証明書が必要らしいんだけど、僕は王都出身だから、もっていないだ」
「ぼ、ぼくもルフス領外の森で生まれたので多分持ってません。それじゃあ、どうやってシトラさんに会うんですか? シトラさんは領主さんに購入されたんですよね?」
「うん。今のところ合い方としては領主が出してくる理不尽なお題をこなしているんだ。何個あるかも教えてくれないし、ずっと同じようにいちゃもんを付けられるかもしれない。でも僕は諦めない。領主邸にいるシトラを取り返す」
「じゃあ、ブラックワイバーンが必要だったのも、領主さんのお題だったんですか?」
「まぁ、少し違うけど、大体そんな感じ。ブラックワイバーンの革を使った靴が必要だったんだ。でも、今日はまだもらっていないから、入れてはもらえないけど、どうせなら聖誕祭の時に渡したい」
僕は赤い包装紙と緑色のリボンで綺麗に包んだ紙箱を手に持つ。
「うぅ。いいな~。ぼくもキースさんの手から渡してほしかったです~」
「え?」
「あ、い、いえ……。何でもないです。神様からの贈り物、すっごく嬉しかったですよ」
「そ、そう……。よかったね」
僕はミルとの会話にギクシャクしながらも、今日も以前と同様に領主邸の入り口に立っている長身の男性のもとに向かう。
「こんにちは。聖誕祭、盛り上がっていますね」
「これはこれは。キースさんじゃありませんか。加えて最近親密であらせられる金髪のミルさん。今日はどういったご用件で」
「な……。どうしてミルが金髪だって……。誰にも言っていないのに」
「おっと、そうでしたか。ですが、ミルさんの髪を見れば一目瞭然ではありませんか。一般人にはイエローに見えるかもしれませんが、私から見ればどう見ても金髪です。輝きが違いますもんね。まさか、白髪と金髪が合わさるとは思ってもみませんでした」
「今日はずいぶんと丁寧な口調ですね。まるで僕達を歓迎しているみたいじゃないですか」
「今日は聖誕祭でございます。どの色も分け隔てなく仲良く過ごせばいいではありませんか。無能なキースさん」
「その言葉まで……。いったいどれだけ調べているんですか?」
「いえいえ、深くまで調べていませんよ。家の中にいる銀髪の獣族が言っていたんです。家では何もできず、本当に無能だったと……ね」
「そ、そうかもしれない。でも今は違う。シトラに助けてもらっていた僕じゃない。今なら、シトラを助けてやれる。それだけの力を自ら手にしたんだ」
「ほぉ……、言うようになりましたね。前々回とは表情が違います。自信が付いた証拠でしょうか。それとも、男をあげたのでしょうか」
長身の男性はミルの方を見て呟く。
「あなたには関係ありません。どうせ、今、シトラに合わせてくれと言っても無理なのでしょう」
「その通りでございます。例えブラックワイバーンを倒したあなたでも、今はここを通すわけにはいきません」
「やっぱり……。ブラックワイバーンの件も知っているんですね。ほんと、何でも筒抜けのようですけど、僕はシトラを必ず取り戻します」
「そうですか。頑張ってくださいね。して、今日はそのような愚痴を言いに来ただけですか? 私も暇ではないんですけどね」
「今日はシトラにこれを渡して欲しくてここまで来ました」
僕は手に持っている真っ赤なルビーの付いたブローチが入った赤い箱をマゼンタ色の髪をした男性に渡す。
「これは?」
「シトラへの贈り物です。今日は聖誕祭なので、渡してください」
「…………」
男性は赤い箱をじっと見つめ、僕に聞いてくる。
「中身を確認しますがよろしいですか。何か危険物が入っているかもしれません」
「シトラに渡してくれるのなら、開けてもいいですよ」
「…………」
男性は僕の渡した赤い箱を握り潰し、炎で燃やした。
「あ!」
ミルが叫ぶ。
「なにしてくれちゃってるんですか! キースさんがシトラさんのためにせっかく選んだ品なのに! どうせ燃やすのなら、ぼくにくださいよ!」
「ミル、静かにして」
僕はミルの腕を持って止める。
「で、でも……。シトラさんのために用意した贈物なのに……」
「いいんだ。うすうすこうなると思ってた。手紙とかも贈れないから、贈物なんてもっと無理だよ」
「その通りです。贈物はお渡しできません。お引き取りください」
「じゃあ、一言だけ伝えてください」
「すれ違い際にでもお伝えしましょう。領主様の耳に入れてからですけどね」
「どれだけ時間が掛かっても必ず助け出す。そう伝えてください」
「わかりました。配慮しましょう」
男性は小さく会釈して、答える。以前よりも話を少々聞いてくれるみたいだ。
「今日はこのくらいで帰ります。また二週間後に顔を出しますから」
「そうですか、気をつけてお帰りください」
ぶっきらぼうな言い方が腹立たしいが、仕方ない。僕は今にも噛みつきそうなミルをなだめ、領主邸の前を離れる。
「何ですかあの人! キースさんの贈り物を握りつぶしたあげく、燃やしましたよ! 許せません!」
「まぁまぁ、あの人もやりたくてやっている訳じゃないと思う。領主の命令だから、仕方なくやっているんだよ」
「だからって……。シトラさんへの贈り物が燃やされたんですよ。悲しくないんですか?」
「そりゃあ、悲しいよ。でも、悲しんでいても仕方がない。時間は待ってくれないんだ。出来る努力をしていれば、いつか領主も屋敷の中に入れてくれる時が来る。そう信じて僕は命令を聞くしかない」
「じゃあ、ぼくもキースさんと一緒にシトラさんを助け出す手伝いをします。いつもお世話になっているキースさんの大切な方を助ける手助けが出来るなんて光栄の極みです」
「ありがとう、ミル。そう言ってくれるのは嬉しいけど、この問題は僕の問題だから、手助けは必要ないよ。ミルはミルの人生を生きればいいさ」
「ぼくの人生はキースさんと共にあります。じゃあ、ぼくはシトラさんを助けるキースさんの手助けをします。これならいいですよね!」
「ま、まぁ。それなら……」
「ありがとうございます! なら、落ち込んでいるキースさんの気持ちを盛り上げるのがぼくの手助けの一つですね! さ、聖誕祭を回りましょう!」
ミルは僕の手を掴み、走り出す。ミルの手は小さいのにとても力強く僕の手を引いた。
僕は少々泣きたい気持ちを堪えていたのだが、ミルの笑顔を見たら僕の方も笑顔になってしまい、涙が引く。
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