顔の火傷
「皆さん。大丈夫です! 皆さんには仲間がいるじゃないですか! ぼくには誰もいませんでした。もう、奴隷に落ちる寸前、死ぬ間近でしたけど、キースさんに助けられて今ここにいます。どん底を見て来たので言えますけど、皆さんはまだまだ挽回できますよ!」
ミルは渾身の笑顔を皆さんにふりまき、どんよりした空気を清らかに変える。日の明りを反射させる金髪がキラキラと光り、とても神々しい。
「み、ミルちゃん……」
「女神様……」
「猫神……」
「キラキラ……」
僕はミルの頭に手を置いてよしよしと撫でる。加えて気持ちだけではどうしようもない部分もあると皆さんに言わなければならない。
「えっと、トーチさんみたく火傷の後遺症で体の動きが悪いと言う人はどのくらいいますか?」
僕が皆さんに質問すると、全員が手をあげた。やはり火傷の後遺症が冒険者を続けるのに足かせとなってしまうようだ。
僕はミルの背中の傷を治したときのように皆さんの火傷も治せないか、試してみた。
「皆さん、今から皆さんの傷を治せないか試してみます。傷を見せてください」
「え?」×『赤光のルベウス』
「傷のあるところは全部見せた方がいいですよ。キースさんなら治せるかもしれません。ここで恥ずかしがったらもったいないです。火傷痕が残っていたら辛いと思いますし、恥ずかしさを我慢して、全部さらけ出してください!」
ミルは意気揚々と説明する。だが、普通の場合、火傷痕を見せるなんて嫌に決まっている。なので皆さんは遠慮していたのだが、ロミアさんは顔の包帯を外していった。
「き、キース君。顔でも治るのかな……」
「やってみないと何とも。でも、効果はあると思います」
「じゃあ、お願い。私の顔をもとに戻してほしい。体の方はフレイとそう言う関係になった時に治してもらうよ」
「わかりました」
――やっぱり、ロミアさんはフレイに燃やされた記憶を失っている。いつの間にか記憶が抜け落ちている。フレイが大好きなロミアさんですら、記憶から消えているなんて、やっぱり誰かが消したんだ。
僕はロミアさんの爛れた顔に手を添える。すると……ロミアさんの顔に光りが集まり、弾ける。
「なっ!」×トーチさん、マイアさん、フランさん。
「ふぅ……。成功です。やっぱり僕の手には何かしらの力が働いているみたいですね」
ロミアさんの爛れていた顔は元通りになっていた。頭の片隅に声が聞こえた気がするが、小さすぎてよく聞き取れなかった。
「え……。な、治ったの……。う、嘘……。ほ、ほんとに……」
ロミアさんは顔に手を添える。しわしわだった肌がもとの張りを取り戻し、目尻から溢れんばかりの涙を流していた。
「はい、ロミアさん。手鏡です。綺麗に治ってますよ」
ミルはロミアさんに手鏡を渡し、元通りに戻った顔を見させる。
「ほ、ほんとだ……。ほんとに戻ってる……。もう、緑色魔法でも治せないって言われたのに……。う、うぅ……。うわぁ~んっ! キース君、ありがとう!」
「ふぐっ!」
ロミアさんはすごく喜んでくれて僕の手を引っ張り、大きな谷間に顔を埋めさせるようにして抱き着いてきた。
「ちょ! ロミアさん! 大きな胸を主張するのはずるいです!」
ミルは僕とロミアさんをすぐさま引きはがし、ロミアさんに怒っていた。
「キース君! 私もお願い!」
「私もお願いします!」
「わ、私もお願いするっす!」
「わかりました。でも、このことは内密にお願いしますね。他の人を治しているほど、時間の余裕はないので」
「わ、わかった」×トーチさん、マイアさん、フランさん。
僕は他の三人も後遺症になっている部分の傷を治し、冒険者に復帰できるだけの気持ちを湧き立たせる。
「うわぁ~んっ! ありがとう、キース君! これでお嫁に行けるよぉ~!」×四人
四人は冒険者に復帰できないと言う言葉の裏腹に、結婚できないと言う辛い現実があったらしく、後者が解消されたので、自然とやる気も湧き上がって来たみたいだ。
「皆さんの体に傷があったとしても、僕は気にしませんけどね」
「そ、そんなことが言えるのはキース君のすぐ近くにミルちゃんがいるからだよ」
「うん、うん……」×マイア、フラン、ロミア
トーチさんが呟くと他の三人は頭を縦に動かす。
「キースさんはぼくの体がガリガリで泥まみれに加えて臭くて背中にあり得ないくらいの傷がついていた時でも変わらず優しく接してくれました。なのでぼくがいるかいないかなんて関係ありません。キースさんは素でカッコいいんです」
ミルは大きな声で言い気った。
「ミル、別にそんなことをわざわざ言わなくても……」
「いえ、ぼくはキースさんがどれだけいい人なのかを知ってもらわないと気が済まないんです! ぼくの人生をかけてお仕えする主様なんですもん!」
「はは……。ありがとう、ミル。別に言わなくても優しさは伝わるものだよ。ミルの優しさだって十分伝わってるから、気にしないで」
僕はミルの頭を撫で、頬、顎下と言うふうに撫でる場所を変える。
「はわわ……。き、キースさん、人前ですよぉ……。ぼ、ぼくぅ……、人前なのにキースさんに撫でられて尻尾振っちゃいますぅ……」
ミルは尻尾と一緒にお尻も振って気持ちよさそうにしていた。周りの四人は顔を赤くして絶妙に見ていた。
「じゃあ皆さんも、聖誕祭を楽しんでくださいね。あと、病院を退院したらアイクさんのお店に顔を出してください。アイクさんも心配していたので」
「うん。もちろんそうさせてもらうよ。また、お礼もしないといけないし、お金も稼がないと。私達はゼロから始めるつもりでもう一度頑張るよ」
トーチさんは両手を握りしめてやる気を見せていた。どうやら元気になってくれたみたいだ。皆さんの凛々しい顏がカッコよく、勇気を貰えた。
僕は皆さんのぶんも頑張って働こうと思う。
「ミル、行こうか」
「は、はぁ~い」
「ミル、なんでそんなに蕩けてるの?」
「き、キースさんのせいですからね……。今日は、ぼくを蕩けさせちゃった責任をちゃんと取ってくださいよぉ~」
ミルは僕の腕に抱き着いて上目遣いで呟く。
「一年後ね」
「うぅ……。キースさんのいじわる……」
僕はミルの手を取って病室を出た。
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