聖誕祭の日にお見舞いに行く
「唇……かな。昨日よりも潤って綺麗になってる」
「そ、それは朝のベーコンの油かと……」
――間違えた。どうしよう、凄く恥ずかしい。
「キースさん。ぼくの唇を見てたんですね……。なに、意識してるんですか……」
「い、いや……、してないよ。全然してない」
僕は頭を横に振る。
「ふぅ~ん、全然していないんですか。それはそれで……泣いちゃいそうです。キースさんにならファーストキスをいつでもあげられるのに~」
「ほんと、恥ずかしげもなくスラスラと……。えっとミルは昨日と何が変わっているの?」
「まつげが昨日よりも少し上を向いています。昨日よりも目がぱっちりして見えませんか?」
ミルは瞼をパチパチと動かし、僕に見せてくる。
「わ、わからん……。けど、よくよく見たらそう思ってきたかも……」
僕はミルに合わせ、変わったと言っておく。実際は違いが全くわからないので何といえばいいのか迷い、わかったふりをしておいた。
僕とミルは美容室に向った。一カ月半ほど髪を切っていないので結構伸びている。
「やっぱり凄い……。髪型が変わるだけで見え方が全然違います!」
ミルは前と同じくフワフワな髪型にしてもらっていた。僕も髪を整えでもらい、前髪をかきあげてワックスで固めてもらう。
「はわわ……。き、キースさんが……いつも以上にカッコよすぎるうぅ……」
「はは……。ありがとう、ミルも可愛いよ」
「キュ~~ン」
ミルの顔が初初しく赤くなり、頭から湯気が出そうなくらい熱っていた。
僕は美容師さんに金貨二枚を払い、ミルの手を取って聖誕祭でにぎわっている繁華街を歩く。贈物は持っているが菓子折りを持っていなかったのでフルーツでも持って行こうと思う。
「き、キースさん。なんかすごく見られている気がするんですけど……」
ミルはあたりを見渡し、僕に話かけて来た。
「え? そうなの。なら、僕じゃなくてミルの方を見てるんだよ。僕はすごく影が薄いからさ」
「い、いや。キースさんがカッコよすぎるだけだと思うんですが……」
「そんなに褒めても何も出ないよ。あ、これいいね。金貨一枚で果実が結構入ってる。これなら、皆さん喜んでくれそうだ」
僕は菓子折りを買い『赤光のルベウス』さん達の入院している病院にやってきた。ちょくちょく見舞いに来るので、皆さんがどのような様態なのかは既に分かっている。
病室の前にやってきて扉を三回叩き、名前を言う。
「キースです。入ってもいいですか?」
「き、キース君……。ど、どうぞ~」
中から返事が返ってきたので僕は扉を開ける。
「皆さん、体調の方はどうですか? 冒険者にもうそろそろ復帰できそうですかね?」
「き、キース君……。いつにもましてカッコよさがやばいね……」
「トーチさん。お世辞でも嬉しいです。ありがとうございます」
僕は腕に包帯を巻いているトーチさんに頭を下げる。
「何で来るたび来るたび、カッコよさが増しているんでしょうか……。今回も大人っぽ過ぎて、なんかもう凄い……」
マイアさんは眼を細め、視線をチラチラと合わせてくる。
「人の印象ってすごく変わるんすね……。子供だと思っていたキース君が馬鹿みたいに大人っぽく見えるっす。と言うか、ミルちゃんも可愛すぎっす……」
フランさんは体に包帯を巻いており、笑いながら喋る。
「き、キース君。今日はどうしたの? 何かあったの?」
ロミアさんは顔に包帯を巻いた状態で僕に話しかける。様態が一番重かったロミアさんだが、傷は治りかけていた。最近意識を取り戻したらしく、気づいたら冬になっていて驚いたんだとか。
「今日は皆さんに贈物をと思いまして。せっかくの聖誕祭ですし、皆さんで楽しく一杯やってください」
僕は一番動けるトーチさんに葡萄酒とチーズの入った箱を渡す、グラスはミルが木箱に入れて持って来てくれた。果実の入った木箱も起き、皆さんに切り分ける。
「うぅ……。キース君、イケメンすぎる……。加えて隣にいる子が美少女すぎる」
「ミルちゃんが羨ましすぎる……。もっと早くから唾をつけておけばよかったです……」
「ま~、キース君は誰にでも優しいっすから、ミルちゃんに捕まってくれてよかったっす。ミルちゃんが悪い虫を叩き落としてくれそうっすから」
「うんうん。ミルちゃん、キース君のことが大好きだもんね~。すごくお似合いだよ~」
「み、皆さん。そ、そんな目で見ないでください……。恥ずかしいです」
ミルは皆さんの視線を受け、恥ずかしそうにしていた。僕は複雑な気分だが、皆さんが喜んでくれてよかった。
「ん? ムムム……。ミルちゃん。首についてるネックレスを……ちょっと見せて」
トーチさんはミルの首に掛かっているネックレスに気付き、触ってまじまじと見ていた。
「こ、これ……。本物だよ。本物のプラチナのネックレスだよ……。ミルちゃん、こんな高級な品、どうやって手に入れたの?」
「えっと……。神様の贈り物です。今朝枕元に置いてあって……」
「神様」
トーチさんは僕の方をなぜか見て、やりやがったなこいつと言わんばかりの視線を送ってくる。確かに高かったが、自分で稼いだお金で買ったのだから文句はないはずだ。
「ミルちゃんがプラチナのネックレスを付けてたら映えますね。可愛さが何倍にも膨れ上がっていますよ」
「も、もう。マイアさん。そんな、ぼくはまだまだですよ」
「にしてもキース君、ルフスギルドの方がいきなり羽振りが良くなったのはブラックワイバーンが討伐されたからであってるんすか?」
フランさんは僕にお金の面を聞いてきた。
「そうみたいですよ。物凄い価格になってルフス領の借金がすべて返済できるくらいだそうです。今回の聖誕祭も盛大に行われていますし、皆さんも怪我を早く治して冒険者に復帰してください。今が稼ぎ時ですよ」
「そ、そうだね。私達も稼がないとな~。あはは……」
ロミアさんは少々暗い声で笑った。皆さんも先ほどよりどんよりとしている。いったいどうしたんだろうか。
「皆さん、どうかしたんですか?」
「い、いや……。その。火傷の後遺症と言うか、昔みたいに動けないと言うか」
「そ、そうですね。火傷の跡が結構酷くて、立ち直れないと言うか……」
「ルフスギルドから補償金は出たっすけど武器や装備、当面の生活費には全然足らないっす」
「私達、冒険者をこれからもやって行けるのか不安になっちゃって……。筋肉は落ちていくし、顔だって爛れて女として見てもらえるわけもないし。冒険者をやる意味があるのか最近わからなくて……」
『赤光のルベウス』さん達は皆、心に深い傷を負っていた。
全員が体に大火傷を負い、綺麗に治らず、痕になってしまっていると言う。
女性にとっては辛いのが現実だ。ただ、このまま廃れていても何にもならない。僕が声をかけようとした時、ミルが声をあげた。
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