初めての贈り物
「え、えっと……。神様が選んだみたいだけど、その、いつか指にはめる輪っかを飾れる品らしいよ……」
「う、うぅ……。うぅぅ……。うわぁ~ん!」
ミルはネックレスをぎゅっと握りながら胸に当てて大きな声で泣き出した。
「え、ええ。ちょ、ミル。何で泣くの。やっぱり装飾品が付いていた方がよかったかな。僕の首に着けてるネックレスに似た品の方がよかったかな……」
「嬉しすぎて泣いてるんですぅう。うわぁ~ん! うわぁ~ん! 神様からの贈り物がこんなにうれしい物だなんて思いませんでしたぁ。うわぁ~ん!」
ミルは大いに泣き、嬉しがっていた。神様も長時間選んだ甲斐があったと言うものだ。
「ぐすん……。キースさん、ぼくの首に着けてください……」
「う、うん」
――大丈夫。大丈夫。ミルが寝ている間に紐で長さを調べておいたから完璧に合うはずだ。
僕はミルからプラチナのネックレスを受け取り、金具を外して紐状にしたあと、ミルの細い首にかけて金具を付ける。すると完璧な長さで作られており、とても綺麗だった。
「はわわ……。す、すごい。ぼくが首飾りを付ける日が来るなんて……。神様、ありがとうございます。ぼく、一生大切にします」
ミルは両手を握りしめて神様に祈っていた。とても純粋でいい子だ。幻想を壊してしまわないよう、僕は最新の注意を払わないと。
「キースさん。今日の仕事はどうするんですか?」
「今日は聖誕祭だから、仕事はお休みだよ。だから、知り合いの冒険者さんが入院している病院にお見舞いに行こうと思う。良い葡萄酒でも持って行ってお祝いしてあげよう。ほら、お金は結構あるし」
僕はアイクさんから教えてもらった良いワインとチーズの組を装飾した箱を持ち、ミルに見せる。
「そうですね。皆さんが聖誕祭を祝っても罰は当たりません。えっとキースさん。お見舞いが終わったあとは……」
ミルは手をモジモジさせて、物欲しそうな瞳で僕の方を見てきた。どうやら久しぶりにしたいことがあるらしい。
「うん。デートしようか。えっと道順とか全然考えてないし、ただ街を歩くだけなんだけど、それでもいいかな?」
「はい! もう、キースさんと一緒にいれるだけで充分幸せなので、ぼくは一向に構いません!」
「はは、凄い熱気。じゃあ、デートの前に領主邸にもよっていいかな?」
「領主邸ですか。別にいいですけど……。どうして領主邸に行くんですか?」
「シトラにも贈り物をと思ってさ。渡してくれるかはわからないけど一応ね……」
「ぼくの時と同じ箱……。あと、シトラさんって一五歳ですよね。成人しているじゃないですか?」
「あ、いや……。これは……。た、たまたまだよ。たまたま……」
ミルはジト目で僕の方を見る。僕は笑って誤魔化し、ブローチが入っている箱を抱える。
「じゃあ、ぼくは服を着替えますね。下着もキースさんがくれたちょっとエッチなやつにしようかな~」
「わ、わざわざ言わなくていい。僕は先に調理場に行ってるから、準備が終わったら来て」
「わかりました!」
僕は高い紳士服を着て黒卵さんを背負う。革袋を少し手直しして背負い袋にした。この方が使いやすいと思ったのだ。武器はもっておこうと思い、アイクさんから貰ったダガーナイフを上着の下に隠してある。
僕はアイクさんのいる調理場に入り、椅子に座った。少しすると、ボサボサ頭で寝間着の状態のミリアさんが入ってきた。
「ふわぁ~。今日も冷えるわね……」
「おはようございます、ミリアさん」
「ああ、キース君おはよう。いやぁ~、今年の聖誕祭が盛大に行えるのはキース君のおかげだよ。ありがとうね」
「いえいえ。僕はブラックワイバーンとロックアントの女王を狩っただけですから」
「いや、それがすごいんだって……。謙遜しすぎだよ、キース君……」
「そう言われても、僕の性格なんですから仕方ないじゃないですか。今日は珍しくルフスギルドもお休みなんですよね」
「まぁ、聖誕祭と年明けくらいはお休みにしないと、ギルドの仕事なんてやってられないよ。はぁ~、でも今日は聖誕祭か。色々と楽しみだな~。ね、アイクさん」
「俺はいつも通りに過ごすだけだ。と言うか、今日はミリアが接客だからな。さっさと着替えて来い」
「ふぇ……。ま、まさか、聖誕祭も仕事する気なの……」
ミリアさんは物凄く引いていた。
「当たり前だ。聖誕祭の日に料理屋が仕事をしなくてどうする。キースとミルは休みだ。そうなったら休みのミリアに頼むのが普通だろ」
「わ、私達もデートとかしないんですか?」
「何でそうなるんだ。結婚しているんだから必要ないだろ。それとも今の関係に不満でもあるのか?」
「ふ、不満は……ないけど」
ミリアさんの頬は少々赤くなり、アイクさんも頬が赤い。薪ストーブが熱すぎるのだろうか、それとも、ただただ二人がお熱いだけなのか……。
僕の目の前に目玉焼きとベーコン、サラダ、コーンスープ、パンが二つずつ並び、少々待つ。五分ほどして服を着替えたミルがやってきた。
「お待たせしました。どうですかね?」
ミルはクリーム色のセーターに黒と赤色、黄色の生地を使ったチェック柄の短いスカート、むっちりとした脚には黒のタイツを着ており、以前買ったコートを羽織っていた。首には先ほど着けてあげたプラチナのネックレスが見えている。
「な……。み、ミルちゃん……。それは……、プラチナのネックレスなのでは……」
「はい! キースさん……、じゃなくて神様から貰いました! 聖誕祭の贈り物です!」
「こ、こんな高い品を神様、よく贈ってくれたね……」
ミリアさんは僕の方を見て苦笑いしていた。どうやら僕が購入したと知っているらしい。
「むふ~。良い感じです!」
ミルは椅子に座り、機嫌がすこぶるよかった。僕達は食事を終え、贈物を持ってアイクさんのお店を出る。
「キースさん、ぼくは昨日とどこが違うと思いますか? ヒントは顔ですよ」
「え? そうだな……」
僕はミルの顔を見た。昨日と違う部分は化粧をほどよくしているくらい。
もとから眼は大きいし、肌は白いし、化粧なんてする必要もないくらい綺麗なのだが、強いて言うなら唇がいつも以上に艶やかでピンク色が増しているような気がするくらい。だが、言ってもいいのだろうか。特に意識している訳じゃないが唇を指摘して違った場合、見ていたと思われる。でも、唇意外に変わっている部分がわからないので正直に言う。
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